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パリ最新情報「火災から2年。再建中のノートルダム大聖堂に残る問題」 Posted on 2021/07/07 Design Stories
エッフェル塔はパリを代表し、ノートルダム大聖堂はフランスを代表していることを、2019年4月のノートルダム大聖堂の大火災ののち、人々は悟った。
フランス人のみならず、宗教を超え、フランスに思い出を持つ世界中の人々が、この大火災にショックを受けた。
そして国内外から、潔い寄付があっという間に集まった。
ともかく、燃えた大聖堂の再建への予算に心配はなかった。従って様々な思い切ったノートルダム最新建築のプランが最初のうち提案された。
寺院の全てが燃えたのではなく、主に内部と天井=屋根、そして尖塔が燃え落ちてしまったので、外壁はそのまま、天井部分と尖塔の再建築ではあるが。
メディアを騒がせるいくつもの案は、未来的で、個性的で、多くのメディアも“クレイジーな”とうたうものだった。確かにアニメや映画、ビデオゲームの中に未来のノートルダム大聖堂として出てくる分には笑えて文句はないが、それらがフランスの中心にフランスの顔として存在することは誰でもがイメージし難かった、というより許せなかった。
マクロン大統領はとうとう火災から一年後、1857年に当時の著名建築家ユージェンヌ=ヴィオレ=ル=デュックの指揮のもと建てられた尖塔の形をそのまま再現することに決めた。(ちなみにノートルダム大聖堂の建築が始まったのは1163年とされており、14世紀半ばに原型ができあがり、フランス革命ののち1845年から1867年に大規模な修復が行われている)
その理由は国民の大部分が最新ノートルダムに賛成しなかったからと言われているが、しかし時間的な問題でもあるとエリゼ宮は伝えた。マクロンは燃える大聖堂の前で「5年後には元に戻す」と国民に約束したのだ。
それには同じ素材で元の形に再建するのが手っ取り早い。本格的な国際コンクールを企て、そこから新建築建立の準備に入るにはかなりの時間を要する。
フランスは2024年のオリンピックには、工事中のそれではなく、新しくそびえ立つノートルダム大聖堂を、世界の人々の目に映したいのだ。
ノートルダム大聖堂の前を通るたび、その再建がフランスの通常の工事らしからぬ良いリズムで進んでいるらしいのが感じられていた。セーヌ川に見守れ(火事を止めたのセーヌ川の水だった)大木に囲まれた大聖堂は、傷を負いながらも、いいオーラが流れている、と、思っていたが、しかしそれが幻想だったことを知ったのは昨日だ。
大聖堂付近では、実は火災の厄介な土産が残されていた。大火災により溶け出した鉛による周辺の空気公害である。
火災の際、数百トンの鉛が溶けて、空中を浮遊。弁護士によると火災後3ヶ月後、それに対し現場で働く人々や住民の健康を保護するなんの対処もされておらず、近くの学校に通う子供たちの父兄にも子供に及ぼすリスクを伝えられていなかった。
2019年7月にはあるアソシエーションが大聖堂の鉛公害問題を訴えたが2020年12月に却下。6日、パリの労働組合や環境と健康のアソシエーション、大聖堂周囲に住むの住民たちが、大聖堂の火災による鉛公害への健康保護機能不全を指摘した労働監督官庁の報告に基づき「命の危険にさらされている」と訴えを新たにした。
鉛中毒は神経障害、肝臓ガンなどを引き起こす危険があるという。現在の状況は住民や労働者にとって全く安心できるものではない。
大聖堂のオリンピックまでの再建と、労働者や住民の健康、我らがノートルダム大聖堂の聖母マリアは、どちらを願うのだろうか。(ア)