JINSEI STORIES

滞仏日記「日本のプリンセスのことがフランスでもちょっと話題に」 Posted on 2021/10/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、9月最後の日であった。日本はすでに10月になっている。ぼくはあと3日で62歳になる。
今日はオデオンで最近話題の、ケーキのセレクトショップ(フー・ド・パティスリー)まで取材に行き、ついでに受験生の息子のために、甘いものを買ってきてやった。
洋服のセレクトショップというのは訊いたことがあるけど、ケーキのセレクトって発想が面白いだけじゃなく、ここのケーキは外れないし、店員さんとも仲良くなったので、いろいろと最近の流行りを教えてくれたりもしている。
NHKBSの「ボンジュール、辻仁成の秋ごはん」用に、動画も回しておいた。えへへ。

滞仏日記「日本のプリンセスのことがフランスでもちょっと話題に」



ぼくは好物のプラリネのケーキを、息子には、バニラのケーキを買った・・・。
「甘いものは脳の回転数をあげるから、喰っとけ」
めちゃくちゃな理由だったが、美味しい、と言って、息子はバクバク食べている。味わえよ・・・。
「でも、なんで、パパは年齢を隠さないの?」
ケーキを食べながら、不意に、とんでもないことを言い出した。ケーキと年齢となんの関係があるんだ、と思った。
「隠さないとダメなの?」
「いや、いいと思うけど、今はエイジレスっていうか、年齢を口にしない人が多いのに、パパのツイッターとか覗くと、やたら、自ら、年齢を言いまくってる。宣伝?」
ぼくは吹き出しそうになった。
「なんの宣伝なんだよ!!!」
「よーく、年齢を書いてるじゃん」
「だって、自分の年齢だもん、ごまかせないし、隠してもしょうがないじゃん。パパだって、40歳くらいでもいいかな、とは思ってるんだけど、気が付いたら、60歳超えていて、みんなに年齢を言うと、引かれる」
「だよね」
「ほら、肉屋のロジェ、知ってるだろ?」
「うん。よく、犬の散歩しているおじいさんね」
「ああ、ロジェはパパより、ずっと下なんだよ」
「・・・?」

滞仏日記「日本のプリンセスのことがフランスでもちょっと話題に」



ま、息子でさえも、ぴんとこないのだから、周りがいぶかるのは当たり前である。
別に、ヒアルロン酸を飲んだり、若返り健康法とかやってるわけじゃない。
よーく見ると、実は老けているのだ。
それを笑顔で隠しているのは事実・・・。
時々、徹夜した後とか、目の下のクマが酷いことになっていて、鏡に映ったおじいさんに、仰天することがある。
そういう自分を認めたくない。
今、NHKに依頼され、自撮りのドキュメンタリー番組作っているけど、「番宣用に写真抜いときました」とプロデューサーのLさんから酷い横顔のスクショ写真が送られてきた。人の気持ちを無視した切り抜き、である。ぷんぷん。
「明日が締め切りで、メディアに回します」とか勝手なこと言ってるので、一応、抗議をした。まだ、番組撮影はじめたばかりなのに、宣伝のことまで頭、回らないのである。やれやれ。

「パパ、いいじゃん。そんな写真、誰も見ないよ。自分が思ってるほど、人はパパのことなんて何とも思ってないって」
ひ、ひどい・・・(´;ω;`)ウゥゥ
「いや、それでも、自分が嫌なんだもん。せめて、世の中に出回る写真くらい、ちゃんとしたの使ってほしいじゃん。一応、アーティストなんだぞ、アーティスト!!! それに、気分は自分で盛り上げないとさ、そういうところから老けていくんだよ、人間というものは・・・」
「だから、若作りしてんだ」
「若作りとか言うな。努力だ」
「でも、年齢相応でいいじゃん。化け物になりたいの?」
かっちーーーーーーーーん。
ば、ば、ばけもの????
息が出来なくない・・・ぐるじィ・・・。

滞仏日記「日本のプリンセスのことがフランスでもちょっと話題に」



息子とは45歳の年齢差がある。
これは一生縮まらない。
ぼくは少しでも、息子にとってかっこいい父ちゃんで、若々しい父ちゃんでいたいのだ。本音である。
本当は30歳くらいの年の差でいてやりたかった。でも、そうもいかないから、無理している・・・。
やれやれ。息があがった・・・。あはは。
でも、ケーキは美味しかった。
「そういえば、ロン毛で思い出したけど、日本のプリンセスのことが話題になっているよ」
と息子が話題をふった。あ、眞子様のことだ、と思った。
「今朝のラジオで、メーガン姫とハリー王子と比較されていたけど・・・どうなの?」
「ちょっと違うと思うけど、こっちだと、そんな取り上げ方されてるんだ!?」
息子が携帯を取りだし、記事を見せてくれた。
各報道機関が記事にしている。
とくにBFMTVはかなり正確に報じていて、英国の王室と日本の王室の違い、小室さんのロン毛へのネットの反応とか、お母さんのことまで、かなり細かく書かれてあった。
「パパもその髪型で62歳なんだから、やばいよね」
「まだ、61歳だっつーの」
「パパ、似合わないものね、短い髪型・・・」
「関係ね~だろ」
「でも、アメリカに行かれるんだね、日本のプリンセス・・・」
ぼくらは、食べかけのケーキをじっと見つめた。



「あのね、パパが年齢をやたら書くのは、抗ってるからなんだよ」
「あらがう?」
「ああ、まだ現役で頑張りたいからなんだよ。わかる? ひっこんでられないの。まだ、戦っていたいんだ。だから、こんな年齢に負けないぞ、ってそういう気概で、つい、書いちゃうんだよ。あえて書いてるの」
「わからないでもないけど、17歳のぼくには、ちょっと理解しにくいな」
「お前がまだ子供だからだ。そのうち、長生きをして、人生を振り返る時に、わかったりする。年齢に抗うというのは、つまり、まだやりたいこと、達成したいものが達成できないから、時間稼ぎをしているというか、最後の力を振り絞るというか、生き切ってやるぞ感があふれてるっていうか、そんな状態なんだよ」
「そんなに、むきにならないでも、可愛いおじいちゃんになればいいじゃん」
「なるよ。もちろん、なるけど、なるんだったら、世界一セクシーなおじいちゃんになりたいんだよ。ムキムキでピチピチのおじいさん」
息子がふきだした。ぎゃはは・・・
かっちーーーーん。
「頑張ってよ。ぼくは、反対しない。でも、ちょっとライブ前に床屋さんでその髪の毛、整えたら? ロン毛でもいいけど、ぼさぼさはよくないよ」

つづく。

さて、お知らせです。
3日後、10月4日、62歳になる父ちゃんですが、その日、大型バスを借りて、パリ市内をパリで活躍するミュージシャンたちと、オンラインツアーしながら、ライブをやります。お時間のある皆さん、こんなおやじですが、応援に駆けつけてくださいませ。ここ一週間はずっと雨マークでしたが、メテオ・パリの今日の予報だと、ご覧ください、晴れ! すごい。一昨日も豪雨と出てましたが、快晴に!アイホンの天気予報だと、いまだ、50%の降水確率で雨ですが(しかも月曜を挟んで日曜、火曜、両日100%の雨)、しか~し、天気なんか気にならない素敵なパリ・ガイドとグッド・ミュージックをお届けしますので、よろしくです。

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