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ロンドン最新情報「コロナと共存していくために、今、英国が考えていること」 Posted on 2021/07/29 Design Stories
イギリスでは、コロナウイルス関連の規制がほぼ撤廃されて10日が経つ。ナイトクラブの営業が再開され、レストランやパブは通常通りの営業となり、テーブル席のみの営業だったパブではカウンターでビールを注文するおなじみの光景が戻ってきた。
規制緩和による影響が現れるのはまだこれからだと言われている。一時期は5万人台に達していた新規感染者数は先週から急速に減少したものの、28日は前日より約4000人増えて27734人だった。
感染者数が減少していたのは、サッカーのユーロ選手権の影響が落ち着いたことや、学校の夏休みが始まったことなどによる一時的な現象との見方が有力だ。
イングランドでは入院患者の数がいまだ増加傾向にあることから、ボリス・ジョンソン首相は警戒を緩めないように呼びかけている。
サジド・ジャビド保健大臣は今月半ばにコロナウイルスに感染して発症した。感染が判明した直後、ジョンソン首相や閣僚らはN H S(国家保健サービス)のアプリにより濃厚接触者として自主隔離を求める警告を受けた。この後首相は「毎日検査を行うことで自主隔離をしないパイロット計画」を自ら実践する方針を発表したが、世論の大きな反発を受け、結局10日間の自主隔離に入ったが、今週から完全に復帰している。
イギリスではアプリの警告を受けて60万人を超える人が自主隔離中で、市民生活に支障が出ている。自動車工場の操業に影響が出て生産台数が大幅に落ち込んでいるほか、食品の流通が滞ってスタッフ不足でスーパーが臨時休業するなどの事態が全国で発生し、「ピンデミック」(警告を示す「ピン」と「パンデミック」を合わせた造語)と呼ばれている。
医療関係者や食品流通、交通などの関係者は陰性なら自主隔離を免除する特別措置が始まったものの、政府が約束した職場ごとの臨時検査所の設置はまだほとんど進展していない。8月16日には、ワクチン接種を完了していれば濃厚接触者も10日間の自主隔離をせずにすむようになる計画で、ジョンソン首相は昨日、この計画に変更はないと明言した。
ジャビド保健大臣は自主隔離後の復帰に際して、ワクチンを接種していたおかげで軽症ですんだとして「ウイルスに怖気づいてはならない」とツイッターで述べ、自主隔離をはじめ感染拡大を防ぐための国民の努力を踏みにじるものとして大きな批判を受けた。
英メディアによれば、昨日ロンドンのワクチン接種会場を視察した際には、今後の感染拡大状況について「誰にも予測がつかない」として、「楽観的にならず、慎重な姿勢を持つことが大切」と述べている。
若者の接種率が伸び悩んでいることも不安材料だ。イングランドの18〜29歳で少なくとも1回の接種を済ませた人は66%に留まっている。9月には高齢者の3回目の接種が始まることから、若者は今のうちに1回目の接種を済ませるよう政府は懸命に働きかけている。マイケル・ゴーヴ内閣府担当大臣は、プレミアリーグのサッカー試合観戦にワクチン接種を必須条件とする方針を示すとともに「ワクチンを接種しないのは自己中心的」と述べた。これに対してジョンソン首相は「接種するのは非常に前向きなこと」と言い換えている。
9月末からナイトクラブ入場にはワクチン証明書が必要になることが決まっているほか、大学入学の条件にすることが検討されているとの報道もある。
E Uとアメリカでワクチン接種を完了した人は、イギリス入国後の検疫が8月2日から廃止されることが昨日決まった。同日からは、国際クルーズ船の運航も許可される。観光客やビジネス客が戻ってくると歓迎されている一方で、野党労働党からは、有効性の不確かなワクチンを接種した訪問者が入り込む恐れもあり、感染拡大や変異種発生の危険が伴うと批判している。
一方で、インペリアル・カレッジのニール・ファーガソン教授(疫学・数理生物学)は27日にB B Cのラジオ番組に出演し、全国で3700万人あまりが2度のワクチン接種を完了したことを評価し、「9月か10月にはパンデミックは大方終わりになっているだろう」との見通しを示した。
ファーガソン教授は、去年3月に感染拡大の予想モデルを示し、政府に最初のロックダウンを決断させて「プロフェッサー・ロックダウン」の異名を取る人物で、19日の規制緩和を前に、この夏のピーク時には感染者数が20万人に達する恐れがあるとの見方を示していた。
筆者の周囲で知る限りの人はワクチン接種を済ませているが、規制緩和後の行動の実際はさまざまだ。さっそく友人と一緒に自家用車で別荘に出かけた人もいれば、引き続き人との交流はもっぱらズームでという人もいる。
ネットスーパーのドライバーは、筆者がマスク姿でドアを開けるとあわてて自分もマスクを着けてくれた。
政府が呼びかける「コロナとの共生」をどう実現するかは、個人の判断と行動によるところが大きく、これが今後の予測を難しくする大きな要因になっている。(清)