JINSEI STORIES
滞仏日記「ココットを買いに食器専門店に。ウキウキし過ぎて爆買い父ちゃん」 Posted on 2021/12/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は車を飛ばして、少し遠くの人口の多い街までココットを買いに出かけた。
だいたい生活用品は揃ったのだが、冬はやはり煮込み料理が食べたくなるので、食器などの足りないものもついでに物色しようと、食器専門店に行くことにした。
結構、広い店内に、ずらりと並べられたフランス製の洋食器、これはウキウキする。
とにかく、目移りして仕方がない。
あれもいいな、これもいいな、と目が定まらないので、困った。
昨日の日記に書いた通り、この田舎にも知り合いや友だちが増えてきたので、最初は一人で食べる分の食器しかなかったのだけど、それでは足りなくなり、お客さん用のお皿とかカトラリーが必要なことに気が付いた。
足りないものを買うんだという言い訳に近い使命感を持って覗く食器屋さんは楽しい。
ココットを買うついでに、いろいろとフランスの食器も見て回れるので、さらに、超嬉しいのであーる。
まず、ココットはいろいろなメーカーの様々なサイズのものがずらりと並んでいて、さすが「おフランス」と驚いたのだけど、しかし、超高いし、お客さんが来ると言っても、狭いアパルトマンなので、置く場所もないし、結局、STAUB社製のココットの一番小さなものを買った。
一番小さいといっても、半額セール中で、114ユーロもした。(日本で売られているのをネットで調べたら、同じものが、2万円くらいだった。ん? フランスで半額セールなのに、輸入するとだいたい倍になるので、ちょっと数字が合わないような気もするけど、ま、いいか・・・半額セールということにしておく)
そういえば、急須(ティーポット)もなかったので、買うことにした。
それから、そうだ、小皿がなかったと思い出し、お客さん用の前菜とかアミューズをいれる小皿を買わなきゃ、と思ったら、にんまり。←、呼ぶ気満々じゃん、と息子に笑われそうである。ま、しゃーないね。
るんるん。
フランスの陶器や磁器(ポーセリン)って、日本のにも通じるセンスがある。
今回は6枚で15ユーロの磁器の小皿セットを買ったのだけど、艶やかな手触りとか、澄んだ色合いも悪くなかった。
他にも陶器の小皿4皿、デザートなどを入れる浅めの器も4個買った。
なんだかんだ、長いをしてしまった。あー、楽しかった。
ニヤニヤしている日本のおっさん、店員さんは不気味だったかもしれないね。
結局、一人で生きていくぞ、と思って田舎暮らしをはじめた父ちゃんだったが、やっぱり、気が付くと友だちや知り合いも増えて、家に招いて、料理を作っている。
実は、息子には見抜かれていた。
「一人で暮らすって言ってるくせに、キッチンはカウンター型のキッチンになっているし、それを囲むようにスツール椅子が4脚もあってさ、お客さん呼ぶ気満々じゃん」
そんなことないよ、とごまかしていたけど、きっと、いつかは誰かを呼んでレストランみたいなことをしたかった、形跡は確かにあった、最初から・・・。
で、現に、仲良くなった連中を招いて、フルコースこしらえてシェフを気取っているのだから、困ったものだ。
孤独になりたい、なんて言葉を誰が信じるであろう・・・。
ま、備えあれば憂いなし、ということで、準備しているに過ぎないし、いや、本当です。
でも、ぼくは昔から、料理人にあこがれていたので、自分のアパルトマンが小さなレストランみたいになるのって、素敵じゃないですか?
えへへ、やれやれ。
人気のパン屋さんでバゲットを買って、シュークリームも買って、八百屋で野菜を買って、日曜大工店で暖炉に使うバイオエタノールを買って、それから、クリスマス用品を買いに、今度は家具雑貨屋に立ち寄った。
すると、そこは、ちょっと可愛いお店で、クリスマス用品はもとより、小物が所せましと溢れていたのである。
おお、ウキウキ、ワクワクがとまらない。
高級品店ではなく、小さなIKEAみたいな、リーズナブルなお店なのだ。
田舎のアパルトマン、家具はだいたい揃っているのだけど、そういえば小物がほとんどないのが寂しかった。
姿見もないし、入口なんかに小さなカーペットもほしい・・・。
自分色に染めなきゃならない。
こんな風に、今日は買い物で一日が過ぎてしまった。
帰りに肉屋さんに立ち寄り、ブルギニヨン用のお肉を買った。
さっそく、ココットを使いたくなったからである。
ちょっと多めに肉を買った。
田舎に滞在している間、毎日、少しずつ、食べればいい。
そもそも、ブルギニヨンとかグーヤッシュのような煮込み料理は二日目以降がおいしくなるので、少しずつつまんで、食べごろになったら、がっつりと食べればいいのだ。
そうだ、それがいい。
大量に作って、パスタにしたり、パンで食べたり、最後はカレー粉をいれてビーフカレーにしたり、おっと、ならば、赤ワインが必要だった、と気が付き、ワイン・カーブへと向かった、一人でも楽しく生きていける心強い父ちゃんであった。
さて、息子は何を食べているのであろう・・・。
つづく。