JINSEI STORIES
滞仏日記「巨大なコロナの波に飲み込まれたフランス。父ちゃんは鬱っぽい、大ピンチ!」 Posted on 2021/12/30 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、まいど、パリ特派員の父ちゃんであーる。
二日前、一日の感染者が10万人を突破したばかりのフランス、今日、20万人を軽々と超えてしまった。
カステックス首相が「一月の頭には25万人になるのを防ぐために」と昨日新たな制限を宣言した直後なのに・・・。
すでに津波級の波に飲み込まれたフランス、なんと、一秒に二人の陽性者が出ているというのだから、気分が滅入る。ということで今日は朝から不眠症に鬱っぽい気分が加わって、また、大掃除が出来なかった・・・。←言い訳であーる。
英国が12万人くらいで高止まりなのに、フランスのこの倍々ゲームの根本理由がめっちゃ気になって仕方ない。
外を眺めると多くの人がマスクをしている。
この感染力は今までに経験したことない強さと速度である。
「何も手を打たない政府が悪い」という人も出てきた。
実は、フランスは二つの波に襲われている、とオリビエ・ベラン保健相が発言した通り、恐ろしいことに、デルタとオミクロンの二つの巨大台風が同時に上陸している状態なのだそうだ。
オランダのロックダウンを笑っていた仏人たちも言葉を失いつつある。
ついでに、年末のこのタイミングで過去最高の勢いで急拡大する新型コロナを前に、打つ手なしの状態、・・・じっとピークアウトを待つしかないのだから、台風に傘をさしているような気分になっても仕方ない。
シングルファザーな父ちゃん、受験、雷、火事、コロナ・・・。息子に、「頼むからしばらく出歩かないでほしい」とお願いをした。
でも、3日から学校が再開されてしまうじゃないか・・・。やれやれ。
そうこうしているうちに、ぼくの友人家族が感染をした。
まず、次男君が23日に陽性になり、その翌日、長男君が陽性・・・。
2日前に奥さんが陽性になり、ぼくの友人はかろうじて陰性なのだけど、年齢がぼくよりもずいぶんと上なので、今は会社の近くのホテルで一人「逆隔離」状態なんだとか。
感染力が強いので、家庭とか会社とか、密閉された空間でどんどん広がっている。
もっと早く科学的なデータを出して貰えないかと気を揉んでいるところだ。どういうメカニズムで、一秒に2人の勢いで感染していくのであろう。
素人的に疑うのは、空気感染だけれど・・・、そうならば逃げようがない。
英国人の友人がパリに来て、仏人はこんなにマスクするようになったのか、と驚く、それくらい、フランス人のマスク率が高くなった。
ちなみに、窓外を見ていると、外を歩いているのに、うちの周辺の方々はほぼ、マスクを付けている。じゃあ、どこで、どのように感染していくのか・・・。
昨日、行ったレストランで、隣にいる家族はマスクをしたまま、食事をしていた。食べる時だけずらして、食べたら、マスクを戻して、もぐもぐ・・・。
ぼくは衝撃だった。こんなの人類のあるべき姿じゃない・・・。世も末である。
「たぶん、軽症だから、オミクロンだと思うな」
と友人の奥様はメッセージを送ってきた。(実は、オミクロン株は軽症と言われているけれども、数が多ければ、それだけすそ野が広くなり、結局、重傷者の数はデルタと変わらなくなる、という意見のお医者さんもいる。そして、数が多ければ医療崩壊にもつながると・・・。とにかく未知の部分が多い)
「息子さんたちも?」
「ええ、そうよ。で、23日に感染した次男は昨日、陰性になった。一日遅れで陽性になった長男は体調も戻ったので、今日、セルフテストをしたら陰性。明日、薬局で正式のテストさせます。ホテルで滞在している夫も、陰性だって。なので、おとといから陽性になった私だけがまだ感染している状況かな。でも、風邪より早く終わりつつあるような・・・」
「オミクロンかどうか、わからないけど、その感染力だとそれっぽいね。体調は?」
「熱が37度あり、関節がいたい」
