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ロンドン最新情報「感染再拡大のなか規制全撤廃。不安がる英国民」 Posted on 2021/07/18 Design Stories
イギリスでは、明日からコロナウイルスに関する法的規制がほぼ全廃される。パブやレストランでのソーシャルディスタンスの規定が解除され、ナイトクラブの経営が再開され、劇場やコンサートホール、結婚式場は通常の定員まで客を入れることができるようになることから、関係業界からは歓迎されている。
日常生活では、在宅勤務の要請が撤廃されるほか、公共交通機関や屋内でのマスク着用は義務ではなくなり、屋内での交流に関しても制限がなくなる。
一方で、陽性が確認された人は増え続けていて、2日連続で5万人台と1月以来の水準に達し、さらには昨日、サジド・ジャヴィド保健大臣が自らの感染を明らかにした。
ツイッターでメッセージを口頭で伝える動画を公表し、体調が悪くラテラルフロー検査(無料で配布されるキットを使って自宅でもできる迅速なテスト)を行ったところ陽性になり、その後PCR検査で陽性が確認されたと述べた。
ワクチンの2回の接種をすませていて、症状は「非常に軽い」とし、ワクチン接種を呼びかけるとともに、「体調に不安があったり、濃厚接触の恐れがあったりする人は、ラテラルフロー検査を受けるように」と述べた。
しかしNHS(国家保健サービス)のホームページなどでは、ラテラルフロー検査は無症状の人が対象であることが明示されている。医師からは混乱を招く動画の削除を求める声が上がり、ジャヴィド大臣はその後、「症状がない人はラテラルフロー検査、症状がある人はPCR検査を受けましょう」というメッセージを投稿した。
陽性が明らかになった前日に同大臣と会っているボリス・ジョンソン首相が自己隔離に入るかどうかも含め、今後の政府の対応に注目が集まっている。
規制撤廃は、ワクチン接種計画が目標通り進んでいること、感染者数は急増していても入院患者数の増加はなだらかで、死者数も低いレベルでとどまっていることを根拠としている。感染拡大のリスクが高まる冬季が到来する前に現在の第3波のピークを持ってきたいという考えで、もうすぐ始まる学校の夏休みが「自然の防火壁」になることも踏まえての判断だ。
ジョンソン首相は方針を明らかにした5日の記者会見で「やるなら今だ」と訴えた。さらに首相は、サッカーの欧州選手権(ユーロ2020)の準決勝と決勝の試合で、ロンドンのウェンブリースタジアムで6万人の観客の中に姿を見せてマスクなしで観戦するなど、「コロナとの共生」を実践してきた。
ジャヴィド保健大臣は、「今後感染は拡大し、ピーク時には10万人ほどの感染者が出るだろう」との見通しも示していた。現在の5万人台はまだ許容範囲ということだが、医療現場からは患者増による負担を訴える声が上がっている。
国際的な科学者たちは医学誌「ランセット」に「集団免疫はとるべき選択肢ではない」と題する公開書簡を寄せ、イギリス政府の戦略によってワクチンが効かない変異種が生まれるリスクがあるうえ、ワクチン接種対象になっていないがイギリスの人口の20%を占める子どもたちを危険にさらすことになると警告した。
政府は明日を「自由の日」と呼んでいるが、市民からは実際には「不安の日」だという声が強い。英国統計局(ONS)の調査(7日〜11日)によると、「規制撤廃に不安がある」という人が57%と多数派で、「非常に不安がある」という人も全体の20%に達する。「マスク着用が感染拡大防止のために大切だ」と考える人は90%にのぼり、「規制がなくなっても店舗や公共交通機関でマスクを着用する」人は64%、「人混みを避ける」という人は60%だった。この割合は年齢層が上がるほどに高い。
ロンドンのサディク・カーン市長は、バスや地下鉄などの公共交通機関ではロンドン交通局の規定によって乗客に引き続きマスク着用を義務付けることを決定した。また、タクシーの運転手と乗客も引き続きマスク着用が求められる。長距離列車の運営会社の一部も同様の方針を明らかにしたほか、スーパー大手各社は、引き続き買い物客と店員にマスク着用を求める方針を発表した。
イギリスのコロナウイルス対策はワクチン接種が大きな柱だが、もう一つの頼みの綱が、追跡アプリだ。市民はスマホにNHSが運営するコロナウイルス追跡アプリを入れることが求められている。
感染者が出た場合、濃厚接触者には警告が送られ、10日間の自己隔離を求められる仕組みだ。警告を送られた人の総数が金曜日までの1週間で52万人を超え、従業員が自己隔離のため出勤できないケースが相次いだ。
日産やロールスロイスの自動車工場の操業と、一部自治体のゴミ収集が一時休止したほか、ロンドン市内の地下鉄が一部運休になるなど市民生活にも支障が出ている。
壁を隔てた隣人ともブルートゥースの電波が届けば濃厚接触者とされることが指摘されて感度を下げる計画が浮上していたが、これは感染の急拡大を受けて延期された。英メディアはこの混乱ぶりに「パンデミック」とアプリの警告音「ピン」をかけて「ピンデミック」という造語で政府を批判している。(清)