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退屈日記「夜のエッフェル塔を散策するのがぼくらの愉しみなのである」 Posted on 2022/02/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ちょっと足を延ばし、夜(22時)、三四郎とエッフェル塔の周辺を散歩した。
ぼくは時々、落ち着かなくなるとエッフェル塔を見上げに行く。
三四郎のリードを引っ張って、黙々とエッフェル塔を目指すのだ。
夜だとほとんど車も走っていないので、大通りを二人で渡ることもある。
見晴らしのいい場所があって、とりあえず、そこを目指す。
三四郎は光線を出すエッフェル塔が気に入ったみたいで、ずっと見上げている。
ぼくもその横で同じように見上げている。

退屈日記「夜のエッフェル塔を散策するのがぼくらの愉しみなのである」



「夜の滑走路」と名付けたエッフェル塔の公園に沿って伸びる道があり、そこはかつて、この20年間、ぼくにとってはランニングコースの一部であった。
直線が200メートルくらい続く場所があり、そこでダッシュをするのだ。
今は、そこを三四郎が走っている。
三四郎もここを走るのが好きなようで、彼を疲れさせるのにちょうどいい。笑。
疲れると夜はぼくを求めないで、勝手に寝てくれるから、疲れさせないとならない。
200メートルのダッシュは犬も疲れるが、ぼくも疲れる。
三四郎が来て、一日2,3時間は散歩に時間を費やすようになり、しかも、毎晩、一緒に走っているので、健康的になった。
筋肉痛はひどいけど、笑。

退屈日記「夜のエッフェル塔を散策するのがぼくらの愉しみなのである」

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エッフェル塔は一時間置きに「シャンパンフラッシュ」をするので、ぴかぴかと輝く時は三四郎を抱っこして一緒に眺める。
今日は残念なことにシャンパンフラッシュの時間にはぶつからなかったけれど、近々、右岸に渡り、トロカデロ宮殿前から2人で眺めてみたい。
渡仏20年、ぼくは今もまだここにいて、新しい家族の三四郎とエッフェル塔を見ていることの不思議を思う。
でも、変わらないこの鉄の貴婦人はぼくを毎晩癒してくれるのである。

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