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滞仏日記「三四郎に元気が戻った。こんなことで一喜一憂する父ちゃんの犬愛」 Posted on 2022/02/07 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日は尻尾をふらなくなって、心配させた三四郎だが、今日は、ぼくが起きて行くと、暗闇の中で忠犬ハチ公のように、オスワリしてぼくを待っていた。涙。
ぼくだとわかると、そわそわしはじめ、尻尾を激しく振りながら、椅子にジャンプしたり、ぼくの周りをぐるぐると駆け巡ったり、しまいには、ぼくの膝、腰、腹のあたりまで飛びあがってきた。
「よしよし、元気が戻ったのか、あら、くちゃい」
見ると、ハウスの前のシートの上に特大のポッポ(カカはうんち、ポッポは仏語で赤ちゃん言葉のカカのことなので、皆さん、ポッポでいきましょう。笑)とピッピ(おしっこ)をたんまりとしていた。にゃはは。
快便というやつであーる。
でも、父ちゃんは嬉ピィ。
実は、昨夜、息子が「夕飯は帰ってから家で食べる」と言い残して夜に出ていき、朝8時に戻ってくるという、コロナ禍の大愚行をやりやがった。
(学校の成績で合否が決まる大学もあるというのに、感染して隔離になり、定期試験が受けられなければ成績が下がることを想像できないのか、・・・バカ者め)
いや、出かけてもいいし、友達と会ってもいいけど、朝帰りは、よくないね。
どうやら、友達の家で(親が不在中、フランスのパターンです)仲間たち数名と過ごしたらしいのだけど・・・。
とりあえず、三四郎のことも心配だったので、まずは、三四郎の世話をしてから、落ちついて、みっちりと怒ってやることにした。
18歳はこの国ではもう大人なので、ここからは自己責任でお願いする。いつまでも、お坊ちゃんでは生きていけないのだから、しっかりしろよ、なのであーる。
三四郎が、くすっと、笑った気がした。
ありゃ、子犬のお前の方が賢かね。

滞仏日記「三四郎に元気が戻った。こんなことで一喜一憂する父ちゃんの犬愛」



NHKの制作会社のLさんから(最近、音沙汰がなかった。今、絶賛、編集中で忙しいのであろう)、番組で使う三四郎のイラストが届けられた。
お見せしたいけど、今はまだできない。これがめっちゃ、可愛いのだ。
な、なんと、ぼくと同じハットをかぶっている。ハッとした。笑。
やるなー、Lさん。
「これ、ステッカーにしてもいいですか? ついでに、そちら、編集、どうですか? 順調ですか?」
とメッセージを送ったら、
「一時間の尺の中に納まりきれないので、カットするのが心苦しくて」
みたいな、いっぱい依頼しておいて、何をいまさら的なお返事を頂いてしまう。
放送日はわからないが、近々、NHKBSで放送されるはずで、日本の製作チームは大忙しのようだ。こっちは、今月、撮影チームで打ち上げやろうね。
去年の秋の終わりにニースから撮影をはじめ、一月末のドルドーニュ県でのトリュフ狩りで撮影が終わったのだが、その間に、クリスマスがあり、正月があり、息子の18歳の誕生日あり、もちろん、ぼくの田舎も孤独に自撮りし、コロナの感染大爆発もあり、いやはや、大変であった。
しかも、今回はたくさん、料理をしたので、たぶん、入りきらない。料理をこぼしたら、覚えておけよ、Lめ・・・。
Lさんは相変わらずで、こんなにぼくが大変な撮影をしているのに、
「辻さん、冬と言えば、煮込み料理だから、一つはお願いしますねぇ」
とのんきなメッセージが届き、ぼくは自分の田舎の家でハンガリーの名物煮込み料理のグーラッシュを撮影してとっくに去年送っていたので、
「え? ちゃんと見てますか? 送ってますけど」
と軽ーく嫌みを言ったら、しばらくラインが来なくなった。
ま、それはいつものことなので、よいとして、・・・。
その中でも、急にぼくの前に出現した三四郎との運命的な出会いもばっちり収録することが出来たことは、不幸中の幸いであった。
「ボンジュール、辻仁成のパリの冬ごはん」
個人的に老後の楽しみが一つ増えた。もう老後だけど、えへへ。
いつだろう、放送日。
いつも、気がつくと放送日解禁になっているのだけど、それまでは絶対言っちゃダメと言われて、口を塞いでいる父ちゃん。
こちらが宣伝する気になった時には、放送日前日とかで、実に、もったいない戦略だなァ、と思うけど、Lさんだものね…仕方ない。
皆さん、お楽しみに。

滞仏日記「三四郎に元気が戻った。こんなことで一喜一憂する父ちゃんの犬愛」



この番組は、去年の春ごはん、秋ごはん、からの続・続編になるのだけど、正直、こんなに続くとは思わなかった。
でも、息子も成人したし、辻家には三四郎という新しい家族がやってきたので、最終回にふさわしい出来栄えになっていればなァ、と期待はしている。
三四郎の人生はまさにこれからなので、ぼくは一喜一憂する間もない。次々にやってくる犬育ての難問と、息子を社会に送り出す親としての責務との板挟みの日々・・・。
今日は、雨の中、一時間ほど散歩をし、そのあと、三四郎を風呂にいれ、シャンプーでキレイキレイしてやった。
獣臭がちょっと消えていい匂いになった三四郎と日曜日なので、家遊びを楽しんだ。
尻尾? 
今日はいつも通り振れ幅大きく、ぼくも嬉しい。
やはり、慣れない大都会に出てきて、特にオートバイやゴミ収集車のノイズが苦手なようで、この2週間はパリを知るいい勉強の日々になったことは間違いあるまい。

滞仏日記「三四郎に元気が戻った。こんなことで一喜一憂する父ちゃんの犬愛」



ところで今日、ぼくらは新しい遊びを思いついた。
それは小型のペットボトルをボールがわりにしてやる、ボトル・サッカーだ。
エビアンの最小ボトルが子犬には(噛みきれないし)ちょうどいい。
これを蹴とばすと、三四郎が追いかけ、捕まえようとするのだが、ちょっと大きいから咥えられない上に、ペットボトルは床で跳ねるので、ラグビーをやっているような無軌道なボールの動きが、子犬心をとらえて離さない。
それが面白いので、飛び回る三四郎。
ぼくがそれをインターセプトして、奪い合い、これだけで小一時間は十分盛り上がる。
そうそう、ぼくは三四郎がやって来てから、毎日三回、各一時間ずつくらい一緒に散歩をしてきた。
散歩と言っても、ほぼランニングなので、ちょっと身体が引き締まってきた。
ムキムキ父ちゃんになりつつあるのだ。
今夜は国虎の野本+ミシュラン星付き巨匠シェフ2名と飲みに出るけど、オミクロン中だし、最大限の対策を行って、しずかな食事会にしたい。(三四郎も連れていきます)
もちろん、比叡山のオミクロン退散お札を持っていくよ~。えええ? そんなのあるんかい。あはは。あるんです。
じゃあ、そろそろ、出かけます。三四郎、行くよ。
「がってんだ、父ちゃん」
って、言うわけないよね~。笑。

つづく。

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