THE INTERVIEWS
ザ・インタビュー「日本酒を世界に広めたい、宮川圭一郎の挑戦」 Posted on 2021/07/04 辻 仁成 作家 パリ
日本酒を世界に広めよう、ユネスコの文化遺遺産に指定してもらおう、という運動が欧州では続いている。その中心的な運動の一つに、クラマスター(蔵のクラ)というフランス人ソムリエたちが日本の酒を品評するプロジェクトがあるのだ。今度ですでに5回目なのだけど、かなり盛り上がっている。酒というはフランスでは中国の度数の高い酒を連想する人が多く、ここが問題になっている。どうやって区別化させるか、クラマスターらは、ワインに負けない良質な日本酒を世界に認知させるために必死なのである。その中心人物の一人、宮川圭一郎氏に、これまでの動き、これからの大望の話しを聞いてみた。
ザ・インタビュー「クラマスターの主催者宮川圭一郎に訊く」
辻 クラマスターは第1回から550銘柄の日本酒が参加したということでしたが、最初から大反響で始まったのですね。
宮川 当初そんなに来るとは思っていませんでした。このコンクールの準備をするのに6ヶ月くらいしかなく、必死でしたから、300本くらい来れば良い方だろう?と思っていましたが、こんなに皆様から厚いご支援をいただけるとは思っていませんでした。
辻 今回、5回目はどれくらいになったのでしょうか?
宮川 日本酒は960本程度です。今回から「本格焼酎・泡盛」が新しいコンクールとして仲間入りするのですが、約160本です。合計で1000本超えました。
辻 審査は全てフランス人がされるという事で、すごく面白いと思いました。日本人は審査に加わらず、フランスのソムリエの方々が日本酒を評価する、というシステム。このシステムを考えたのは宮川さんなのですか?
宮川 私と、現在のクラマスター会長であるグザビエ・チュイザです。彼はホテルクリヨンのシェフソムリエなのですが、二人でこれを決めました。とにかくフランスのワインのプロの方に自由に評価してもらいたい、フランスの日本酒の生の声を日本の蔵元にお伝えしたいというそういう強い想いがあって、この方法ではじめました。
辻 クラマスターがはじまった経緯をお聞かせいただけますか?
宮川 僕自身、もともと日本酒のコンクールをしたいという気持ちを持っていました。そんな時に、2015年くらいだったのですが、クラマスターとは違うワインのコンクールに日本酒をいれたいので手伝ってくれないか?という嬉しいお声がかかって、お手伝いをしていたんです。そしたら、2016年の4月に行う予定のコンクールだったのですが、そのワインコンクール主催者から、最終的に準備仕切れないという理由で断念されました。日本にもお連れし、日本酒の関係者にもご紹介などしただけに、落胆は大きく、もう、人生は終わりみたいなショックで、しょげていました。そんなすったもんだがあって、2016年の春に名古屋のある蔵元を尋ねた時に、「宮川さん、人のふんどしで仕事すんのやめなさいよ!自分でコンクールするべきだよ」と言われたのですが、でも僕にはそんなキャパシティないですから・・・とすぐに断ったのです。ところが、その夏に、また違う蔵元さんから、「自分でやったらいいじゃないですか」と言われたのですが、その時も出来る訳ないですよ!って、断ったんです。ところが2度あることは3度あるということがありますが、2016年の10月にパリでサロン・ド・サケ(パリで開催される日本酒を紹介するイベント)があって、その時にまた違う蔵元さんから、「宮川さん、コンクールやるべきですよ」と言われたんです。その時にはじめて、「これは神の掲示かもしれない!」と、ガガーーンと、自分の体に雷が落ちてきました!
それじゃ、誰かに電話してみようかな、と思ったときに、グザビエさんから電話で呼び出されたんです。そこで、「日本酒のコンクールやらないか?」と言われたんです。「嘘だろう?」でした、、、。そこからです。本来なら半年後にコンクールを実現させるなんて無謀な計画だったのですが、1年前に別の企画で耕していた畑があったことが、全部生きたかたちになったっていうのが顛末です。これは偶然って思いますか、宿命っていうしかないでしょ、、!?
辻 クラマスターのスポンサーなどはあるのですか?
