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パリ最新情報「2021年パリのバゲット大賞が決まる!」 Posted on 2021/09/30 Design Stories
フランス人はバゲットに対して並々ならぬこだわりを持っている。
朝食にはジャムやバターを塗ってtartineを、昼食にはバゲット・サンドイッチとして、そして夕食にはメインディッシュのお供に添えている。
チーズはバゲットなしでは絶対に食べないし、フレンチトーストも食パンではなくバゲットで作る。
日本人がお米を愛するのと同じように、フランス人にとってバゲットは命そのもの。
手に取った瞬間、国民全員が批評家に変身してしまうというほど、彼らはバゲットにうるさい。これも愛するが故、と言うべきか、とにかくバゲットに対する思い入れが強いのである。
そんな手練れだらけのパリにおいて、年に一度のバゲット・コンクール(La meilleure baguette de Paris)が9月24日に行われた。
今年で28回目となるバゲット・コンクールは、いつもは春に開催されるのだが、2021年はロックダウン真っ最中とあって秋に延期。パリのパン職人から173のバゲットが集まった。
審査員を務めるのは、2020年の受賞者タイエブ・サアル氏を含む12人のパリジャン。そして審査委員長にパリの副市長を迎え、香り、味、表面の焼き加減、見た目などを査定した。
その条件は非常に細かいもので、長さ55~70cm、重さは250~300gまで、小麦粉1kgに対して塩の量が18gと設定されている。
2021年のグランプリに輝いたのは、12区にあるブーランジェリー「Les boulangers de Reuilly(レ・ブーランジェ・ドゥ・ルイイ)」のマクラム・アクルート氏が作るバゲット。
19年前にチュニジアからフランスに移り、パン職人となったマクラム氏は、父親も同じくパン職人だという。賞金として4000ユーロが授与され、今後1年間、大統領が食すバゲットとしてエリゼ宮におさめる権利を獲得した。
2020年に優勝したのもチュニジア出身のタイエブ・サアル氏で、この10年間はフランス国外出身の人が多くグランプリに輝いている。そんな「多様性」も、フランスを象徴するバゲットにふさわしいのではないだろうか。
今回、「Les boulangers de Reuilly(レ・ブーランジェ・ドゥ・ルイイ)」に赴き、パリで一番となったバゲットを実際に試してみた。
受賞直後ということもあって、店内は地元客でにぎわい、なかには3、4本まとめて購入する人もいた。
まず、このおいしそうな「見た目」。黄金色に焼きあがった表面に心がときめく。
意外とほっそりしたフォルムで、焼きたてなのか、手に取った時にじんわりと温度を感じた。一年半前、初めてのロックダウンとなり、不安だった時に食べた焼きたてのバゲットと同じくらい、その温かさが心に染みた。
そして、フランス人はパンの香りを香水にしてしまうほど、パンの匂いが大好き。
帰りの電車の中で持っていたパンの香りが漂うと、同乗していた皆が「チラ見」するほどだった。フランス生まれでなくても、その優しくて懐かしい香りには郷愁を感じてしまう。
「実家の味、ふるさとの香り」といったように、マクラム氏のバゲットからはノスタルジックな雰囲気が漂っていた。
断面はこうだ。おいしいバゲットとは、適度な皮の厚さ、かつ 「皮パリッ、中しっとり」が基本である。また、大小イレギュラーな気泡も、おいしいバゲットの大切な要素だという。バゲット内に適度な空洞があることで、ソースとの絡みが良くなる。
グランプリを獲得しただけあって、マクラム氏のバゲットは全てにおいて完璧、文句なしに素晴らしかった。
今年3月には、バゲットがユネスコ無形文化遺産のフランス候補となることが決まっている。これは、バゲット文化を守るためだけでなく、街のパン屋が大企業のチェーン店に吸収されてしまうのを防ぐためでもあるそうだ。
パン作りのベースは地産なので、パン職人は近場の小麦を使い、地元のバターを使いクロワッサンを作るなど、ローカルなネットワークを持っている。パン屋がなくなれば地方の経済構造にもヒビが入るので、それは何としても食い止めたいのが本音だという。
現在、新型コロナウィルスの感染状況はだんだんと落ち着きを見せ、日常を取り戻しつつある。このバゲット大賞のニュースは9月に開催されたほかのイベントと同じように、パリがアクセルを踏み出した証でもあり、とても嬉しく思った。フランス人が本当に大事に思うバゲット文化を、これからも影ながら応援していきたい。(セ)