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ロンドン最新情報「ワクチン接種後に見えてきた世界。英国が変わった」 Posted on 2021/04/22 Design Stories  

ワクチン接種後は、直後の経過観察の指示もなく、そのまま帰途に着く。
3カ月半の休業をへて再開したカフェのテラス席でコーヒーを飲む人や、公園で日向ぼっこをする人たちを眺めながら、とりあえず戻ってきた平和な春を実感する。
筆者が受けたアストラゼネカのワクチンは、まれに副作用で血栓が生じることが明らかになっている。しかし、超低温保存が必要なファイザーのワクチンなどとは違って通常の冷蔵庫で保存でき、広範に接種を進めるのに好都合という利点がある。
イギリス政府は、まれなリスクが判明したのは、接種後の監視を綿密に行っている成果と説明している。
BBCニュースサイトによると、アストラゼネカのワクチンで重篤な副作用が生じる確率は、55歳の場合、100万人につき4人(これに対して、コロナウイルスによる死亡は800人、事故やけがによる死亡は110人)。
25歳の場合、100万人につき11人(コロナウイルスによる死亡は23人、事故やけがによる死亡は180人)となっている(ウイントン研究所のデータによる)。

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「友だちや家族と再会するなら、外で会いましょう。次のステップに安全に進みましょう」と呼びかけるNHSの広告



一方で忘れられないのが、ボリス・ジョンソン首相の失言だ。
首相は最初のロックダウンから1周年にあたる3月23日、保守党議員たちとのバーチャルミーティングで、イギリスのワクチン接種計画の成功は「強欲」と「資本主義」のおかげだと述べた。
この第一報を大衆紙「ザ・サン」が伝え、他の英メディアもそれに続いた。
首相はすぐに発言を撤回したといい、このミーティングに出席したある議員は「発言をあんなに素早く撤回した人は初めて見た」と証言したという。

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理髪店のウインドー。「首相、あなたの手にもすべてが制御可能ではないということがお分かりですか? (その事実を思い出すために首相の頭に髪が生えているのです)」と書かれている



しかし一般に、イギリスの市民は冷静だ。
「リスクと利点を理解した上でワクチンを接種するのが、コミュニティーのためであり市民の務めである」という意識が浸透している。
この辺りは、日頃からコミュニティー意識が高いことや、NHS(国家保健サービス)の医療従事者のために貢献しなくてはという意識に加え、「最大多数の最大幸福」を掲げる功利主義の伝統が幸いしているかもしれない。
さらに、ヨーロッパ最大の死者を出したことに加え、誰もが度重なるロックダウンを経た痛い経験から、「もうあんな事態は避けたい」という思いが強い。

今の状況が改善しているのは、多くの人がワクチンを受けていることに加え、大きな犠牲を払って行動規制に従ってきたすべての大人と子どもの努力の賜物だ。
逆に言えば、ワクチンを打っても油断は禁物。
接種会場では、ワクチン説明書に加えて、接種後の注意事項を記したNHS発行のリーフレットも手渡された。
その中では、副作用に注意することとともに、マスク着用、手洗いやソーシャルディスタンスといった対策を引き続き行うよう呼びかけている。
有効性が100%のワクチンは存在しないし、抗体ができるには数週間かかる。※欧州では一般的に2週間と言われている。
さらに、今後もさまざまな変異種が出現し、現在接種が行われているワクチンが効かない可能性がある。

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この事実をわかりやすく説明するため、B B Cのニュースサイトでは「スイスチーズの理論」を紹介している。
オーストラリア・クイーンズランド大学のウイルス学者イアン・マッケー博士が提唱したものだ。
これによると、対策として最も有効であるワクチンも、その他の対策(ウイルス検査、陽性者の追跡システム、自己隔離、マスク、ソーシャルディスタンス、屋外で人と会うことや室内の換気、手洗いや消毒)も、100%ウイルスを防げる防御壁ではなく、どこかに穴が空いた1枚のスイスチーズのスライスのようなものだ。
ウイルスは穴をすり抜ける可能性があり、しかも穴は形や大きさを常に変える。
でも何枚ものチーズを重ねることで、ウイルスが穴をすり抜ける確率を減らすことはできる。
それに、ワクチンを接種していれば、たとえコロナウイルスに感染しても、重篤化する確率がかなり減ることがわかっている。
コロナウイルスの流行は、自分がコミュニティーの一員であることを実感するチャンスになった。
自分の順番が回ってきたらワクチン接種を受けることが、自分や家族の身を守ることはもちろん、自分が暮らす街の、国の、ひいては世界の流行収束につながることは間違いない。
それは、誰もが待ち望んでいることのはずだ。(清)

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医療従事者への感謝を伝える手作りのポスターを掲げる家は、今も少なくない



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