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退屈日記「父ちゃんのおいなりさん。ひとなりさんのおいなりさん」 Posted on 2021/07/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、実はおいなりさんが大好物なのである。なので、よく作る。
先の日曜日、息子が恋人君とデートに。
「ご飯いらない」と連絡があったので、1人になった。
自分1人のために料理をするのは嫌だ。
ここのところちょっと元気がないので、食欲もない。
冷蔵庫を覗くとおいなりさん用のお揚げが目に留まった。
おおおお、そうだ、アジア食材屋で買ったんだ。(最近、だいたいどこのアジア食材店でも売ってる)
「よし、おいなりさんを作ろう」

退屈日記「父ちゃんのおいなりさん。ひとなりさんのおいなりさん」



思い立つとウキウキした。
ちょうど、シソが3~4枚ほど残っていた。
帰ってきた息子がつまむかもしれないし、残ったら冷蔵庫に入れておけば、冷えて、翌朝が食べ頃になる。
ガリも、生姜もある。ぼくはさっそくお米を研いだ。
酢飯を作って、めっちゃ細かく刻んだシソ、ガリ、生姜、ゴマをいれて混ぜて、詰めるだけなので、父ちゃん的には朝飯前なのである。
時々、フランス人にプレゼントすることもあるが、甘いからか喜ばれる。
彼らは酢飯が好きだし、ガリがまたとっても好きなので、おいなりさんが受けない理由はない。
今、フランスは空前のおにぎりブームだけど、必ず、次においなりさんブームが到来すると踏んでいる。笑。



仏人に、お揚げの説明がちょっと難しい。油揚げをなんと言えばいいのか・・・。
豆腐のフリット、と訳してあげると皆さんだいたい納得してくれる。
豆腐を揚げて、甘いダシにつけたものだ、と教えると、トレビアン、と戻って来る。
一度、友人のアリスとブリュノにも作ってあげたことがあった。
2人は、目を大げさにひん剥いて、なんだこれは、と叫んだ。
食べたことのない仏人には衝撃的なうまさだったようだ。
安価だし、冷蔵庫に入れておけば翌日も食べられるから、お招きされたときにはこれを手土産にする。
日本酒との相性は抜群だけど、辛口の白ワインにもあう。
マコンのIGEという白ワインに最近、はまっていて、これは最高。
食べ残した分はタッパーにいれて、冷蔵庫に入れておく。
デートから戻ってきた息子に、
「夜食に、おいなりさん、作っといたから、よければ食べて」
と言っておいた。
さりげなく、言うのが難しいけど、親心である。
夜中にトイレに起きたぼくは冷蔵庫をあけてびっくり、半分ほどがすでに消えていた。
えへへ。あいつも好物なのである。
ひとなりさんのおいなりさん。
作家で食べられなくなったら、おいなり屋さん展開したろうかな・・・。笑。

退屈日記「父ちゃんのおいなりさん。ひとなりさんのおいなりさん」



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