JINSEI STORIES
新刊「父ちゃんの料理教室」が好調で、複雑な父ちゃんからの報告。 Posted on 2021/06/08 辻 仁成 作家 パリ
新刊、「父ちゃんの料理教室」がちょっと、書店さんなどで話題になっているらしく、
6月3日に大和書房の八木さんから、
「せっかくこんなよい時に、Amazonで品切れになってしまい、申し訳ありません」
と泣きそうなメールが届いて、ちょっと心配していたのだけど、土曜日には再び「在庫あり」に戻ったようで、よかった・・・。
いろいろとテレビやラジオで取り上げていただけるようで、情報をまとめると、
すでにぼくがZOOMなどで収録したフジテレビ「ノンストップ」の放送が、6/11(金)に流れることが決まっている。
6月9日に、FMラジオ局J-WAVEにて「GOOD NEIGHBORS」クリス・智子さんの番組にも生出演する。たぶん、ぼくは田舎のアパルトマンからの出演になるかな・・・。
あと、NHKのあさイチさんでも取り上げてくださる、らしい。
レシピ本が続々重版かかっていて、複雑な喜びの中にいて、嬉しいけど、素直に喜べない。小説「十年後の恋」にあんなに精力を注いだので、もっと、読まれてほしいなぁ、と小説家である父ちゃんは思うのだ。
でも、八木さんは喜んでいる。八木さん、鬼だけど、いい鬼だから、許しちゃおう。第二弾の出版依頼も飛び込んだ。はや。
※ 新聞広告も小さくだけど、出るらしい。出たのかな? 鬼の八木さんから辻さんの日常の写真を、と言われ、忙しかったのだけど、探して、数枚送ったら、となりが辺見えみりさんの本で、そっちにえみりさんの写真を使ったから、辻さんのも顔写真にすると週刊誌の広告みたいになるので、料理の写真にしました、という謎の言い訳が届き、えええええええええ、と悶絶した父ちゃん。えみりさんの写真と並びたかった・・・。笑。
さて、(ここからは前にも書いたことと重複するけれど・・・)
食べることは毎日のことだから、ぼくは日々を生きる上で料理を一番大切なことと位置づけしている。
とくにコロナ禍になってから、自分の逃げ場は仕事場よりも圧倒的にキッチンだったし、息子のためというよりも、自分が毎日を乗り越えていく上で美味しいものを食べることに全力を傾けてきた。
そして、美味しいことを追求することの中に、希望や生き甲斐を見つけて頑張ることが出来てきた。
パリの自宅のキッチンは狭い。
でも、居心地がいい。
そこにギターを持ち込んで、煮物が出来るまでのあいだ、歌の練習をしたり、そこにパソコンを持ち込んで小説を書いたり、してきた。
ぼくがキッチンにいることの方が多いので、ぼくを探す時、息子は迷わずキッチンにやってくる。
キッチンで本を読み、キッチンでラジオを聴いたりしている。
ぼくは昔から冷蔵庫を覗くのが好きだった。
中に何が入っているのかほぼ分かってくるというのに、つい、あけてしまうのだ。
電気代が高くなるのを知っているのだけど、あけると落ち着く。
で、数秒考える。気になる食材があると買っていれておくので、確かにたまにあけて確かめないと、期限が切れの食材で出てしまう。
しかし、そういう食材を救出し、あれとこれとそれで何か工夫した美味しいものを作ったりするのも大好きだから、それはもはや、趣味のレベルなのだ。
冷凍庫にはお肉や魚も冷凍してあるので、いざという時は2,3日買い物をしないでもしのぐことが出来る。
そんな日常生活の中から、この本が生まれた。
ぼくが息子に料理の本質を語るスタイルでつづられた一冊でもある。
写真などはあらたに撮りなおしたものもあるし、レシピも連載時より細かくチェックされている。
この本の凄いところは担当編集者の八木さんの執念。
実はこの本、ぼくが何気なく書いた一本のDSサイト内の記事がはじまりとなった。
息子に料理を教えた記事を読んだ八木さんが「ぜひ、これを本にしたい」と連絡してきた。
八木さんは全ての料理を実際に作って、ご家族で全部食べて、「どれも本当においしいです」と言われた。
こちらも悪い気がしない。
読者の皆さんと同じというか、八木さんもぼくの料理レシピをいつもご自宅で再現されていてくれた読者の中のおひとりだったのだ。
ところが、八木さんは大和書房という料理関係の本を多く出す会社の編集者さんだった。
ご自身でぼくの料理を再現しているうちに、これを本にしたい、と思ってくださったのだという。
結構、(ごめんなさい)神経質な方なので、レシピに疑問があるとかなり細かい注文やチェックややり直しが命じられることもあり、・・・。蓋を開けたら、鬼だった。笑。
で、どうレシピを書くと皆さんがぼくが作る料理をよりご家庭で再現しやすくなるかを常に考えてくださったのである。
そのおかげで、本になるまでに、3回くらい作りなおさなければならない料理もあった。
忘れもしない、メンチカツなのだけど、これはもう八木さんの形へのこだわりと、形よりもうまさですよいうぼくのこだわり対決みたいになって、大変であった。
美味しいメンチカツにするには、ちょっと柔らかくしないとならないのだけど、すると形がいびつになる。硬く形成できない、というので、そんなの大事ですか、とぼくが投げやりになったことがあった。それでも八木さんは黙々と再現を続けたのである。
実は、日本とフランスの食材、水、小麦粉などの粉もの、スパイスが、若干違っているのだ。
だから、再現するときに、フランスで作ったものに負けない美味しさにするためには、日本の食材で試す必要が出てくるし、微調整もしなければならない。特に水かな・・・。
なので、八木さんは編集者だけど、ご自宅で何度も試し、ご自身が納得しないものはOKを出さないという、マジで、鬼のような監督でもあったのだ。
もちろん、レシピの微調整などは彼女の助言をもとに行った。
バターを10gにするか15gか、というそういう細かいレベルでぼくらは議論を重ねることになったのだ。
なので、本が出来た時、ぼくはへとへとだった。
毎朝、メールを見るのが嫌な時もあった。八木という名前が受信欄に並んでると、びびって、パソコンの蓋を閉じたり・・・。辟易としたものだ。
「写真がこれでは美味しそうに見えません」「写真の解像度が低すぎ」「もっと主婦の気持ちになって」などと言われ、そのたび、ひえーーーー、となった。
一番忘れられないのは、依頼された、あとがきを、叱られたこと、笑。
ぼくは、時短料理が好きじゃない、と書いたら、
「辻さん、どうしてそんなに上から目線で料理をとらえるんですか? 主婦は時間のない中、頑張ってるんです。時短にも素晴らしい意味がある」
これには二日寝込んだ。
そういう意味じゃないのだけど、でも、その日からぼく自身、時短料理も時と場合によってはとっても大事なことなのだ、と再認識できたのだから、大和書房の八木さんは、凄い。
一生ついていきます!!!
でも、その甲斐あって、このしっかりとしたレシピ本が出来た。
八木さんの細かい真剣なチェックが入ったからこその自信作なのである。
ぼくにとっては息子のために作った日々の料理にすぎなかったのだけど、八木さんのスパイスがかかると、なんだか、家庭料理にしてはごちそうに見えるから、不思議である。
本という形になっていることで、皆さんのキッチンにこの一冊が常に置かれて、手垢がついていくのだな、と思うとこれまた嬉しくてしょうがない。
皆さん、ありがとう。しか~し、
キッチンは裏切りませんよ!!!
※ここに掲載された料理は、本の中のレシピとは関係ありません。最近の父ちゃんの料理です。笑。