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愛すべきフランス・デザイン「トワル・ド・ジュイで、フランス流インテリア」 Posted on 2023/04/28 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ
トワル・ド・ジュイは、日常風景を切り取った絵柄が特徴的なフランス古来の布。単色刷りのプリントで、かつては貴族のドレスや、ロマンチックなインテリアにも使われた。フランスでは長く愛され、今でも作られ続けている。今回、この布の発祥の地、ジュイ・オン・ジョザスにあるトワル・ド・ジュイ美術館を訪問した。
プリント布地の工場の彫師、クリストフ=フィリップ・オーベルカンフ(Christophe-Philippe Oberkampf)が、1759年11月9日にパリ郊外の町、ジュイ・オン・ジョザスに工場を建てたことをきっかけに、トワル・ド・ジュイは始まった。
町の名前を取り、「ジョイの布」という意味のトワル・ド・ジュイと呼ばれるようになった。当時、貴族が住むベルサイユ宮殿からもほど近く、布作りには欠かせない潤沢な清流が流れる地域であったことから、この町が選ばれた。
トワル・ド・ジュイの歴史は、18世紀に欧州に伝わったインド更紗から始まる。当時、フランスではインド更紗が爆発的な人気を集め、政府は自国の産業を守るろうと、使用を禁止した期間があった。その国内需要に応えるべく自国生産を始めたのが、クリストフ=フィリップ・オーベルカンフ(Christophe-Philippe Oberkampf)という布地プリントの版画職人だった。
製造初期は、異国情緒ある柄も多く、アジアの生活風景を切り取ったようなシノワズリー柄も。こういった布はベルサイユ宮殿内でも人気を呼び、1783年、工場はルイ16世から王室製造(manufacture royale)の称号を受けた。その後、オーベルカンフは、かのナポレオンから、1806年にレジオンドヌール勲章を受けるまでに至った。
オーベルカンフの名は、パリ中心部の賑やかな通りの名前や、メトロの駅名にも使われるほどで、フランスでの彼の功績の高さを感じる。現代においても、エルメスや、ディオールなどのハイブランドが、トワル・ド・ジュイを度々、コレクションに使用してきたことは、美術館の所蔵品からも伺える。
美術館併設のミュージアムショップも非常に充実しており、こちらで販売されているもののほとんどが、美術館オリジナル、もしくは、美術館監修の元で製作されている。同じ色柄で異なるアイテムをいくつも揃えるのが、この布の使い方のひとつかもしれないと思わせる、充実したラインナップだ。
この布と美術館を教えてくれたマダムキャボワは我が家の隣人で、自宅の寝室を赤いトワル・ド・ジュイでまとめている。これはガランス(Garance)という定番色で、フランス語で茜色を意味する。壁に掛けられた少女の絵も、同じガランス色の線画で統一されている。
最初に目に飛び込むのは、トワル・ド・ジュイのカーテン。そして、クッション、ベッドカバー、椅子の張り地と、同じ柄をひとつの空間に点在させているのがポイントだ。表からは見えない棚の扉の内側にも、コッソリ張り込まれている。カーテンを購入した際、多めに生地を入手し、小物は全て自身の手作りだという。これより前は、ブルーのトワル・ド・ジュイを使っていたそうだ。
初めてこちらのお宅にお邪魔した際は、博物館などでみるような空間で日常生活を送る人が、こんな身近にいるのかと、驚いたものだ。クラシカルなものを上手に取り入れた日々の暮らしが、文化を未来に繋いでいくのかもしれない。
Posted by ウエマツチヱ
ウエマツチヱ
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フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。