JINSEI STORIES
滞仏日記「息子をとり囲むそれぞれタイプの違う3人の少女たち」 Posted on 2021/05/09
某月某日、日曜日の12時までに戻れば地球カレッジに間に合うのだけど、パリを離れて約一週間、息子のことをほったらかしにしていたので、さすがにちょっと気になって、昼過ぎにパリを目指すことになる。田舎大好き、・・・
夕方、パリのアパルトマンに到着したが、息子は不在、外出していた。
過去のSMSをチェックしたら、今週は火曜日あたりに、うん、と一言入っているだけ。ぼくの質問は「大丈夫か?」で、息子の回答が「うん」であった。
夕飯の買い物をするために近くのスーパーまで出かけたが、驚くべきことにマスクを付けてない人が増えている。
マスクを付けてないと135ユーロ(約1万5千円)の罰金なのだけど、堂々と付けていない。数えただけで10人ほどいた。
コロナ政策・アンチが増えてきた、やれやれ、どうなることやら・・・
夜間外出禁止令の制限時間である19時を過ぎたが息子は帰って来ない。
ぼくがいない間、どういう生活を送っていたのか気になったので、冷蔵庫をチェックすると、一応、ちゃんと食べている形跡があった。
流しのシンクには料理をした後のフライパンや鍋が置かれてあった。
19時10分、さすがにやばいと思い、SMSを送ったが返事なし。玄関で行ったり来たりしながら、心配していると、19時半に扉が開いた。
「なに、やってんの?」
「なんか、ピクニックやってたら、時間過ぎちゃった。でも、セーヌ河畔とか、まだたくさん人がいたから、大丈夫だと思うよ」
「ピクニック? 恋人君か?」
「いや、違う。先輩、医学生の・・・ほら、進学の相談とかよくのってくれる子がいたでしょ? あの子」
あ、そういう子がいたな、と思いだした。
息子の進学に関して、ぼく以上にアドバイスをしてくれている、2歳年上の医学生だ。
一度、写真を見せて貰ったことがあるけど、かなり大人びた女子大生であった。
ぼくは個人的に、この子には安心感を覚える。母性もあるし、面倒見もいいので、もしかしたら、この先輩は息子のことを好いてくれているような気もしないではない、・・・。
この子が恋人だったら、大学進学を控えて安定するのに、と思ったけど、息子は、それは違うよ、と首を横に振り続けてきた。
「え?じゃあ、ピクニックしたの、恋人君じゃないんだ。先輩とピクニックしたの? 土曜なのに。恋人はどうした???」
息子が暗い表情になり、
「なんか、違う男の子と過ごしているみたい。いっつも、いろいろな男の人が周りにいる。人気あるんだ。ぼくじゃなくても、いいのかな? パパ、どう思う?」
とこぼした。
ええええ、それ、やばくね・・・。もしかしたら、もしかしたらだけど、恋人と思っているのは息子だけで、その子は、息子のことを、普通の男友だち程度にしか思っていなかったとしたら、・・・うおおおお、そしたら、悲惨だ。
「土曜日に恋人と過ごさないで別の男と過ごすって、かなーり、不思議だね」
「なんかね、ちょっと違うかな、と思い出してきた」
息子は甘いマスクをしていて、実は、学校の女子たちにとっても人気がある。
さわやかな青年に育ったから、男子にも、女子にも人気があるのはいいことだけど、その分、ワイルドさがないし、なんとなく、お坊ちゃんという感じ・・・
ぼくが気になっているのは、誰が今一番息子のことを考え、寄り添っているのか、ということだ。アンナか、先輩か、今の彼女か???
一昨年よりも、去年よりも、息子は確かにかっこよくなった。
でも、そんな息子君が振り回されるくらい今の恋人は人気があり、自由奔放らしい。
「あの子、ちょっと君には敷居が高いんじゃないの? 背伸びしなくてもいい、堅実な子を探せば?」
ぼくがアドバイスすると、そうだね、と暗い表情をして頷いてみせた。逆らわずに、肯ったということはまんざら、外れてもいないような感じがする、・・・。
「ふったことはあるけど、ふられたことはない、って言うんだ」
「はぁ? 何なん、その子、何なん??? 何なん? 何なん? そんなんでいいの? ふってやればいいじゃん、そういう女の子は」
ぼくはなんか、腹が立ったので、言ってやった。
「無理だよ。ぼくには無理」
息子が苦笑して、肩をすくめてみせたので、情けなく感じて、頭を軽くはたいておいた。
「あ、それより、来週の日曜日、アンナの誕生日会があるんだけど、彼女の家に泊まりに行ってもいい? アンナは来てほしいって」
アンナというのは息子の妹のような存在で、この日記でも最多出場の息子の女友だちの一人。ぼくは優しいアンナが大好きで、実は、心の中ではアンナが一番無理なくていいんじゃないかな、と思っているのだけど、・・・
「いいよ、行っても。っていうか、アンナが恋人だったら、そんな気の重い交際をしないで済むんじゃないの? 今の君を見ていると振り回され過ぎで、多分、このままじゃ、長くもたない気がする」
「分かってる。大人の交際期間ってだいたい4年なんだって、でも、青少年はだいたい4か月」
「なんだよ、それ、WHOのレポートみたいだな。で、君たちは何か月目?」
「今日でちょうど4か月目」
あらら・・・。ちょー、あかん。
息子を囲む三人の女性たち、将来の相談に一番のってくれる先輩の女の子、そして、一番古い付き合いの妹のような存在のアンナ、そして、人気者の今の恋人・・・。
なんとなく、息子は今の恋愛が長続きしないのを薄々感じとっているような気がする。さてと、父親として、どういうアドバイスをしてあげたらいいのであろう・・・
つづく。