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パリ最新情報「オフィスレスという新しい働き方」 Posted on 2021/09/03 Design Stories
コロナ禍を機に、働き方やオフィスの在り方を見直す企業は多い。フランス政府もテレワークを推進しているのだが、オフィスそのものを廃止し、全社員をフルリモート勤務に移行する企業が少しずつだが増えてきた。
そんな中「オフィスを持たない会社」として、新時代を生き抜く決断をしたIT企業がここパリに存在する。オフィスレス、100%テレワークという新しい働き方のメリット・デメリットを聞くことができたのでここで紹介したい。
設立は2019年秋、パリに住むwebエンジニア2人のパートナーシップから始まった。
主に不動産業向けのソフトウェア開発を行っている。
パンデミック直前の会社設立なので、コロナの影響でオフィスを解約したという訳ではない。一番の目的は、コスト削減である。IT系はオフィスに出向かなくても仕事ができるという利点を生かし、オフィス費用の代わりに世界中で最高の人材を採用することを目指した。
2人きりで始まった事業だが、直後にコロナ禍が勃発。しかしテレワークの基盤が整っていたため、影響を受けることはなかったという。
それどころかLinkedInで求人を開始すると、コロナで雇い止めを受けた優秀なエンジニア達が集まってきた。今では正社員10名、フリーランスの業務委託が3名と、2年足らずで大きく成長した。
平均年齢は30歳、従業員が住む国はフランスをはじめパキスタン、クロアチア、ウクライナ、モンテネグロ、中国、英国など世界8ヵ国に及ぶ。共通言語に英語を使用しているため、ビジネスレベルの英語力は必須だという。
インターネットにつながるパソコンさえあれば自宅でなくてもよく、旅先で仕事をするのもOKだ。部署はフロントエンド開発、バックエンド開発、3Dデザイン、2Dデザイン、カスタマーサポート、研究開発と6つ。 それぞれにフレックスタイム制を導入しているなど、勤務時間もまちまちだそうだ。
社内の打ち合わせなどは、顔を見ながら会議ができるビデオチャットのシステムと、Slackの「チャットツール」を使う。毎日行うビデオ会議では必ずしも「顔出し」の必要はなく、音声のみの参加も可能で、スタッフのプライバシーに配慮している。
もちろんクライアントともチャットでやり取りをする。
代表の1人は以前、フランスの大手建設会社で働いたということで、前職の人脈を活かし独立前にクライアントを獲得していた。現在、新規開拓営業においてはインターネット広告や LinkedInを利用。これらオンラインツールでさまざまな会社にアプローチしているそうだ。
それではオフィスを持たない100%テレワークのメリットとは何か。
やはり一番は、煩わしい通勤から解放されたことだ。1日の通勤時間が往復2時間とすると、年間にして約500時間となる。500時間をプライベートタイムに回せるとなると、その差は大きい。
また、インターネット上だけの付き合いになるので、オフライン(対面)よりも「伝え方」に気を配るそうだ。オフィスのない会社だが、コミュニケーション量は一般の企業より圧倒的に多いという。実社会でやっていけないことは、ネットの世界でもやってはいけない。全員がそれを念頭に置いているため、オフィスレスの方が「人間関係の摩擦」が起こらないようだ。
すべてのやり取りがチャットツールに保存されているため、誰かが突然働けない状態になっても、やり取りを参照し「引き継げる」メリットもあるという。
デメリットとしては「孤立感」である。
外国にいるスタッフとは気軽にバーに行くこともできない。
さらに相手から声、顔色などの情報を受け取って「楽」をすることができないため、確認作業に時間を取られることも多い。フランスチームは金曜のランチ後になると誰も働かなくなるので(人にもよるが、フランスではよく見られる光景)、業務が滞ることもあるという。
今のところクライアントはフランスのみであるが、将来的にはEU、そして世界に拡大していくことが目標だそうだ。持続可能なビジネスを展開しつつ、10年以内にフランスでナンバーワンのソフトウェア開発チームとなることを目指している。
デメリットの「社員の孤立感」を解消するため、そしてプレゼンの場を設けるため、近い将来にシャンゼリゼ大通りに面したアパートの一室を「サロン」として借りる予定だという。
昨年以降、パリでは空きオフィスの看板などを多く見かけるようになった。単に倒産というわけではなく、このようにオフィスレスの会社が増えてきているのかもしれない。
オフラインがこれから逆に「贅沢」となる時代、働き方の多様化が急速に進んでいる。(セ)