JINSEI STORIES
父ちゃんの料理教室「自炊する息子の食生活習慣はどうやって出来上がったのか」 Posted on 2021/12/13 辻 仁成 作家 パリ
62歳のぼくは、17歳の息子とそもそも同じものを食べるのがきつい。
彼がどんどん大きくなっていくので、それにあわせてチカラめしをこしらえてきたのだけど、ぼくはもう、ほとんどそういうコストな食べ物は口に入らなくなってしまった。
親子で別々のものを食べるようになるのも当然である。
45歳も年の差があるので、それは仕方がない。
まだまだ育つはずだから、背を伸ばすような料理を心がけている。
彼が生まれて今日までぼくは添加物系のものは出来る限り(ほぼ)料理にはつかってこなかった。
そうなったら、どうなったかというと、この子はソースをかけないでおかずを食べる。
塩胡椒はほぼ使わない。
面白いことに、魚に醤油もかけないし、お肉にも何もかけない。驚くべきことにサラダは、野菜をそのまま食べる。
時々、オリーブオイルをかけていることもあるけれど、ぼくの大好物のふりかけなど、かけない。
ぼくがお蕎麦を塩(フラー・ド・セル)で食べていると、「塩かけすぎ」と怒られる。
こんな風に育ってしまったのにどんな要因が考えられるのだろう。
ちなみに、コーラは滅多に飲まない。
100%の林檎ジュースか水だけを飲んでいる。
たまに、お茶を飲む。緑茶、紅茶は好きみたいだ。
しかし、なぜ、こんな高齢の人のような食べ物を好きになったのか、はわからない。
一時期、肉も食べないと言っていたけど、最近は再びお肉だけは食べるようになった。
しかし、食べる量はもの凄く多い。
しかし、ぼくが田舎に行っている間は、スーパーで売ってる冷凍食品などを大量に買い、冷蔵庫に入れて出るのだけど、家に戻ると手つかずで、自分で料理をしている形跡がある。
何、作って食べたの? と聞くと、パスタとか、ごはん、と素っ気ない。
カルボナーラとか、トマト系のパスタを食べているみたいだ。
なので、今回は冷蔵庫に、出来合いのものじゃなく、割と身体に良さそうなもの、人参サラダとか、鶏肉とか、ベーコンとか、豆腐類とか、野菜とか、冷凍の魚の切り身とか、冷凍の納豆、明太子、食材を置いてきた。
そこはカエルの子なので、料理は好きみたいだ。よしよし。
ま、健康志向ということでこれは、きっと、今までの食生活の影響も多少はあるのだと思う。
たまに、「これ、変な調味料が入ってるね」と眉根をしかめて言うこともある。
(そのくせ、マクドナルドは大好き。若いだけに、矛盾もある)
※ パリの冷蔵庫の中にあった、賞味期限切れの迫る食材で作ったランチ、当然、残るので、夜に、まわる・・・
※ 珍しいので買った紫白菜でうどんを作ったら、紫いろになって、・・・味は美味しかったけれど、パープルレインを口ずさんだ。
※ なじみの漁師さんからかうと、市価の半額で買えてしまう、田舎暮らしの超メリットなり。
ともかく、ぼくは油もの、欧風料理系が、好きだけど、自分で好んで作って食べたい方じゃないので、一人の時には、油はできる限り使わない料理を接種している。
漁師が岸壁に船をつけて売ってる魚はタダ同然なので、そういうのも物色して買う。
今日はパリの冷蔵庫の中から賞味期限切れした、でも、まだ食べられるようなものを持ってきて、処理している。
一日に2度も3度も料理をすると手間暇かかるので、一度の料理をちょっと多めに作って、残りは夜とか朝につまむようにしている。
夜はもう、酒の肴程度で、すませている。
ぼくも食材はそうとうに選んでいるので、きっとぼくが年齢の割に健康なのはこういう食生活によるものが大きいような気がする。
お菓子も、クッキーとかなら、自分で作る。
そうすると、クッキー一枚に使われているバターとか砂糖の量が分かるので、食べる量も加減できるという寸法である。
素食は粗食では決してない。むしろ、礎食であり、蘇食なのだ。