JINSEI STORIES

滞仏日記「トム・クルーズとハリソン・フォードが、ついに対面したパリ高速物語」 Posted on 2021/09/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、夕方、パリで打ち合わせが入っていたことを思い出し、昼過ぎに慌てて、ギターだけ担いで、田舎の家を飛び出した父ちゃんであった。
パリに戻る高速はガラガラで速度制限(130キロ)ぎりぎりの128キロ前後で車を飛ばした。
日本にいた頃は100キロ出すのも怖かったけれど、こっちにいると、130キロで走っていても、一番右側のゆっくり走るレーンにいても、あおられることがある。
急ぐ車は170キロくらい出していて、ひゅーんと、飛んでいくような感じだ・・・。
それにしても、最近、SUZUKIの車をよく見かける。なぜ、SUZUKI自動車がトヨタや日産よりも多く見かけるのかちょっと分からないけど、戦略的に成功しているのだろう。
ぼくの友人にも、ファンが多い。たとえば、ぼくのママ友のアリスがずっとSUZUKIに乗っている。
次に、日本車で人気なのが、三菱自動車だ。
三菱は四輪駆動のでかいのをよく見かける。
特に、田舎で乗り回している人が多い。本当によく見かける。
フランスではパジェロが神話的人気を持っていて、昔ながらの三菱自動車ファンが多いのかもしれない。
あ、日本車で一番見かけるのは、レクサスかもしれない・・・。
で、今日はそのレクサスの小型車とずっと一緒であった。

滞仏日記「トム・クルーズとハリソン・フォードが、ついに対面したパリ高速物語」



フランスも日本に負けないくらいスピード違反の罰金が高額なのだ。
でも、こっちの人は速度を出すので、普通に流れに乗っているだけだと、知らない間に、制限速度オーバーになってることもあり、一週間後くらいに罰金の催促が届いたりする。
それは避けたいので、ぼくのような用心深い人間は、同じような用心深い人間をまず、探す。
走りを見ていれば、違反せずに、しかし、最速でパリを目指しているドライバーかどうか、がわかる。
ぼくも20年近くフランスで運転をしてきたので、一応、ベテランに入る。
だから、ぼくは安全運転だけど、ギリギリ制限速度内でいつもパリを最速で、目指しているのだ。
気が付くと、ぼくの後ろに数台が張り付いてたりする。
ぼくがレーンをかえると、後ろの車もついてくる。
というのは監視カメラは最初の車を撮影するので、先頭に立つのをみんな避けたがるのである。

今日、ぼくの後ろにピタリと張り付いたのが、グレー色の小型レクサスであった。
ぼくの家からパリまで130キロで飛ばして、だいたい3時間とちょっとかかる。
高速に乗って、30分ほどが過ぎた頃に、ぼくはグレーのレクサスに気が付いた。
車線変更を数回やったが、同じ動きをする。
ハハぁ、今日はこの子が追尾車だな!



パリに戻るA・・という高速道路はだいたい、片道3車線から4車線で、3車線の場合、一番左側が追い越し車線になり、右側が登板車線みたいになっていて、ゆっくり走る車は一番右を走るのだが、右で走ると遅すぎて、3時間で済むところが4時間になってしまう。
なので、真ん中を走りながら、時々、トラックや大型ワゴン車などを追い越し、法律を遵守しながら、最速でパリを目指すことになる・・・。
ぼくは毎回、流れる車を上手にぬって、最速で、しかも安全にパリを目指すので、たぶん、レクサスはぼくを先頭車両に選んだのだろう。光栄なことである。
ちなみに、ぼくはWAZE(ワーズ)というナビを車に搭載している。
これは、ドライバーたちが情報を交換しあう形のナビで、なかなかユニークだ。
警察車両がどこかでこっそりと検問をしていると、それを発見したドライアーがWAZE内に情報を書き込み、一瞬で、全てのドライバーに共有される。
で、警察がそこを離れたら、即座に別のドライバーが、その情報を修正する、という、ちょっと想像を超える、運転手互助会のようなナビ・サイトである。



だから、制限速度が130キロから110キロに変更になると、WAZEさんが、
「制限速度が110キロに変更になりましたよ」
と教えてくれるので、安全・・・。
また、警察の検問が行われていると、
「まもまく、警察の監視エリアに入ります。注意してください」
と教えてくれるのだ。
で、検問を通過するとすぐに、画面に、「参考になりましたか?」という表示が出て、運転手は「ありがとう」か「すでに検問は解除されています」かを選び、後方車に情報のバトンを渡すのである。

フランス人は革命で王制を倒した国民だからか、結束力が強く、こういうのが大好きで、みんなが、情報を必ず入力したがるから、最新情報がどんどん更新され、いろんな意味で安全に運転できるという仕組みなのである。
で、飛ばし屋さんは200キロ近い速度でぶっ飛ばしていき、検問にひっかかって、御用となる。←急がば回れ。



しかし、ずっと真後ろに張り付かれるのも嫌だから、途中で、速度をおとし、レクサスを先に行かせることにした。
その直後、ぐんと速度をあげて、背後をとってやった。元柔道部なので、背後をとるのはお手のものなのであーる。←何、自慢してるんや!
で、レクサスがぼくをおい抜く瞬間、ちらっと運転手をみた。
50代半ばくらいの紳士だった。
一瞬、目が合って、お互いニコっと微笑をかわした、・・・気がした。
そういう時、映画「トップガン」のトム・クルーズになった気分になる、父ちゃん。
コックピットの操縦士気取って、ウインクしたりするのだけど、←だれ???
レクサスには、50代半ばの白髪の紳士、ちょっとハリソン・フォード似?、と、その隣に奥さん、キャリスタ・フロックハート似? が座っていて、ぼくを見て、微笑み返していた。
ハリソン・フォードは親指を立てながら・・・。←トップガンに出てない。
おお、ご夫婦か、ぼくは素早く、指二本で素早くこめかみ辺りでピシッとやる、トム・クルーーーーズばりの(`・ω・´)ゞをしてみせたのだった。



その後、パリまでぼくらは、二回ほど、おい抜いたり、抜かれたりしながら、仲良く、安全運転を心掛けたのだけど、…残念なことに、途中で彼らを見失ってしまった。
ちょっと寂しかったけれど、仕方がない。
小腹がすいたのと小用のために、高速のサービスエリアに入り、車をとめた。
コーヒーを飲もうと、エンジンを切った、その次の瞬間、
「おおおおお」
ぼくの横に、見覚えのあるグレーのレクサスがゆっくりと滑り込んだのであーる。
運転していたムッシュと、その横のマダムがぼくに笑顔をおくってきたので、ぼくも満面の笑みを返すことになる。
航空母艦に着陸した両機が仲良く、整備に入った、感じ・・・。
トム・クルーズは戦闘機をおり、
「ボンジュール」
と挨拶をした。車から降りてきたハリソン・フォードも、笑顔で
「ボンジュール」
と言ってきた。
実に、爽やかな高速道路青春物語であった。・・・おしまい。←それだけ???

追伸。ところがである。
高速を降りた途端、世界は一変した。
今、パリ市は排気ガス規制のため、全域で30キロ制限を実施しており、130キロで飛ばしてきたドライバーには、30キロ制限は、まるで地面を這うような遅さなのである。
30キロはアクセルを踏み込めない速度で、パリ市内に入ってから家までの間、ぼくは何度か足が攣りそうになってしまった・・・。
ま、でも、ご無事で何よりでございました。
皆さん、安全運転を心がけましょう。

つづく

滞仏日記「トム・クルーズとハリソン・フォードが、ついに対面したパリ高速物語」



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