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退屈日記「超、胃が痛い。ここにきて、問題山積。!いったいどうする父ちゃん」 Posted on 2021/10/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、実はパリ市内ライブを3日後、10月4日にひかえ、大変な状況、事態がわかってきたのであーる。
そのせいで、ぼくは今、胃がもぎとれそうなくらいに痛い、のだ。いててて・・・。
5月30日にやった「セーヌ川ツアー&ライブ」は、当時、コロナ禍で、船を借りる人もいなく、セーヌ川はほぼ独占状態であった。
しかし、今は、コロナが落ち着き、パリに日常が戻ってきている。交通量も普通だ。
で、船会社は当時、なんとか仕事がしたいので一生懸命協力してくれたのだけど、今、バス会社は左うちわ状態で、強気、ふんぞりかえっている・・・。
バス会社が忙しいみたいで、なかなか、やり取りができず、ツアー担当スタッフがイライラしている。
その日は、62歳の誕生日なので、頭を過るのは還暦の誕生日ライブが台風上陸で延期、61歳はコロナで延期、というあの恐ろしい過去・・・
ぼくの誕生日は呪われている???

退屈日記「超、胃が痛い。ここにきて、問題山積。!いったいどうする父ちゃん」



今、現在、父ちゃんの胃を痛めつけてくる問題を列記してみたい。
問題の1,
まず、バス会社の担当のハーロン君がめっちゃ若くて、いい奴だけど、今時のあんちゃん。
だからというわけじゃないけど、3日後に迫ったバスツアー、いまだ、集合場所がはっきりしない。
エッフェル塔の真ん前あたり、という指示があり、8時半にバス運転手から直接、電話が入ることになっている。
機材は9時に来るのだけど、指定されてきた場所が、本当にエッフェル塔のド正面なら、機材搬入など、簡単じゃない・・・。
そこには警察や軍隊がテロを警戒して詰めているからである。
警察車両も複数台いるはずだから車を停めるスペースがあまりない。
あまりないのに、辻バスは、2連結の超大型Wバスなのである。
そんな交通量の多いところで機材の搬入が出来るのか、という問題が一つ、・・・。
許可証はあるものの、テロを警戒する警察が絶対、チェックにくる。その都度、スタッフは対応に追われる。
ぼくらは搬入から、セッティング、音合わせ、映像あわせ、配信テストをやるのに、4時間を見込んでいる。
毎回、チェックにくる警察に許可証を見せ、説明をしないとならないし、もしかすると、
「よそに行け」
と言われることも予想される。



なので、ハーロン君に、違う場所に変更してくれ、と依頼しているのだけど、
「ムッシュー、心配しないでくださいよ、俺らプロだから。問題ないし、そんなことでいちいち警察に言われる筋合いはないですよ? 配達の車にどけって、警察言えますか? みんな生きてるんだ。違います? 許可もとってるし・・・」
の一点張り。
一番大きな機材を運び込むスタッフも小型トラックで来るし、ぼくも、ドラムのジョルジュも機材を車で搬入するので、エッフェル塔の前が大変なことになる・・・軍隊の装甲車がたまにいることもある・・・
「じゃあ、一度、バス運転手と相談をさせてくれ」
とハーロンに頼むのだけど、
「当日まで、誰になるかわからない」
と、驚くべき回答・・・。どういうこと???
「8時半に、その近くから電話をいれさせるから、心配しないで」
と日本では考えられないやりとり。電話本当に来るのか、心配過ぎる・・・
なんでも、バス運転手は、普段はパリ市のバス運転手で、その日非番の人がアルバイトで運転するのだそうで、ギリギリまで誰になるか、わからない・・・。
そういえば、セーヌ川ツアーの時も、船長がトイレに行って、出発の時間になっても現れず、みんなをひやひやさせられたっけ・・・。悪夢がよみがえる。
そういうことが起こると、どうなるのか・・・、父ちゃんは、胃が痛い。
「大丈夫です。辻さんは一切心配せず、ガイドと歌のことだけ考えてください」
とスタッフさんは言うのだけど・・・、やっぱり考えちゃうよねー。



