JINSEI STORIES

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」 Posted on 2021/05/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、いま、出し切って、家に戻ってこの日記を書いている。
やっと、けじめをつけられた、というか、肩の荷が下りた。
コロナのせいで延期やら中止が続いていたライブを、セーヌ川クルーズとのカップリングでやり遂げることが出来たのだ。
大勢の方々が閲覧してくださったわけだけど、多分、仲間たちや家族と観てくださった方も多いだろうね、・・・

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」



滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」

冒頭、いきなり映像がフリーズしてしまったらしいけど、歌ってる方には実は全然わからないのだ。
カメラの後ろに立つスタッフらが、一斉にこちらに向けて両手でバツ印をしていた。なんか起きてるな、とは思ったけど、なんですか、と聞けないのが面白かった。
そもそも、出航の時間になっても船は動かず、船長が行方不明だとスタッフが大騒ぎして船長を探し回ってる絵も笑えた。
じたばたしてもどうにもならないものもある。
風がふいて、楽譜や歌詞がめくれて大変なことになっているのだけど、ローディのまこちゃんに手を振ったら笑顔で手を振りかえされて、挫けそうになった。
日本人スタッフが4人いて、フランス人スタッフが2人いたのだけど、「ちゃんと準備しとけよ」と言っていたのにもかからず、「携帯見当たらない、私の携帯はどこだ」と探し出すやつとか、ぼーっとしてニコニコ楽しそうに空見てるやつとか、真剣にノってるやつとか(まこちゃんだけど)、演奏している側からすると見ていて飽きなかった。

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」

地球カレッジ

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」



しかし、セーヌ川クルーズにおいて、最大の難関は「橋」だった。
石造りなので、5Gであろうと、通さない。皆さんがチャットで「お祈りしましょう」とか「手ごわそうな橋が前方に見えます」と協力してくださり、ライブ感満載であった。
もっとも、カメラは最初から最後まで録画してあるので、アーカイブで完全版をお届けすることが出来る。今、カメラマンの小田光が編集をしているので、1日から完全版が閲覧可能になります。お楽しみに。

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」

※これが、行方不明だった船長の、ティエリーさん。いい人だった。バラ色の人生が最高だった、と何度も言ってくれて、記念撮影!



それにしても、在パリの方々が川岸や橋の上から声援を送ってくれたのが、本当に、嬉しかった。長いロックダウンを乗り越えた後(まだわからないけど)だからこそ、喜びもひとしおであった。
そこの川岸にも、右岸側にも、左岸側にも、橋の上にも、自由の女神の袂とか、遊歩道とか、ありとあらゆるところから「辻さーーん」と声が飛んできた。
大勢の日本人がパリで生活しているのだなぁ、たぶん、世界中で頑張っている日本人がいるのだ、と思ったら、ちょっとグっときた。
セーヌ川を2時間半かけて小さく一周したのでハーフ・マラソンのような感じでもあった。いや、楽しかった。気が付いたら、父ちゃん、ジャンプしていたし、えへへ。

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」



それにしてもミュージシャンたちは本当に純粋で、バカで、楽しくて、しかもみんな天才なのであった。
コロナのせいで、密閉されたスタジオの使用に制限があり、一回しか練習ができなかったが、ライブがはじまったら、そんなハンデーはみじんも感じさせなかった。
どんな状況下でも、必ず乗り切るのがプロの素晴らしいところだ。しかも、笑っている。ずっと笑顔なのだった。終わり方もほぼ決まってない。どの曲も決めてない。みんなは相当練習しているんですね、と言うが、違います。顔を見合わせて、あげたりさげたり、止めたり、ソロをやったり、ソロもどこでソロとかほぼ決まってなくて、その場その場で、すべてぼくがこっそりアイコンタクト送ってやってもらっている。
ドラムソロのところとか、100%即興で、あれが瞬時で出来てしまう彼らのスキルの高さに脱帽した。
その上、楽器を持ってない時のバックステージも最高で、ツジー、ツジーと動物園の動物みたいに騒がしい。冗談ばっか言ってるバイオリンのマレック、最初から最後まで笑顔が途切れないナイスガイ、ジョルジュ。そして、マイペースのピアニスト、エリック。今日、ずっとベースが聞こえていたので、振り返ったら、右手でピアノを弾いて、左手でベースやってた。天才かよ。笑。

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」



ライブが終わったら、やはりNHK番組のプロデューサー、Lさんから特大のシャンパンが届いていて、一瞬で、動物たちに飲まれてしまった。あの、水じゃありませんよ。
でも、素敵な人生のご褒美だった。また、秋くらいにこのメンバーでパリから配信したいな、と思う。
日本でライブが出来るまで時間がかかりそうだから、こういうクルーズライブが続くかもしれないけど、ある意味、生の醍醐味は一緒なので、楽しんでほしい。
ぼくはちょっと太陽にあたりすぎて頭が痛いから、61歳で2時間半の炎天下ライブは来るね、笑、なので、今日は、ここで失礼させていただきます。

滞仏日記「セーヌ川クルーズ裏話、この陽気な連中と忘れられない思い出が出来た」



自分流×帝京大学