JINSEI STORIES
退屈日記「コロナ禍から抜け出つつあるフランスの今の様子見的な空気感」 Posted on 2021/06/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日、フランスでは、来年に迫った大統領選を占う統一地方選挙が行われたが、なんと、67,5%の人が投票しなかった、という歴史的にも非常に高い数字をはじきだしてしまった。3割の国民しか、選挙に行かなかったのである。
若者の政治離れと論評する人もいたが、常に政治には高い関心を示してきたフランス人が、これほど選挙に関心を示さなかったのには、間違いなくコロナ禍の影響があるだろう。
今日の感染者数は、1800人だ。もの凄く下がった。平均的には2000人台である。もう、終わった、と思えるような数字である。
一時期は8万人に手が届くような感染者数だったというのに・・・。
明らかに、ワクチンの効果が出ている。
人々は屋外ではマスクを外して、普通の生活を楽しんでいる。
カフェやレストランの店内飲食も可能になり、元の世界が戻ってきたような印象さえ受ける。気も緩む。
ぼくも行きつけのレストランに顔を出し、店内で、食事をするようになった。
最初はテラス席以外ではしないつもりだったが、座席間隔をしっかりと取っている店に入るようになった。
数日前、ぼくは近所のスポーツバーのテラス席で、街の哲学者アドリアン、街の楽天主義者アンジェロなど仲の良いイタリア系移民たちとユーロ2021、サッカーの試合を観戦した。
飛び交うイタリア語、ぼくもその中に交じって、
「グラッツェ・ミーレ、アリベデルチ、マンマミーヤ、イルコント・プレファボーレ、ボンジョルノー、ペペロンチーノ、タリアテッレー」
と知ってる限りの出鱈目イタリア語を叫んで、応援をした。
結局、イタリアがスイスに3対1で圧勝したのだけど、ぼくらのノリノリな応援に、隣にいたスイス人たちも大笑いであった。
それはコロナになる前の2019年に戻ったような光景ですらあった。本当に、こんなのでいいんだろうか、と時々、我に戻りながら、ぼくらはサッカーを楽しんだ。
昨日は左岸地区のデパート、ル・ボンマルシェがバーゲンをやっているというのでハンチングを買いに、というのは、お気に入りのハンチングを20年もかぶっていたから、ボロボロになってしまい、さすがに、これはかぶれなくなってしまったのだ。
店内ではマスクを着けないとならないので、デパートの中にいる人々はみんなマスク姿であったが、とにかく大勢の人が詰めかけ、どこもかしこも、人、人、人、で溢れかえっていた。
しかも、毎晩、若者たちは夜遅くまで騒いでいる。
一応、まだ外出制限が23時までなのだけど、おかまいなく、深夜まで大騒ぎする若者たちが夜の街を闊歩している。
ワクチンの接種が若者の間にも拡大をしたので、安心感が広がっているのは事実で、ぼくも時々、気が緩んでいるな、と思う瞬間がある。
店に入る時はまだマスクがいるのに、マスクを持たずに外出をし、慌てて引き返すことも。
家に戻ると手洗いをするけど、神経質なくらい手の消毒をしていた一年前に比べると、あれがなんだったのか、というくらい、今は手抜きになっている。
ワクチンを二度接種したことで安心感が出てしまい、それが気持ちを緩めている。
ワクチン接種をした人でも感染しないというわけじゃないのに・・・。
英国がいい例(悪い例)で、一時期はほぼ元通りの世界に戻ったと言われていたが、ここ最近は、変異株のせいで、一万人ほどの感染者が出る日もある。
もっとも死者、重症の方は少ない。やはり、ワクチンは有効なのである。
しかし、変異株の動きには気を付ける必要がまだまだあるということだ。
じゃあ、今は、どういう時期になるのか、というと、様子見の時期かもしれない。ワクチンの接種によってどの程度感染を抑え込めているのか、など科学者や政府によって見極められつつある状態である。
今日、エリゼ宮では、政府とディスコやクラブの管理組合が協議をし、いつ、どのような再開を目指すのかが協議される。
本日中に結論が出るようだ。
噂では7月2日からディスコやクラブが営業再開となりそうだ。
すでに、その宣伝が始まっているので、あとは、どのような形態での再開かが気になるところだが、ワクチン接種証明の提示が求められる可能性もある。
ともかく、油断をしないことだと自分に言い聞かせている。
最後の最後で、感染して、後遺症などで苦しむのは避けたい。
ここまで罹らなかったのだから、ぼく自身の感染防止策は間違いなかったということである。しばらくはコロナ下臨戦態勢だけは、維持したい。