JINSEI STORIES
滞仏日記「Lさんが送ってくれた生活物資が辻家を救う。Lさんはサンタか」 Posted on 2021/11/26
某月某日、パリに戻ると、あと5分で荷物をお届けします、とどっかの運送会社さんから、SMSが入った。
実はここ最近、パリの運送事情が相当に悪く、南仏のデビッドからの荷物は届かないし、自分の本の見本さえも着かない。
出版社が3回も送っているのに、一度しか届かなかった。ひどい有り様なのである。
昔からパリの郵便事情はひどかったけど、今年は、最悪・・・。これも、コロナ禍の影響だろうか?
「はい、そこに置いといてください」
「持ってあがりますよ」
「いいんですか? エレベーター無しで、4階ですけど」
「あ、ここに置いときます」
運送屋さんはそう言い残して消えた。
ぼくは毎日、2,3回、こうやって階段を上り下りしている。
そのおかげで、ものすごく足腰が強くなった。
田舎のアパルトマンもエレベーター無しの5階だから、毎日、トライアスロン状態だ。
荷物は東京からで、制作会社のLさんからであった。
なんだろう、・・・小包をあけたら、中から、食材がドサっと出てきた。
わあああ、すげー。
※ この中央の魚沼黄金餅というのが、はじめてで、めっちゃ気になる。正月を無事に越せそうだ・・・。
いわゆる日常生活用品であった。
ぼくの好みをよく知り尽くしているセレクションなのである。
日本からパリに帰る時にいつも買ってるようなものばかりが、完璧なまでに詰め込まれていた。ストーカー?
嬉しかったのは、鰹節とか、利尻昆布の切り落としとか、昆布茶、蕎麦茶、ふりかけ、カリーせんべい、ワサビとか、お茶漬けとか、・・・他にもいろいろな食材が入っていた。
日本食の大ブーム以降、買えない食材は減ったけど、やっぱり、お蕎麦でも、十割蕎麦とか買えないので、こっそりと嬉しい。
落ち込んでいた気持ちがちょっと軽くなった。
和からし、カレーのこくまろ、金ゴマ、とか、かゆいところに手が届く品ぞろえがやばい。Lさんには面と向かって、「その性格じゃご自身と向き合うのも大変ですね」と言われたこともあり、正直なんだろうけど、ぼくより口が悪いので、取り扱いが難しい。(ごめんなさい、本当のこと暴露しちゃって・・・)
かげで、「失言プロデューサー」とぼくは呼んでいるのだけど、しかし、同時に、こういう、気配りもあって、その肝っ玉母さん的なやさしさは、さすがだな、と思った。
でも、だからといって、数々の失言を許すわけにはいかないのだけど、なんとか、これで年が越せそうだから、今回は、手を合わせて拝んでおきたい。
しかも、ちゃんと息子の分まで、たぶん、靴下セットのようなものかな(?)が入っていた。
まだ、開けてないので中身は息子が帰ってくるまでわからないのだけれど、少しずつ、Lさんからの靴下が子供部屋の棚の中に増えているのも事実・・・、嬉しいやら、かなり怖いやら、あは。
ま、買いに行く時間もないので、これもまた、ありがたいかもしれない・・・。
一方で、NHK・BSの「ボンジュール、辻仁成のパリの冬ごはん」はまったくもって、撮影が進んでいない。
春、秋、と来てからの冬なので、ちょっと油断しているのもあるし、人生いろいろとあるので、今はまず、自分を立て直すのに、必死な父ちゃんなのであーる・・・。
読者の皆さんは、うすうす感づいているとは思うのだけど、ぼくはそれなりにつらい冬を迎えている。
ニースは快晴だったし、落ち着かない気持ちをごまかすには、ちょうどいい旅になった。
でも、戻って来ると、パリは雨で、暗く、真冬の入り口にあり、しかも、息子とは氷河期・・・、昨日は寝れなかったし、今日もずっとベッドの上でごろごろとしていた。
とある文芸誌の連載もちょっと出来そうにないので、お断りのメールを入れてみた。編集長さんから、でも、ご自分のペースでやれるならそれでお願いします、という優しい言葉を貰ったところ・・・。
いろいろとやらなければならないことがあるのだけど、ちょっとエンジンがかからない。
そこで、お昼は一人だし、カフェ飯を食べに、出かけることにした。
行きつけのカフェのギャルソンは全員顔見知りだから、行けば、みんな一通り挨拶に顔を出してくれる。
毒づきに来る子もいれば、Lさんクラスの失言ギャルソンもいるし、笑顔をパスしに来るイケメン君もいる。
店主の人もいい人で、お久しぶりですね、お元気でしたか、とわざわざ挨拶に来てくれる。
気が付けば、もう、家族みたいな人たちばかりなのだった。
お腹が空いてないことは知っていたけど、なんか食べなきゃ、と思って、「パテ・オン・クルート」と「フリット」と1664というフランスのビールを頼んだ。
食べるというより、ぜんぶ、お酒のつまみじゃん、・・・、ま、食べないよりはましか。
「ムッシュー、最近、見かけなかったけど、どこ行ってたの?」
とギャルソン頭のポールが背後から、言葉をぶつけてきた。
「ニースに行ってた」
「わお、いいなー、この季節のニース、あったかかったでしょ?」
「18度もあったよ。パリは3度だものね」
やれやれ、という顔をしてみせた。ぼくらは笑いあった。
「でも、人生、いろいろとあるんだよ。ぼくはちょっと辛い日々の中で頑張ってる。でも、みんな辛いから、ぼくがめげるわけにもいかないんだ」
「ええ、そうですよ。いい時もあるし、悪い時もある。ムッシュ、だから、カフェがあるんですよ。知ってましたか? だから、ぼくらがいるんです。カフェは、そういう場所です」
ぼくは涙が溢れそうになったので、思わず、ごまかすために、ビールをぐいとあおってしまった。
ここのギャルソンたちには、本当に、いつも励まされている。
この辺の連中はみんな、なんとなく、集まってきて、生きてることを確認しあっている。
「雨の日もありますけど、明日はきっと晴れますよ」
「ありがとう。ポール」
ぼくはもう一度、ビールに口を付けた。
つづく。
※ これが、「パテ・オン・クルート」である。ビールとかワインに最高なのだ。酔ったぁ・・・。
お知らせ。
このような季節柄ですが、11月27日、土曜日、夜20時から、地球カレッジは「ダンチュー植野編集長VS辻仁成のスープ対決」をやります。
父ちゃんの自信作、オニオングラタンスープの作り方をマスターして、ご家庭で温まってほしいです。植野さんは胃に優しいダジャレ、しつれい、野菜スープらしい。ふふふ、負けません。
寒さをふっとばす、笑顔で、がんばらないと・・・。あったまろう!!!
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今回の配信方法は、ZOOMになります。