宮川 日本の地方自治体や組織にスポンサーになっていただいておりますが、基本は非営利団体のアソシエーションですので、主には蔵元さんからのエントリー料で賄っております。三年間ずっと赤字でしたが、今年になってようやくなんとか無事に行えるようになりそうです。
辻 チュイザさんは顔で、宮川さんが全てコントロールしたという事ですね。すごい事だと思います。
宮川 組織として説明すると、運営委員会と審査委員会というのがあって、運営委員会は私たちがやっていて、審査委員会はフランス人なんですよ。フランス側での審査の全てにおける決定権は諮問という形で投げかけて、オッケーが出ない限りクラマスターはできない形になっています。運営は僕たちがしていますが、決定権は全てフランス側ということです。
辻 このコンクールで評価されたお酒というのは宣伝になるのですか?
宮川 フランスでトップになるとすぐに日本で売り切れるようですね。一年目の時の反響を聞いてびっくりしました。今では、勝った瞬間に電話が殺到するそうですよ!
辻 なるほど。審査員の方々のことを聞きたいのですが。
宮川 今年は、日本酒は70名近くいらっしゃいます。日本酒の審査員は基本ソムリエ達です。焼酎は約40名ですけれども、こちらの方はバーマンが主体です。各テーブルのトップはほぼM.O.Fバーマンになりそうです。そして、審査員の半数は地方から呼んでいます。地方に広がることが前提だからなんです。私たちは、このコンクールをやること自体が大事なのではなくて、フランスに広めることが第一義なんです。だから、フランスのソムリエのプロに・・・本格焼酎はバーマンから、そこからカービスト(=ワインショップ)にひろがっていく感じになれば良いなあ・・・という仕組みづくりを考えています。ソムリエとバーマンを集めるって簡単にいいますが、フランスのワインのどのコンクールでさえも、これだけの有名なメンバーが集まるところはないんです。これだけ集めれるのは、私の力なんかでは到底無理ですよ! ソムリエとバーマンのこの二人の会長が集めてくださるからです。やっぱり人が動かす「気」という大きな力が働いて、全てが動くものなのだと思います。いつも思うのですが、「時を得る」という言葉があります。このクラマスターこそまさに、その時であったのだと、今さながらに痛感します。
辻 要は、日本とフランス、大きな大車輪二つの力のクラマスターが動いているのですね。
宮川 おっしゃる通りです。フランスと日本のコラボレーションだと思っています。
辻 メディアはどんな反応なのでしょうか? フランスのメディアも飛びつきそうですが。
宮川 ワインの国、フランスで日本酒の話題なのでフランスのメディアには、まだ大きくは出ていません。ただ、クラマスター開催以降、グザビエ・チュイザ審査委員長へのフランスの大手メディアからの日本酒への問合わせや取材は確実に増えています。毎年、コンクールに参加したソムリエの方々からの発信も少しづつですが増えています。私たちは日本に広めるためではなくフランスに広めるためにやっているので、もっともっと頑張りたい分野だと思っています。
辻 何事も10年はかかりますからね。あと5年後が楽しみです。今年はどこで開催されるのですか?
宮川 7月12日に、エスパス・シャラントンというパリ12区にあるワインの試飲会なんかがよく行われる会場で集まります。ボランティア含め、総勢約200名が集まってくれます。鹿児島県や高知県などの県のスポンサーがブースを出したりもします。コロナの状況で日本からはどなたも来れる状況ではないので、こちらの人間で全てやることになりますね。
辻 フェスティバルなんかになると盛り上がりそうですよね。
宮川 こうやって集まったお酒がありますので、一般試飲会も別な形でやりたいと思ってはいるんですよね。足し算がある感じになるといいなと思います。新しい形の仕組みを作る予定です。
辻 具体的は?
宮川 それは勿論ペアリング。食べ物と飲み物を合わせるということです。今更古いという日本人の方が多いのですが、日本ではペアリングが一般にまで浸透していません。「うにたまごくっさいからよ!」というような、ワインが相性として苦手な食材であるうま味、にが味、魚卵鶏卵マヨネーズ、燻製(くんせい)、酸味(さんみ)、スパイシー(から味)、ヨード香などの料理と日本酒との相性の組み合わせの良さを知ってもらいたいのです。また、ワインのように酸化防止剤(亜硫酸塩)が入っていません。自然派ワインと同じなんだよ、ということも売り出したいです。
posted by 辻 仁成