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滞仏日記「人生は一進一退で、一喜一憂で、一期一会なのである」 Posted on 2021/11/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ここ数日、家にいたくないので、外食を続けてきたけど、息子は学校だし、いつまでも外食というわけにもいかないので、家でそばを茹でナスの田楽を作って食べた。
冷たいそばが好物だが、身体が冷えて仕方ないので、鳥を解体し残った骨でとった汁をベースに鳥そばにした。
鳥肉は入ってないけど、うまみが出ていて、そりゃあ、温まった。
夜は知り合いと夕食の約束をしているので、ナスの残り半分は息子にとっておくことにした。
子育てについて、先週、どなたかに批判されたけど、ぼくは自分に正直に子育てをしてきたつもりなので、とやかく言われたくない。
息子はぼくに不満があるようだけど、どこの家のお子さんも、一緒じゃないだろうか。
ついでに、普段しないのに、ネットで自分を検索したら、まァ、よくもここまでいい加減に書くよな、という出鱈目のオンパレードで、あはは・・・。

滞仏日記「人生は一進一退で、一喜一憂で、一期一会なのである」



ここには書けないこともあるけれど、ぼくはぼくなりに、いろいろと考えて子育てや田舎生活、そして、創作活動をしている。
しかし、NHKのあの「パリのごはん」番組も批判する人がいて、言葉にならない。
この日記についても、いろいろと言われる。
前にも書いたけど、この日記はリアリティ小説のようなものだ。
この日記物語は、ドキュメンタリーというよりも、ぼくが暮らす欧州、フランスのこの街角の人々の息吹や家族の葛藤を、書いた、リアリティー小説であり、日記であり、風刺であり、レポートであり、エッセイであり、ドラマなのだ。
全部が一つの宇宙であって、全部で一つの作品なんだけど、一日、5000字前後、何年も一日も休まず、書き続けてきた長大な創作物なのだけど、いちいち、この人物は実在しますとか、この時間にここにいましたか、と問われ、・・・あのね、そんなことを書きたいわけじゃないし、そもそも、説明しないとならないの?
実在するけど、名前を変えたり、時間をずらしたり、脚色したり、それは読者の頭の中にその世界が出来ればいいんじゃないですか?
ぼくは、一つだけルールを作っていて、特定の人を批判はしたことがない。みんな愛すべき登場人物なのである。ぼくはこの町が好きだ、この街角に集まる世界中の人たちには、こんなに豊かな物語があるのだ、と伝えたいだけ・・・。



もっとも、息子はここにあまり登場したくないようなので、そのことは、ぼくは気を付けないとならない。
もう、ずっと、彼は不満なのだ。多分、ぼくが彼を引き取ったことも、ぼくのような父親に育てられていることも、もしかすると不満なのかもしれない。
そういう息子の不満を、ぼくにわざわざ、ちくりに来る人がいて、ぼくは直接聞いたわけじゃないけど、息子はぼくに本当の気持ちを言わないから、それをぜんぜん関係ない他人から聞かされ、驚く、こともある。
だから、いじけているのである。
自分はベストを尽くして子育てをしてきたつもりだけど、思春期だからね、ぼくに心を開いてくれないことが多くなり、その分、ぼくもどうしていいのかわからない。
で、関係ない人まで出てきて、うざくてしょうがない。
なので、勝手にやればいいじゃん、と思うようになった。
自分で自分の未来を決めるだろうし、仲良しの親子なんか演じたくもないし、強要もしないし、どうぞ、ご自由に、というスタンスは変わらないんだよね。

滞仏日記「人生は一進一退で、一喜一憂で、一期一会なのである」



難しい年頃だということは重々承知しているので、親の仕事を投げ出すことはないし、安心してほしい、笑顔を向け続けるだろう。
それにしても、気を使っている。
なんのために? そうだ。世のお父さん、お母さんに問いたい。
なんで子供にこんなに気を使わないとならないのか? 
そして、周囲にとやかく言われないとならないのか?
フランスは18歳でみんな成人になる。
そこから先は、大人なのだ。息子は、あと二か月で成人となる。
日本は20歳だから、大学生になるまでは子供扱いだけど、フランスとの大きな違いは、高校生になると、大学みたいな生活がはじまり、18歳で、成人し、大学はつまり、大人になった人間が自分で選んでいく場所、ということになる。
だから、ぼくの役目は彼を高校から無事に社会に送り出すこと、(勘違いしないでほしい、一流大学に送り出すことじゃない、地に足がついた人間として生きる場所へ送りだす)、まずは、バカロレア(高校卒業資格試験)を突破させること。
大学は大人になった息子が自分で決める世界なので、そもそも、ぼくに出る幕はない。
学費とか、必要最低限のことは応援をするけど、老いたぼくは田舎に引っ込むだけ。
かもめの子供は飛び立ったら、親元から離れて一人で暮らしていく。
カモメに出来るんだから、人間にもできるだろう。
息子は、とっくに自立できる強さがあるので、その点で不安はない。
息子に嫌われても、ぼくは見捨てることはないし、ずっとかわいい息子なのだ。
泣きつかれたら、命がけで助けるつもりだ。
30年後くらいに、思い出してもらえればそれでいいよ。
ぼくは、老いていくぼく自身の心配をしなければならない。

滞仏日記「人生は一進一退で、一喜一憂で、一期一会なのである」



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