「それ、三度目のワクチン接種後のぼくの副反応と一緒だね。37度か、ずっと?」
「ええ、それ以上には三人ともならなかった。ただ、怠い、感じね、でも、掃除とかは普通にできているのよ。年末だから、部屋を片付けないと」
「やめときなよ、陽性なんだから、悪化したらどうするの?」
「でもね、ムッシュ。私の周囲で感染した人も、なんか言い方は変だけど、風邪が流行る感じに似てるね、とみんな言ってるのよ。知り合いで重症化した人はいないし。みんなワクチン打ってるから、軽症で済んでる」
「皆さん、三回接種済み?」
「ええ? 主人もよ」
「じゃあ、あいつ、ホテルで寂しく過ごしているんじゃないかな」
「出歩いてないといいのだけど・・・。でも、新年は家族で迎えたいから、年内に完治させなきゃ。がんばります」
そう言ってマダムは筋肉のスタンプを送ってきた・・・。
実は「ボンジュール、パリごはん」でご紹介をした八百屋のマーシャルの店も、店員全員が陽性になり店を閉めていたのだけど、約一週間で、全員陰性になり、再開している。
マーシャルが野菜を担いでいたのが見えた。怖いので道の反対側から、
「だいじょうぶかァ~」
と声を張り上げたら、両手を振って、
「みんな復活したよ。ありがとう。君の好きなプンタレッラ(イタリアの野菜)が入荷しているけど、どうする?」
と言われたけど、笑顔で、「今日はやめとくわ」と遠慮した。
来年、様子を見て、オミクロン様が温暖低気圧になる頃に、カメラを持ってその時のことを取材したい、と考えている特派員の辻ちゃんであった。
2020年の3月17日のロックダウンから、思えば、デザインストーリーズでは、欧州のコロナ事情を現地の目線で発信してきたけど、この感染力と勢いは今まで経験したことのない破壊力と風速がある。
でも、同時に、病院に担ぎ込まれたり、亡くなられた人はぼくの知る限り、周囲にはいない。
2020年3月当時の方が感染者は周りにはいなかった。その一方で、どんどん人が亡くなっていた。
それはつまり、ワクチンもまだなかったし、感染すると死に至る可能性のある病だったが、一方で。感染力が今よりも弱かったのが従来型であった。
今、重症化してICUに運び込まれるのは、打つのを拒否している人(フランス全土で600万人いるといわれている)、そして、基礎疾患のある人たちということになる。
しかし、ワクチンを接種している、ぼくの友人のように三回接種していても、スルーっと罹ってしまう人も大勢いるので、間違いなく、罹ることは前提となった。
でも、ワクチンのおかげで、軽い熱で終わっていく人が多いのも、ある種のパターンなのかもしれない。
それはオミクロンが弱くなったというより、みんながワクチンを打っているからだろうし、まだ、よくわからない・・・。(インフル並みにきつかったわよ、という日本人のマダムもいたから、全員が軽いわけでもない。でも、そのマダムも重症化はしなかった・・・)
ここは、科学者の皆さんに、しっかりしたデータを一刻も早く出して貰いたいところだけど、なかなか、こうだという強い結論が出てこないところを見ると、やっぱり、まだわからないことがたくさんあるのだろうなァ、・・・。
なので、迂闊にオミクロンは風邪、と決めつけることは危険なのであーる。
そんな中、ぼくの知り合いのお医者さんがやはり感染をした。
そういう医師や看護師さんが次々感染しているので、医療現場でほかの患者さんへの影響が出始めている。
いくら風邪のような症状であっても、当然、罹れば病院業務はできない。
飛行機のパイロットさんも同じで、パイロットがいなければ、欠航が続く。
感染力が強いだけでも、これほど、人類に被害が出る。
オミクロンは今のところ、二次災害の方が、世界に与えてる打撃は大きいような、・・・。
新しい情報をしっかりチェックし、みんなで気を付けたい。
パリ最新情報で、続報を・・・。
つづく。
※ そして、お知らせ。
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