JINSEI STORIES

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」 Posted on 2021/10/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は落ち着かない一日であった。
俵万智さんとの地球カレッジをやりながらも、心の端っこには、何か暗い不安が渦巻いていた。
暴風雨で屋根が飛んだ田舎のアパルトマンのその後、どうなってるんだろう・・・。
地球カレッジが終わり、携帯を覗くと、「着信」があった。
ジャンからである。
ぼくは慌てて、掛けなおした。
「もしもし」
「あ、さっき行ってきたよ」
「どうだった?」
とにかく、一刻も早く現状を知りたい。なので、挨拶もそこそこ、飛びかかるような勢いで訊いた、父ちゃんであった。
「うん。ちょっと、言葉で説明する前に、写真、送ろうか?」
「え? ああ、そうだね。見たい」
「じゃあ、まず、メイン玄関の写真を送る。上からの落下物だ」
「ええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

※なんか、この日記って、いつも、こういう破壊的な写真ばっかじゃない??? どうなってるの? 神様仏様。

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

ということで、ジャンから届いた最初の写真は、建物の表玄関へと通じるレンガのエントランス中に散らばって広がる煙突の破片であった。
※一部お見せできない部分があるので、・・・。すいません。
それから、庭への通路と思われる場所に、落下していた屋根の一部の写真もあった。
ぼくは慌てて、掛けなおした。
「すごいことになってるじゃないか」
「ま、そうだね。残念ながら、屋根には上れないから、どのくらいの屋根が剥がれたのか、被害状況が下からじゃ分からないし、裏庭には入れなかったので、建物の東側の狭い脇道に落ちていた屋根の一部しか確認できなかった。でも、通りから見上げると、被害が大きいのが建物の左手で、この落下物は右側に落ちていたんだ」
「ええええ? ということはほとんどは左側に落ちてるのか?」
「わからない。行けなかった。そっち側は、二階の人の家を通過しないと入れない」
「そうなんだよ。あ、じゃあ、中はどうなってた?」

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

ぼくが一番知りたいのは、外よりも、アパルトマンの中であった。
「安心しろ、まず、天窓は割れてなかった。ただ、天窓から猛烈な風が吹き込んだようで、階段をあがった踊り場のところ、天窓の真下に、ゴミというか、ペンキの剥がれたものとか、けっこう溜まっていた。掃除しといたよ」
「あ、ありがとう」
「で、君の仕事机のある部屋ね、煉瓦の煙突の部屋、そこの天井にすでに染みがあった」
「染み?」
「ほら、水漏れの後、茶色い染みが出るじゃないか?」
「ああ、分かる。パリのアパルトマンで5回も水漏れがあり、いまだ、そうなってる。それが出来てるの?」
「残念だけど、出来てるし、亀裂も入ってる」
「亀裂ーーーーーーーーーーーーー、オーーーマイガッ」
「だよね。ただ、まだ、大したことはない。月曜日に屋根の修理が来ると言ってたよね?」
「ああ・・・(しゅん)」
「そこで、屋根を塞げれば、半年くらい後には乾くだろうから、ペンキを塗り替えられると思うよ」
「半年か!!!」

ぼくはがっくりと気落ちして、ベッドにヘタレ込んでしまった。
やる気が出ない。
パリの家は5か所で水漏れ、二年近く、湿度が下がらず、いまだ部分的に100%の湿度があり、工事が出来ないのだ。
「ただ、月曜日が雨なんだよ」
「なんだってえええええええええええええええええ! オーーーマイガッ!!!」
「80%の雨で、吹き飛んだ屋根がどのくらいか分からないけど、そこから天井に雨水が降ると、染みが増える可能性があるね」
「おい、ジャン、どうしたらいいんだ?」
「管理組合に明日朝一番で電話しろ。出来ないなら、俺がしてやる。これは自然災害だから、屋根と同じく保険が適用されるはずだ。多少面倒くさいけど、自分で払わないでもいいはずだから、あ、じゃあ、俺がかけあうよ」
「マジか、俺の仏語だと難しいから、頼む」
「わかった。がっかりしても、起きてしまったことだ仕方ない。それに、みんな無事だし、壊れたのは屋根と煙突だけで済んだ。その時、下に人間がいたら、死んでたかもしれない。車があれば大破していた。入口の煉瓦が壊れた程度ですんでる。ポジティブになれ」
「・・・う、わかった。なる・・・」

しばらく、呆然としていたけど、
「ということで、俺は自分の物件を見回りに行くが、一つ、言っとく。窓はきちんと閉じていたし、室内は壊れてなかった。保険屋と話しが出来てから、こっちにくればいい。今、むやみにここに来ても疲れるだけだから、管理組合に任せておけ」
とジャンは言い残して電話を切った。
驚くべき結果だったけど、よく考えると、室内が破壊されたわけじゃないし、50センチ四方の染みが出ている程度なのだ。
今のところ。月曜日の雨次第だけど、屋根の工事も入るので、半年後くらいに天井のペンキを業者が塗れば完了となる。
誰もケガしてない。
それを思うと、ラッキーだったのかもしれない。
保険はありがたい。そして、友人もありがたい、と思って気を取り直した父ちゃんであった。
日曜日に、ライブがあるので、それまでパリにいて、来週明け、息子と2人で田舎に行けばいいのかもしれない。

ぼくは気分を変えるために、コーヒーを淹れた。
そして、食堂の灯りを点けようとした。スイッチ・オン・・・点かない。
嫌な予感。昨日までついていたじゃないか・・・
もう一度、点けてみたが、点かない。
パチパチパチ、とライトが激しく明滅して、その直後、消えた。
スイッチが壊れるまでオンオフを繰り返したけど、うんともすんとも言わない。
ライト、変えたばかりなのに・・・。
「オーーーマイガッ。待ってくれよ、いったい、何が起きてんだよ」

つづく。いや、つづかないでくれ!!!

滞仏日記「オーーーマイガッ。一難去ってまた一難の続き。そして新たな一難が!」

※ えへへ、いろんなことあるから、別次元に逃げたい父ちゃん。後頭部はお見せできない。知らない美容師に、後頭部をジグザグにカットされている。災難続きの62歳、寝ます、ふて寝・・・。