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退屈日記「息子が悩む恋愛問題、しかし、父ちゃんはもう助言しません」 Posted on 2021/05/06 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子くんから、一切、連絡なし。
前回、「あまりしつこくチェックしないで」という長文の抗議文をもらったので、そういうこと言われると、じゃあ、いいもーん、となるのが父ちゃんなので、今回は心配だけど、LineもワッツアップもSMSも何も送ってないのだ。
もう子供じゃないので、困ったことが起きたら、向こうから連絡が来るだろうから、ほったらかしているけど、パリを離れる前日、食事の時に、浮かない顔をしていたので、
「どったの? 暗いね」
と言ったら、彼女の気持ちが理解できない、と言い出したので、おっと、と思ったけれど、こういうのにもう立ち入らない方がいいと思って、それ以上は聞かなかった。
でも、だいたい、想像はつく。
ぼくがぼくの人生を生きている間にも、あいつにはあいつの人生があって、悩んだり、揉めたり、解決したりしているのであろう、と思ってニヤニヤしている。

退屈日記「息子が悩む恋愛問題、しかし、父ちゃんはもう助言しません」



人間関係をどうやって無理せずうまくやっていくかで、人間は生きやすくなったり、生きにくくなる。
これは還暦を過ぎた今の父ちゃんにも当てはまる人生の重大事で、なかなかこの人間関係で折り合っていくのは難しい。
ずっと他人と揉め続けて生きていく人もいるし、絶交が大好きな人もいた(とにかくかたっぱしから絶交をして、絶交宣言書を送り届ける凄い詩人がいた)し、誰とでもうまくやろうとして全部の人にいい顔ばかりしている人もいるし、面倒くさいから誰とも接しないで生きている引きこもりもいるし、適度にうまくやって何かもめ事があると真っ先に消えちゃう調子のいい人もいるし、関係構築に長けた人もいるし、いやはや、実に他人の人間関係を覗いているだけでも、かーなり面白い。
その中で、自分はどの辺に位置するのかな、と他人をバロメーターにしておくのも一つの方法かもしれない。

退屈日記「息子が悩む恋愛問題、しかし、父ちゃんはもう助言しません」



地球カレッジ

人間はとにかくストレスを溜めないことが大事で、ストレスは万病のもとだし、百害あって一利なしなのだけど、社会という場所はストレスの宝庫なので、どうやってストレスを回避していくか、がとっても重要となる。
人間と接しなければストレスは生まれないけど、誰とも会わないで生きていくのは寂しいから無理でもある。ここら辺のバランスが難しい。

ぼくは、人間は「どんな独裁者であろうと人間を絶対支配できない」という基本スタンスで生きている。
それが他人と接する時の基本なので、相手が自分と違う考えを持っていても、しょうがないね、で終わる。最近は、諦めるのが上手になった。これ、大事です。
他人を思い通りに動かそうとするのは間違いだから、それ以上、言ってもしょうがないね、というのが分岐点になり、それを超えたら、もう何も言わないことにしている。
必要以上に追いかけない。理解しあえないと思ったら、2分で、離れるよう心掛けている。
ストレスを抱えて、自分がくたくたになるのはよくない。
しかし、例外があって、それは家族、特にぼくの場合は息子である。親だから、2分で離れることは難しいねぇ。
この子には幸せになってもらいたい、なんとか幸せにさせてやりたいという気持ちがおせっかいを焼かせてしまうのである。困ったものだ。



息子が恋人くん問題で悩んでいるのはわかった。
ぼく、個人としてはヤングラブは人生勉強の大事なステップなのだから、大いに悩んでほしい、のだけど、当事者はいろいろと大変だろうな、とは思う。
個人的には今のガールフレンド君は息子にとっては今までで、一番、敷居が高そうだ。(自慢げに一度写真見せられたことがあったけど、モデルさんみたいだった。あかんなー、このほれ込みよう、と思ったけど、しゃーないね)
なんか学園の人気者らしいので、まわりがほっとかないようで、息子が気を揉んでいるのが、よく伝わってきた。ふふふ。
「あのね、ストレスを抱えてまで付き合う必要ある? いつもの君のままでそれでも一緒にいてくれる人がいいんじゃないの? そんなに背伸びしている君を見るの、パパは嫌だなぁ」
とは言えない。ぜーーったい言えません。
だから、何も言わない。自分で気づいていくしかない。誰もが通る道を息子も歩いている、ということだから、これはある意味、素晴らしいことなのである。
きっと、こういう恋愛を何度かやり過ごしながら、彼はいい男になって育っていくのに違ないない。
父ちゃんは砂浜を歩きながら、今日も、そんなことを考えているのである。

退屈日記「息子が悩む恋愛問題、しかし、父ちゃんはもう助言しません」



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