JINSEI STORIES

退屈日記「父ちゃんはこうやってストレスを発散している」 Posted on 2022/01/05 辻 仁成 作家 パリ

田舎のアパルトマンに足繁く通っている理由の一つに、パリのアパルトマンでは思う存分ギターを弾けないばかりか、歌も歌えないからなのだ。
長引くコロナでぼくもストレスを抱えている。
この精神的苦痛をいくらか減らすためには、音楽療法が一番。
ところが、引っ越した直後、歌っていたら、下のムッシュがやってきて、「申し訳ないが、あなたの音楽は好きなのだけど、朝から晩まで弾かれるとぼくも自宅で仕事をしているので、集中できないんだ。よければ、ランチ時とか、短い時間にやってもらえると助かるのだけどど」と笑顔で、忠告された。
笑顔なのだが、ものすごく怒ってるのが分かる、紳士らしい文句の言い方で、すまないねー、と言いながら、弾くなよ、という強硬なメッセージでもあった。笑。
パリのアパルトマンの上の住人たちはみんな音楽が好きで、「聞いていて楽しい」と言ってくれるし、ライブまで来てくれるのだが、下のムッシュはそうじゃない。
音楽をやる者として、たとえ一人でも嫌な人が近所にいるとわかれば、萎縮するし、その人に嫌な思いをさせるのがぼくの音楽の本意ではない。

田舎にアパルトマンを見つけた時、「ここだ」と思ったのは、屋根裏部屋であったこと、そして館の住人はセカンドハウスとして使っている人が多く、ほぼ、誰もいないこと。
村なので、左右前後、隣の建物との間には100メートルの間隔があり、夜中でも演奏が出来るという利点があった。
実際暮らしだすと、下の階のカイザー髭さんは元オルガニストで、大のロックファン。
「いくらでも、好きな時に弾いてよ。ぼくらの寝室は端っこだから、海側の部屋で弾けば夜中でも聞こえないし」とおっしゃってくれた。
なので、ぼくは海側の角部屋を仕事場兼ねる練習スタジオにしたのであーる。
そこで、昨日、収録した練習風景をインスタにアップした。
思いきって、演奏出来ているのが分かって頂けるであろうか?
ギターを弾いている時は、笑顔になる。苦しいことはその瞬間、忘れられる。音楽は本当にエネルギーの源である。
まずは、ご視聴頂きたい。



不眠症で、シングルファザーの父ちゃんにとって、このYAMAHAのギターは孤独を癒す、コロナ禍を乗り切る、心強いパートナーなのである。
いつやれるかわからないけれど、コロナが落ち着いた先に待ち受けるコンサートに向けて、ぼくの練習は続く。
この練習には理屈がないのが素晴らしい。ぼくは音楽が好きだ。
一つでも、こうやって、そこに集中できるものがあって、良かったと思う。趣味のないぼくにとって、音楽は自分を保つためのパートナーでもある。
早く、ライブがやりたい。一日の感染者数が30万人に達しようというフランスなので、しかし、必ず落ち着く日は来るはずだから、来春以降を楽しみに、今は練習に精を出してまいりたい。

つづく。



自分流×帝京大学

そして、編集部からのお知らせ。
2022年1月16日の地球カレッジは、ムーケ・夕城さんが経営するトリュフ農園で、辻仁成が初トリュフ狩りに挑戦することに・・・。
ご興味のある皆さま、オンライン・ツアーにご参加ください。

ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。

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※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。