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パリ最新情報「コロナで閉鎖中の企業やレストランの駐車場に住み始める移動生活者たち」 Posted on 2021/04/11 Design Stories
パリ郊外のとある企業の駐車場で、キャンピングカーが何十台と並ぶ光景は、このコロナ禍において何かのイベントか? と目を疑った。
屋外ライブの音楽フェスを彷彿とさせる、連なるキャンピングカーとテント。洗濯物もはためいている。
フランスには移動生活者「旅する人たち(Gens du voyage)」という、キャンピングカーで移動しながら生活をする人たちがいる。
大人数でコミュニティを形成する現代の遊牧民だ。
そんな「旅する人たち」が、パリ郊外で閉鎖中の企業や、レストランの駐車場、学校の校庭などに居を構えるというニュースが増えてきた。
起源は様々あり、「ロマ」や「ノマド」とも呼ばれているが、公的には「旅する人たち」とし、法律でも移動生活は認められ、フランス国民としての地位も守られている。
古くから露天商、旅芸人を生業としており、今でも、移動式遊園地などを経営している。
他にも廃品回収を収入源にしている人たちも多い。
巨大商業施設周辺が好まれるのは、廃棄品が多く出るからだ。
「旅する人たち」は、主に気候の良い南仏を生活の中心地としていたが、ここにきて北上を始めた。
パリなどの大都市に近づくほどに、住民の所得が上がるので、いわゆる掘り出し物に出会える確立も上がるのだ。
以前であれば、都市への流入には壁があったが、今はロックダウン中でひと気がなく、止める者もいない。
たとえ私有地を占拠しても、警察はなかなか動かない。
というのも、彼らが1ヶ所に留まるのは数週間で、何ヶ月も占拠し続けることはなく、そのためにわざわざ追い払う手間をかけないのだ。
大人数である場合が多く、それだけの人員を集める余裕が警察にもないのだろう。
冒頭の、私がみた企業の駐車場にも、通報を受けてきた警察官が二人いたが、何をするわけでもなく、現場を眺めているだけであった。
また5000人を超える市町村に、彼らが来た場合には、場所を提供しなければならないという法律がある。
専用の場所を備えていない自治体では、誘導する先がないので、そのまま時が経ち、出ていってもらうのを待つしかないのだ。
コロナ禍において、人手が手薄になった場所を、どうしても占拠されたくない場合は、物理的に入れないよう、瓦礫を置くなどの対策が講じられている。
以前、とある私有地の前にオーナーのものと思しき高級車がとめてあり、高級車で入り口を塞ぐという大胆な対策に出る人もいると知った。
しかし、「旅する人たち」だから貧しいというわけでもない。
特に音楽の世界では、ワールドミュージックとして一ジャンルを築くほど。
その中でも、世界的に成功を収めたのは、その名のとおり、「ジプシー・キングス(Gipsy Kings)」。
「ジョビ・ジョバ (Djobi Djoba)」は、日本でもCMソングとして使われていたので、聞いたことがある人も多いだろう。
哀愁漂う彼らの音楽を聴いていると、根っからの旅人としてのDNAが、コロナ禍をきっかけに、更なる新境地を求めて北上してきたようにも思える。いまだ過渡期としての問題は残しつつも、「旅する人たち」という独特な存在を認めようとするフランスに多様性を感じた。(ウ)