JINSEI STORIES
退屈日記「熱血父ちゃん、なんかおもしろいことが出来ないか、と今日も」 Posted on 2021/08/10 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、シャンゼリゼ大通りで、「オーシャンゼリゼ」を歌えたら、すごいだろうな、と前回のセーヌ川ライブの後、思って、どうやったら、セーヌ川ライブのようなことがパリ市内で出来るだろう、とずっとあれから考え続けてきた。
デルタ株感染が世界的に拡大しているなか、ミュージシャンとしてできることで、面白いことはなにか、模索してきた結果、たどり着いたのが「オープンバス」でのパリ市内ツアー&ライブだ。
それで、これまで数社に「バスの上でライブできるような車両持っていますか? ライブしたいんですけど」と電話をし続けてきたのだ。内緒で・・・えへへ。
そしたら、2社、くらい可能なバス会社が見つかったので、TSUJI音楽グループの配信担当と舞台関係の人間を引き連れて、様子見に行ったのである。
パリ郊外のバスの停車場まで、レッツゴー!!!!!
なんて、面白いこと考えてんだ、このおやじ、とスタッフのM君に言われた。
コロナ感染が流行る前に、パリ市内を走っていた「ディスコティック」なバスがあったことを思い出したのが、きっかけだった。
そういえば、前、うるさいバスが走ってたよね・・・。
これはバスの中からシティービューイングしながら、市内を巡回するというイベントバスなのだけど、ディスコがそのまま市内をめぐるというシステムで、ああ、これ、利用できるな、と思った。
セーヌ川ツアー&ライブは、日本でのライブが三回も延期になり、ロックダウンが続くパリからとんでもないライブと観光ツアーが一挙にできないかと思いついたのが始まりだったけど、最近、マクロン大統領がオリンピックの開会式をセーヌ川でやると言い出したのは、きっと、ぼくの影響だよ、とM君に言ったら、
「すごいすね、辻さん、いろんな意味で、さえてますね」
とバカにされた。
で、ぼくらが下見に行ったバス会社はパリから一時間も車で行かないとならないかなりの田舎の広々とした場所にあった。
大型バスがごろごろと停車していて、まだ観光客がやっと戻り始めた頃だから、稼働率も少なくて、でも、実際にバスを目の当たりにしたら、やっぱりこのアイデアは面白いな、と思った。
セーヌ川クルージングライブは大成功だったけれど、あの時の経験をいかせば、バスツアーはもっと面白くできそうだ、と思った。何せ、その時の経験がある・・・。
「えええ? バスでライブ? いや、難しいね」
といきなりその会社の担当者に言われた。
「大昔に一度、ヘビメタバンドがやって、うるさいと苦情が来たんだ」
「あの、大きな音を出さない、たとえばアコースティックなバンドで、シャンゼリゼ大通りのような広い場所で、オーシャンゼリゼー、とか歌うんなら、どうです? ライブと観光ツアーがセットのような面白い企画なんですけど、それでもだめですかね」
「え? アコースティック? それなら、全然問題ないよ。じゃあ、あのバスとかどう? 二階には屋根がなくて、演奏するスペースもあるよ」
ぼくらは早速、そのバスの上に上がった。
「おお、いいっすね、これ最高っす」
スタッフたちが笑顔になった。ただ、船より値段が高かった・・・ううう。
さて、父ちゃんのこの新しい夢、実現するのだろうか? 相変わらずな熱血な、というか一直線な父ちゃんである。
でも、何か、面白いこと考えてないと、つまらないのだ、人生って。
長期的な夢を何か一つ持ってるのも、日々を生きる上で大事なことだ。
おもしろき事なきこの世をおもしろく、という座右の銘にしたがって、今日も、パリの片隅で、企んでいる父ちゃんであった。
実現できるのだろうか・・・難題だらけだけど、だからこそ、おもろい、人生なのであーる。
声援、お待ちしております。笑。
つづく。
追記。ちなみに、辻仁成のセーヌ川クルーズ&ライブのデジタル・リマスタリング・アーカイブ(2時間以上にも及ぶライブとツアーガイド)はこちらになります。
音がかなり、よくなり、まだご覧になってない皆さま、楽しんでください。
➡️https://t.co/QrtHCEhs3N
再び、あの時の感動と奇跡が!!!!?