JINSEI STORIES
リサイクル日記「クマ会議に参加をしたら、彼らが教えてくれた、人間らしい生き方」 Posted on 2022/12/24 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、眠れなくて、お気に入りのクマさんたちのぬいぐるみをツイートしてみた。
このクマたちの写真は、とあるホテルの会議室を覗いたら、こうなっていたのだけど、ぼくはその時、コロナとか戦争とかでこんなに苦しんでる世界だというのに、この会議室ではいったい何が起こってるんだ、とここにクマたちを並べた人のことを想像し、笑いだしたものであった。
それから、これはただ事じゃない、と思って、慌てて数枚写真を撮影したのだった。
なぜなら、そこはホテルの、誰かが気楽に覗くわけでもない会議室なのである。なぜ、このようなセッティングになったのか、しかも、このクマの巨大なぬいぐるみを、どこから持ち込んだのか、その上、こんな風に並べて、しかも、腕組みとかさせているし、この創作者の人間性に、微笑みが誘われ、いいホテルじゃんか、と思った次第であった。
もちろん、クマが何らかの理由でそのホテルにあったのかもしれないし、会議室が殺伐としていたので、その人は上司に報告し、ちょっと楽しい会議室を作ってもいいか、と申し出て、その上司も、フランス風に、頬杖とかついて、あー、ウイー、いいんじゃないのー、となったと考えたら、日々の苦しみが一瞬和らいだ。
ぼくは写真を撮影しながら、そのクマたちがここで何について会議をしているのか、が次に気になりだし、コロナ禍だし、戦争だし、人間界は大変だろうし、やってられないに違いないわけだけど、知恵出し合って、観光業をもりあげようぜ、という話しになったのじゃないか、と思ったら、もう一度、とっても嬉しくなったのである。
ユーモアを侮ってはいけない。笑いのある人生こそが、人生の、大きな突破口になる。
ともかく、人間のユーモアの素晴らしさを大事にしたい、と思ったので、日記に記しておきますね。はい、チーズ!!!
で、さっき、ぼくはこれをツイッターにあげてみた。
すると、あっという間に反響があったので、同じく、インスタにもあげたら、インスタの方がビジュアルメッセージ受けがいいからだろう、「いいね」がいっぱいついてしまった。
クマさんたちはどんな会議をしているでしょう?
と小さな質問も添えてみたのだけど、皆さんの想像力の幅広さにもまた微笑みを誘われてしまった。
そこでぼくが思ったのが、仮に今が第二次世界大戦の真っただ中だとしても、人間は笑いや、幸福や、美味しいや、楽しいや、かわいいは大切なのだ、ということ・・・。
むしろ、そういう時代だからこそ、ぼくらは人を励まし、笑わせ、楽しいことにも気持ちを傾け、歌い、語らい、それはたとえばオンラインだったとしても、大事なことなんじゃないかな、と思った次第なのである。
当たり前のことなんだけど、当たり前がなかなか難しい時代だから・・・。ユーモアを大切にね!
そんなことを思っていたら、ぼくの目の前にいた議長のクマさんが、
「辻さん、その通りだよ。ぼくらはだから、今、コロナ禍の中でどうやってたのしく、クマらしく生きていけばいいのか、知恵を出し合って、議論しているんだ。よければ、参加しませんか? あなたの貴重な意見がほしいなァ」
と言った、ような気がしたのである。
「ええ、もちろん、オブザーバーとして参加させてください。なにせ、クマのぬいぐるみの世界のことはまだあまりよく知らないもので。ぷー」
とぼくが言った、気がすると、そこに参加していた各クマ国の大統領たちが大笑いをして、
「なかなか、人間のくせに、面白いことを言うやつだ」
と褒めてくれたのであった。あはは・・・。
ということで、皆さん、今日を楽しい一日にしましょう。
どんなに苦しい時であろうと、心の中は晴れがいいです。
寂しい時には、このクマさんたちのことを思い出してください。
つづく。