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パリ最新情報「衛生パスポートの提出が義務化された、フランスの今」 Posted on 2021/07/24 Design Stories
フランスでは21日から映画館や美術館、スポーツ施設などへの入場に際し「衛生パスポート」(PCR陰性証明書もしくは、ワクチン接種証明)の提示の義務化が始まった。
対象は12歳以上すべての国民。50人以上が集まる施設で衛生パスポートを所持していない者は原則として入場を拒否される。
この試みはヨーロッパの中でもフランスが初めてであるが、12日のマクロン大統領の発表から昨日まで、国内は混乱を極めた。
ワクチンに懐疑的な人々はマクロン大統領の政策を「ワクチン独裁」だと批判し、各地で「アンチ・衛生パスポート」なるデモが発生。参加者は最大で11万人を超えた。その内容は連日トップ記事となり、人々の困惑、憤り、焦りの表情などが見て取れた。今週末もフランス全国の都市において抗議デモが予定されている。
一方のフランス政府は21日から衛生パスポートのチェックを開始した施設に対して、1週間の試験期間を与えると発表。今後、効率よく「チェック義務」を実施するためのテスト環境を設けた形で、試行錯誤を繰り返しながらスムーズな流れを定着させる予定だという。
パリの顔、ルーブル美術館では21日の開館時間から規制がスタート。「慣らし運転段階とはいえ、実際には衛生パスポートはチケットのように必須となっています」とレセプション部門統括ディレクターのセルヴァン・ドゥ・ランシール氏はインタビューで答えた。
ルーブル美術館を訪れたEUからの観光客は、「フランスに入国するために、私たちは既にワクチン接種証明を提示しなければなりませんでした。パリに滞在している間はこれを持ち歩くだけです」と笑顔で語った。フランスは現在、右を向いても左を向いても「ワクチン一択」となっている。ワクチンを受けた人は元通りの生活に、ワクチン未接種の人にとってはかなり肩身の狭い社会となってしまった。
衛生パスポートでアクセスできる場所でのマスク着用義務は無くなったが、ルーブル美術館は引き続きマスク着用を推奨している。
パリのもうひとつのシンボル、エッフェル塔も規制の対象となった。エッフェル塔はコロナウィルス感染拡大の影響で去年10月から閉鎖されていたが、感染状況が改善していることを受けて、7月16日におよそ9か月ぶりに営業を再開。
「フランス観光の復活の象徴」として関係者も訪問者もその再開を喜んだのも束の間、それから一週間もしないうちに衛生パスポートの提示義務を余儀なくされた。完全復活の道のりはまだ遠い。
さらにフランス北西部のモン・サン=ミッシェルでも21日よりチェック義務が始まった。モン・サン=ミッシェルでは衛生パスポート+マスク着用が必須となっており、訪問者の密度を徹底的に考慮。ワクチン未接種のため入場を拒否されたという20代の女性は、「モン・サン=ミッシェルの公式サイトには何も書かれていませんでした。ここが対象になるなんて思いもしませんでした」と嘆いた。政府の急な発表により対応が間に合っていない施設もあるようだ。
フランス北部の都市リールでは、勉強のために市立図書館に入ろうとした20歳の学生が入場を拒否された。 QRコードが掲載された衛生パスポートを提示したものの、2回目のワクチン接種が昨日(20日)だったことから図書館の利用ができなかったという。「やろうとしていることは理解できますが、図書館での提示義務は必要ないと思います。住民の一部を混乱させるリスクがあります」とがっかりした様子で語った。
マクロン大統領の発表を受け、多くのフランス国民が慌ててワクチンを受けたこの一週間だったが、実は接種から少し待たなくてはならない。
衛生パスポートの中の<ワクチン接種証明>は、欧州医薬品庁が認めたファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンを接種した人に発行される。製薬会社・コロナ感染歴によっても異なるので、これからワクチンを受ける人は衛生パスポートの使用時期について注意が必要である。
ファイザー/モデルナ/アストラゼネカ:2回接種で2回目の接種から7日後に有効
ジョンソン・エンド・ジョンソン:1回接種で1回目の接種から4週間後に有効
過去にコロナ感染歴あり:1回接種から7日後に有効
(フランス政府公式サイト)
7月21日の仏テレビTF1において、フランスのジャン・カステックス首相は「我々は第4波の中にいる」と明言し、衛生パスポートやワクチンの詳しい内容を追加した。
まず、衛生パスポートのチェックは各施設の義務であるが、衛生パスポートに記載された内容が本人のものであるかの確認は、各施設の義務に含まれない。本人確認を行うのは警察の義務であり、コントロールのようにランダムに行われるという。
また12~17歳の青少年への衛生パスポートの適用については9月末まで延期された。12歳以下のワクチン未接種の子供についても学校に行くことができ、学校における衛生パスポートの提示は求められない。
7月の最終週と8月の第1週にはワクチン接種キャンペーンを強化。8月末までにフランス国民5,000万人が第1回目のワクチン接種を終えることを目標とする、というものだった。
8月上旬からは衛生パスポートの提出義務店にいよいよカフェ・レストランが加わる。バカンス真っ只中の今、パリは人が少ない。その間を狙ったかのような政策だが、オリビエ・ヴェラン保健相は、ワクチン接種の有無を政府が侵害しているとして接種しない人々を非難。
「自由というのは自分と他者を同時に守るワクチン接種を拒否することではない」と議会で訴えた。
いつになく強固なフランス政府に11万人の抗議の声は届くのだろうか。今年のパリの夏は例年より熱いものとなりそうだ。(大)