問題の2,
バスのルートである。現在、ぼくらが巡りたいバスのルートをバス会社に説明した折、「全部可能」という返事はハーロンから貰っているが、
「しかし、パリはご存じのように毎日、交通規制があり、外国の大統領が来る度に道が封鎖になり大渋滞になります。月曜日に何が起きるか、その日にならないとわからないから、このルート通りには多分行けない可能性もあります」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「バスの運転手と相談しながら、ルートは決まっていきます。つまり、行く当てのない旅に出る思えば楽しいでしょ? 夢があるじゃないですか? どの道に進むかわからないって、かっこよくないですか? 行く当てのないパリの旅・・・いいなぁ」
「あの、だから、バスの運転手はだれなの?」
こういうところがフランス人的なので、日本人からすると、ちょっとムッとなる。
「とにかく、シャンゼリゼ大通りにだけは何が何でもいかなければならないんだよ。そこで、オーシャンゼリゼを歌うんだ!!!」
「それは朝、運転手と相談してください」
この一点張りなのだ。ハーロン、・・・。
「ともかく、うちの運転手はみんな優しい人たちです。だから、ムッシュ、心配しないで!!!」



問題の3,
もう一つの問題は天気である。
今、アイホンの天気予報は降水確率50%なのだ。日曜日は100%、火曜日は90%なのである。
しかし、「月曜日、晴れのち曇り」と出している天気予報センターが二つある。どれを信じていいのかわからないけれど、50%雨というのが曲者で、小雨が降るかどうか、ということもありえるが、一度、上にセッティングしてしまうと、大雨になったからといって、いきなり、下に機材を移し直すことは不可能なのだ。
なので、降る可能性がある場合は下にセッティングをし、上に景観だけを撮影するクルーに上がってもらい、スイッチングして観光とライブを愉しんでもらうしかない。上だと全部一緒にできるのだけど、そうなると、配信スタッフも倍の人が必要になり、大変になってしまう・・・。
しかし、天気に関しては、配信担当の小田カメラマンにメールをしたら、
「ぼくはまだ諦めていません。一昨日も雨100%だったのに、快晴でした。フランスの天気予報があたったことはないので、3日後のことは正直、わからないし、ぼくは諦めていません」
この人だけじゃなく、全部のスタッフが雨を心配していないのである。
みんな、ありがとう、というか、呑気というのか・・・。なんとかなりますよ、と全員前向きなのである。ぼくだけが、胃を痛めている・・・。
大きくわけて、この三つの問題がいま現在ぼくを悩ます要因ではあるが、これ以外にも、小さな問題がそれなりにある。
でも、大きな問題を前に小さな問題はかすんでいるという状況である。
本当にバスは月曜日の朝9時にエッフェル塔前にやってくるのか、それとも、朝の8時半に違う場所に変更になるのか(そうなると思う)、変更になったら、全スタッフに変更を知らせないとならない。
ここでも混乱が起きることが予想される、なにせ、フランス人なので。
前回、17日の文化会館でのライブの当日、ドラムのジョルジュがダブルブッキングをしていた。そういうことが普通に起こりうるのがフランスなのだ。

退屈日記「超、胃が痛い。ここにきて、問題山積。!いったいどうする父ちゃん」



警察や軍隊も心配だし、雨も心配だし、スタッフがちゃんと集まってくれるのかはもっと問題だし、パリ市内の月曜日の交通状況もわからないし、大型2連結のバスが、道を曲がれないなんてことはないか、と心配だし、歌やガイド以前の問題として、こんなにも問題山積な今、父ちゃんは夜も眠れない状態が続いているのも事実で、体力が持つのか、それも心配なのである。もう、心配過ぎる誕生日なのだ・・・。
テルテル坊主を今日はこれから作って、窓辺にぶら下げる予定だ。
しかし、朗報もある。今日も90%雨予報だったが、朝からずっと快晴である。今、これを書きながら、仕事場に明るい日差しがさしている。天気は、もしかすると、なんとかなるのかもしれないなぁ、と思ってきた。
皆さん、パワーをください。62歳の誕生日に、太陽の光りの下、歌わせてください。
愛をください。うおう、うおう・・・

つづく。

退屈日記「超、胃が痛い。ここにきて、問題山積。!いったいどうする父ちゃん」



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