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退屈日記「田舎の新居で目が覚めた。快眠。何かが違う世界で一番静かな朝」 Posted on 2021/04/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、記憶にないくらい、久々の爆睡だった。
一回もトイレに起きなかったのはここまでの爆睡は
何年ぶり? 
いや、何十年ぶりだろう。
そもそも、寝つきが浅いショートスリーパーのぼく、2,3時間寝たら長い方だった。
睡眠障害なのであろう。
でも、昨夜10時半には寝落ちして、起きたら7時半だったので、なんと、9時間、ノンストップで寝続けたことになる。
いつも眠りが浅かったので身体が重く、潜水服を着ている目覚めるような感じだったのに、今朝は、まるで20代の自分に戻ったみたいに、もの凄く爽快で軽い目覚めであった。
いったい、これはどういうことだろう。

退屈日記「田舎の新居で目が覚めた。快眠。何かが違う世界で一番静かな朝」

地球カレッジ

退屈日記「田舎の新居で目が覚めた。快眠。何かが違う世界で一番静かな朝」



「哲学の一畳間」と名付けた書庫の小窓から遠くに広がる海を眺めた。
コーヒーを淹れ、布団に戻り、隣村? 隣町? にクロワッサンを買いに行く前に今この日記を書いている。
昨夜、夕食は漁師のスタンドで売っていた鯛を焼いて食べ、照明がまだないので、薄暗い部屋でぼんやりワインを飲んでいたら、太陽が海の向こうに沈み始めたら、暗い裏山から、カモメとか鳥たちのもの凄い鳴き声というかかなり不気味な、うおっほうおっほ、という地鳴りのような大合唱が聞こえだし、ぼくの部屋は屋根裏部屋なので、もしかしたら上に大群がおるのか、凄いにぎやかになって、ちょっと怖くなってベッドに入って寝落ちしたのだけど、朝は静まり返って、無音なのである。静寂という言葉がまさにぴったりの「田舎の朝」であった。

退屈日記「田舎の新居で目が覚めた。快眠。何かが違う世界で一番静かな朝」

※昨夜、沈む夕陽を「哲学の一畳間」から。



この土地に来ると、よく眠れるのは前からうすうすわかってはいたけれど、一つ理由が分かった。
実はここ、Wi-Fiも通ってない。
民家も、ぽつんぽつんと古いお屋敷があるだけで、小高い丘の上にあるので、坂道を15分ほど歩いたら村の中心部に出る。
そこから20分くらい歩いて、川を渡ったところに人口2000人くらいの町がある。
そういう場所だから、ともかく、電磁波が飛び交ってないのだろう。
よく眠れる理由はそれしか考えられない。
都会と田舎の違いは、人口密度に比例して、電波も少ないのだ。
目に見えない世界がぼくを今までずっと抑え込んできたということになるのか。
少なくとも、導眠剤がなければ長いこと眠れなかったぼくが、何にもしないでカモメたちの大合唱を聞きながら寝落ちして、驚くべきことに夢も見ないで爆睡できたことは、ここに新居を構えたことの小さな収穫と言えるのではないか、と思った。
このあたりはパリとは比較にならないくらい、感染者も、陽性率も非常に少ない。
そういう面でも安心して暮らせる。

退屈日記「田舎の新居で目が覚めた。快眠。何かが違う世界で一番静かな朝」

※このコーヒーカップは両手で持って、真ん中に口をつけて飲むのだ。フランスの女性作家さんの傑作。笑。

息子に、大丈夫か、とメッセージを送った。
「パパ、ぼくはハッピー」
というメッセージが戻ってきた。
彼は若い、若者には都会の刺激とエネルギーが必要である。
でも、彼もいずれわかるだろう、ここの良さが・・・。
あいつがここに来る日が楽しみである。

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小さなお知らせです。
明日、2021年4月4日の日曜日の地球カレッジは料理雑誌dancyu の植野編集長とぼくが、ワインにあう日仏酒の肴対決と題し日仏の比較食文化とめっちゃ美味しいおつまみの作り方など盛りだくさん。ぼくは田舎の新居から生配信できそうです。白ワイン片手にご視聴ください。笑。

植野広生× 辻仁成 「日仏酒の肴対決」(植野レシピ付き)

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