JINSEI STORIES
滞仏日記「新たな、かっちーーーーーーーーーん。マジ、あかんな息子よの巻」 Posted on 2021/04/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくがソファで寛いでいたら、(・∀・)ニヤニヤ顔の息子が近づいてきて、なんと、横に座った! え?? 不気味だ。
「ど、どうした?」
「別に」
・・・きもいなぁ。
「小遣いあげたよね?」
「うん、ありがとう。あ、そうだ。どうなった? 完成した? 完成前には行ったけど、完成してからは行ってない、田舎のアパルトマン」
「え? ああ、そうだったね。いい感じに仕上がったよ」
「へー」
(・∀・)ニヤニヤな顔の息子、な、なんだこいつ。
「写真、ある? まだ、見てないから」
「ああ、あるよ」
ということでキッチン、寝室、バスルーム、書庫、仕事場、サロン、などの完成写真を見せた。
すると、携帯に顔を近づけてきて、おーいいね、と目を輝かせながら言った。
しかし、悪い気はしない。
父ちゃんが全精力を傾けて一から作りあげた田舎のアパルトマンである。
これから家具を入れたり、インテリアに力を入れるところだから、手伝ってもらえるし、意見ももらえるし、まぁ、いいか・・・。
「寝室にベッドいれたの? すごいね」
「ああ、これはフランス最高峰のベッドで、電動モーターでマットがあがる。中に大きな収納ボックスがあってね、布団とか枕とかいろいろと、大人だったら二人は十分に入るんだよ」
「へー」
「キッチンもカウンターバーが出来た。コの字状になっていて、4,5人囲んで、パパが真ん中で料理することもできるんだ」
「鉄板焼きのお店みたいだね」
「てっぱん? ちょっと違うけど、まぁ、そうかな」
※ 地球カレッジでの一コマ・・・
「バスルームは今のパリの二倍以上ある。ゆったり浸かれるような工夫が満載なんだ。大きな窓が二つあるから光りがふんだんに入って何より明るい」
「へー」
「でも、なんでかな? なんで、急に興味出たの?」
「その写真、ぼくに送ってもらえる?」
「いいよ。でも、なんで?」
「彼女に見せたい」
「え?」
「いつか、行ってもいい? 二人で」
ええええええ? かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「は? そ、それは、ダメかな?」
「なんで? ぼくんちでしょ?」
ぼくんち?
「だって、パパ行ってたじゃん。いずれ、パパに何かあったら、この家はお前のものになるって」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「あのな。何かあるって、死ぬってことか?」
「そんなこと言ってないし、長生きしてほしいよ。パパ、パパはぼくが面倒みるから、心配しないで。パパは大船に乗ったつもりでいればいい」
「え?」
ちょっと、嬉しい、父ちゃん。
「でも、そこはぼくの家でもあるわけでしょ?だから、いつか彼女と行くこともあるでしょ? 今じゃなくても。その時のことを二人で想像してもいいんじゃないかな、と思って」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
ぼくは頭が動かなくなった。※目を閉じ、かぶりをふる、父ちゃん・・・
「ええと、・・・」
「いいでしょ? いつかだよ。今じゃなくて」
「ああ、・・・そうやね」
「彼女に昨日、田舎の家の話しをしたらね、もっと聞かせてって言われた」
「はぁ?」
「楽しかったんだ。未来があるじゃない。近くにあんなにきれいな海があるし、山もあるし、さすが、パパ、素晴らしい田舎だよ」
「・・・」
「来年、ぼくら成人するんだから、なんでも自由にできるじゃない。田舎に二人で行きたいじゃない。パパだって、大学生の頃に、もしもジジが田舎に別荘持っていたら、絶対、利用していたでしょ?」
「利用?」
「変な意味じゃないよ。ぼくらはまだ子供だし、そりゃあ、そうでしょ?」
「そりゃあ、そうって、なにが、そりゃあ、そうなんだよ。調子にのるなよ。あそこは、パパが、これからコロナ禍の世界で、疲れ切ったパパがここまでの苦しさから避難してだな、人間らしく創作に向かうための聖域なんだよ。聖域、わかるか? サンクチュアリーだよ」
「なるほど。それでいいんじゃないの」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「それとこれとは話しが別で、パパはパパ、ぼくはぼくでしょ?」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「パパが日本に行ってる時とか、いいんじゃいの? どうせさ、誰も使う人、いないんだし」
「・・・!」
「ぼくの家でもあるんだから。パパは言ったんだよ。いいか、ここはお前の家でもあるんだ。だから、喜べって。あそこを買った日に!」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「ちょっと、頭が痛くなった。この話しはまた今度にしよう」
「夏休み。パパが使わない日にちょっと二人で海を見に行く、その、ついでに立ち寄ってもいいよね、ぼくんちに?」
「悪いけど、頭が、・・・割れそうなんだ」
「じゃあ、考えといて。ありがとう」
ぼくは、激しい頭痛に襲われ、今日はここまでにします。
皆さん、よい一日をお過ごしください。
つづく。