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パリ最新情報「パリの新しい観光名所『Hôtel de la Marine』」 Posted on 2021/10/13 Design Stories
パリで見逃せない観光名所にまたひとつ、新たなスポットが加わった。
その名もHôtel de la Marine(オテル・ドゥ・ラ・マリーヌ)、もともとはフランスの海軍省に使われていた建物で一般人には無縁だったが、2021年6月にミュージアムとして生まれ変わった。
まず、ロケーションが素晴らしい。
真正面にはコンコルド広場があり、チュルリー公園やオランジュリー美術館の目と鼻の先に位置する。
日当たり抜群ともあり、Hôtel de la Marineはこの界隈でもいちばんの輝きを放っている。
ひときわ壮麗な外観なので、何のために使われているのだろうと今まで謎に感じていたが、実はルイ15世の時代、18世紀初めには王室家具保管所であったというから妙に納得がいった。
1789年からは海軍参謀本部が置かれ、2015年までフランス海軍省が使用していたという。
こうして海軍という意味の「la Marine」の名を残しつつ、約4年の修復工事を経て一般公開されることになったのだ。
エントランスをくぐると、美しいガラス張りの天井に出迎えられる。
今回の改修工事で新しく設けられたというこの天井、冬でも採光できるようにガラスの外側に鏡を施してある。
古い壁に光が反射してキラキラと映るその姿は、建築技術の新旧融合といった感じで最新のパリらしい。
安藤忠雄氏デザインのブルス・ドゥ・コメルス美術館と並び、今のパリの建物は「天井デザイン」「自然光」がキーワードとなっているようだ。
さて、Hôtel de la Marineのチケットは2種類から選べるようになっている。
45分のツアーは13ユーロ、90分のグラン・ツアーが17ユーロとあるが、時間があれば調度品も見られるグラン・ツアーがおすすめ。
美術館や博物館では、展示物の脇にある「説明書きパネル」が欠かせないものだが、Hôtel de la Marineではそれが一切見当たらない。
その代わりに登場したのが、デジタルガイド。
映像で建物やコンコルド広場の歴史を詳しく紹介する仕組みとなっている。
合わせて、見学はどちらのツアーも最初から最後までヘッドフォンから流れる音声案内に従って進む。
このヘッドフォンは料金に含まれていて、グラン・ツアーなら日本語選択も可能だ。
その音声はラジオ・フランスの協力により実現したもので、当時の所長がドラマ仕立てに数々の部屋を説明してくれる。
音質の良さには驚かされたが、どちらも、空間の美観を損ないがちな説明書きパネルを省くために採用されたとのこと。
これによってHôtel de la Marineを視覚・聴覚の両方で楽しむことができるし、どちらかに障害のある人にとっても有意義なものとなるだろう。
今回さらに話題となっているのが、Hôtel de la Marineの修復作業について。
フランス中のサヴォワール・フェール (職人技)を集結させての大修復は、館内の木彫り細工や壁紙、布地、シャンデリア、鏡、絵画などが大幅に再構築された。
18世紀さながらの絢爛豪華な芸術にはため息が漏れてしまう。
「パリのヴェルサイユ宮殿」と言えるほどの建築技術、本家ヴェルサイユに足を運ぶ時間がない時はこちらでも満足できそうだ。
見学の最後は、コンコルド広場に面したロッジア(テラス)にたどり着く。
このロッジアは、左手にはオランジュリー美術館、正面にはエッフェル塔、右手にはグラン・パレといった抜群のロケーションにある。
もしかしたらパリの美術館でいちばんの眺望を味わえるかもしれない。
しかし、コンコルド広場はフランス革命の舞台となった場所でもある。
フランスの政治体制が大きく変わった動乱期に、ここが「コンコルド(=調和)」広場と名付けられたのはなかなかに感慨深い。
怒れる民衆を目の前にし、当時の王族はここで何を思ったのか? 当時の血なま臭さはないものの、このきらびやかなテラスから歴史の重みを感じ取った。
そしてHôtel de la Marineのもう一つの目玉と言えるのが、併設のCafé Lapérouse(カフェ・ラペルーズ)。
6区のセーヌ河岸にある創業1766年の伝説のレストラン、ラペルーズが初めて右岸に出店したのが、こちらのカフェバーというのだ。
先述したテラスのちょうど真下に位置し、広場に面したテラス席からはパリのモニュメントが一望できる。(写真は美術館側のテラスです)
毎日8時30分から営業開始なので、パリ観光の前に、まずはこのテラスで一日をスタートするのも良さそうだ。
9月には二つ星シェフ、ジャン・フランソワ・ピエージュ氏のレストラン「Mimosa(ミモザ)」もオープン。
今まで殺伐としていたコンコルドが心機一転、華やかなものとなった。
そして、この2つのカフェ・レストランにはHôtel de la Marineのチケットを購入せずに入ることができる。
よく行くというわけではないが、敷居が下がっただけでもちょっと嬉しい。
フランスの歴史を内包するコンコルド広場。
そしてそこに面するHôtel de la Marineは、18世紀のエネルギーを肌で感じさせてくれる。
ヴェルサイユ宮殿とカルナヴァレ博物館のあいだ、といったイメージで、小規模で回りやすい点も良かった。
デパートのラ・サマリテーヌ、新美術館のブルス・ドゥ・コメルスと同様、Hôtel de la Marineはパリで行くべき新たな観光名所となった。(大)