JINSEI STORIES
退屈週末日記「朝の五時にクスクスを作りながら、キッチンで弟と長電話」 Posted on 2021/12/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ワクチンの三回目の接種のせいで、熱、関節の痛み、軽い吐き気、怠さ、悪寒などの風邪と同じ症状に見舞われた父ちゃん。
過去、二回はぜんぜん平気だったので、ちょっとびっくりした。
知り合いの救急医の先生も「三回目はきつかった」と言っていたので、用心はしていたけど、三回目を接種される方は、無理なスケジュールを組まないように、お願いします。
って、書いておきながら、朝の5時にぼくが何をしているかというと、クスクスを仕込んでいるのである。
早めにベッドに入ったのだけど、眠れないし、息子は誰かの家に遊びに行き、戻ってこないし、やることがないので、土曜日はちょっと寝込んで楽をしようと思い立ち、2時過ぎから、北アフリカの煮込み料理「クスクス」を作り出した、父ちゃんであった。
というのは、これさえ、作っておけば、週末の息子の食事の心配はいらない、と思ったからである。
昼には中島君ことエリックがやってきて、(今年最後の)部屋の掃除をしてくれるので、ぼくはごろごろしていればいいのであーる。
1時過ぎに、息子が帰ってきた。コロナが大流行しているのに出歩くな、と叱りたいところだけど、ま、彼らも青春を犠牲にしてきたので、多少のことは多めに見ないとならない。感染だけ気を付けてもらいたいので、FFP2マスクを持たせたから、ま。大丈夫であろう・・・。
2時、熱が下がり、悪寒が治まったので、起き上がり、キッチンに向かった父ちゃん。
羊肉を切り、さらに人参とか、クルージェットとか、大根をカットして、煮込みはじめたのであった。
今回は、ダットというモロッコの果物(甘い)と、ひよこ豆もいれた本格派なのであーる。
どうせ、寝れないのだから、時間がもったいないって、こういうところが、ぼくのいけないところだとはわかっているのだけど、眠れなくてベッドでもんもんとしているよりも、キッチンで料理をしている方が気が楽というものだ。
料理だけだと、退屈なので、博多の弟に電話をして、一時間くらい長話しをしてしまった。
弟と話しをしたのは、事務所の今後についてとか、もろもろ・・・。
急逝した菅間さんのパソコンのパスワード問題とか、パソコンをどうやって福岡に運ぶか、とか、みつからないいろいろな書類のこととか、菅間さんがいなくなって、その悲しみがまだ消え去らない中、それとは別に生きている人間には生き続けないとならない仕事があった。
書類を探したり、パスワードを考えたり、結構、忙しいのだった。
「母さんは元気か」
「うん」
「美味しいもの食べさせてやってくれ。菅間さんにももっと美味しいものを食べて喜んで貰いたかったのが後悔だから、母さんに、好きなものを」
「うん」
「今度、クスクス、作ってやってくれよ」
「クスクスって何?」
「北アフリカの煮込み料理だ。レシピ、送るから」
「OK」
弟がいてくれて、本当にありがたい。
二歳年下だけど、あいつが母さんの面倒をみてくれるおかげで、ぼくは自由に仕事ができる。家族に感謝だな、と思った。
でも、そのうち、あいつは一人になって、どうするんだろう、とも思った。ぼくも、どうするんだろう、・・・笑。
「クスクス、作ったら、写真、送れよ」
「わかった。やってみるよ」
有難い存在である。母さんには菅間さんの分まで長生きをしてもらいたい。
そして、5時43分に味見をしたら、めっさ、うまくて、思わず一食食べてしまった、父ちゃんでありました。あはは。
もう、元気です。
ちょっと、和風にしたクスクスのレシピはこちら、美味しいよ、この週末、やってみてくださいね。 ↓
https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-2408/
つづく。