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滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」 Posted on 2021/03/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリ脱出計画が順調に進んでいて、午前中、インテリアデザイナーのジェロジェロことジェロームから送られてきたキッチンの写真をみながら、長話しとなった。
想像通り、というかイメージ通りの出来栄えに、にや。
「アパルトマンの工事は終わりました。支払いと鍵の引き渡しをしたいんですけど」
「ロックダウンだけど、行けるの?」
「最終確認してもらわないとならないし、つまり、家の引き渡しは家主がいないと進まない問題でもあり、外出許可証はこちらで作成することができます」
「じゃあ、そこからオンラインで日本に配信も出来るってこと?」
「オンライン? 配信?」
ぼくは地球カレッジのことを説明した。
Dancyuという料理雑誌の植野編集長とワインにあう酒の肴の、日仏文化の比較論的な実演講義をオンラインスクールでやるのだけど、タイミングがあうなら、せっかくだから新しいアパルトマンの自慢のキッチンから配信したいのだ、と事細かに説明をしたのであった。
「へー。今時って、そんなことも出来るんですね。で、いつです?」
「4月4日の日曜日だけど。可能かな? 泊れる?」
「4月4日…。ええ、泊まれますよ。あ、でも、給湯器が」

滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」




「給湯器?」
「キッチンは大丈夫なんですけど、お風呂の給湯器を新しいのに取り換えないとならず、一応、頼んでありますけど、そうだな、ぎりぎり、4月4日なら、間に合うかな」
「間に合うなら、やろうかな。間に合わないとなると風呂なしか、…」
「業者を急かしますね。IHコンロとオーブンと冷蔵庫はすでに設置完了。キッチン周辺の水回りも大丈夫。あのォ、ちょっと聞いていいですか?」
「はい」
「ムッシュも料理をやるんですか?」
えへへ、とぼくは笑って誤魔化した。ここではオンリー作家ということになっている。
「料理雑誌の編集長も料理が好き過ぎて編集長やりながらあちこちで料理も作ってる。ぼくも作家だけど料理が好き過ぎて時々出張シェフとかやってる、趣味でね。ようは料理が大好きな二人が日仏のおつまみの違いなどを実演しながら比較する会なんだ」
「へー」
「フランスにはアペロの文化というか風習があるじゃない。日本も最近、アペリティフが盛り上がる」
「こっちは19時くらいからアペロタイムですからね~」
「ぼくもなんだかんだ在仏20年選手になってきたからさ、日本の皆さんに、アペロのおつまみをいろいろと紹介したいんだ。泡とおつまみ、最高」
「カナッペとか?」
「そうそう、カナッペとか、簡単なおつまみをね。スペインのピンチョスみたいな」

滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」

滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」




「ああ、いいすよね。日本にはアペロ文化なかったんですね」
「うん。でも、最近、アペロって言葉も広まってきたから、ここで、料理雑誌の編集長と酒の肴対決をやって、日仏の文化の違いとかを学ぼうという会なんだよ」
「へー、対決? ここと東京をつなげるんですか」
「うん。植野編集長が3、4品。ぼくも同じくらい作る。でも、それぞれの国の小皿料理にはそれぞれの歴史感、文化感、哲学、地理学も影響してくるからね、日仏の文化の違いなどにも話は脱線して、お互いの食いしん坊哲学を極めるような講座になると思うんだ」
「??? 難しいからよくわかりませんけど、でも、ようはなんかちゃちゃと作る裏ワザ紹介のアペロつまみの会ですね」
「ういーーー」




「それにしても、いきなり新居でやっちゃうんですね。まだ、寝てもいないのに」
「前日入りして、その前の晩に寝るよ。NHKのドキュメンタリーの撮影もあるから、寝てるところを自撮りする」
「ムッシュ。あんた何者なんすかぁ?」
「ぼく? ぼくは全身アーティストだよ」
「全身アーティスト! わかりました。とにかく、大至急、プロンビエ(給湯器業者みたいな)に連絡をいれます。でも、どういう技術で日本とフランスをオンラインでつなげるの?」
「そこなんだよね。Wi-Fiがこの村にはないからさ、当日は4Gでやるんだ」
「へー、出来るんだ」
「いちおう、最新型の4Gボックスという機器を買ったけど」
「4Gボックス! なんすか、それ」

滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」

※これが新兵器、4Gボックスだ!




「携帯の電波を束ねる機械。ベルサイユ宮殿のオンラインツアーでも似たようなものを使ったんだけど、なかなか優れものだったよ。ただ、心配もある。というのはうちの裏は山でしょ、で、前は海だもんね。ベルサイユは街だったけど、ここは、めっちゃ田舎だし。1万キロ離れた日本に映像を途切れることなく送れるかはちょっと心配。台風みたいな海風が吹くからね、どうなるか、わからない」
「もしかしたら、ちょっとは乱れるかもですね」
「前回行った時に、回線テストをやってあって、一応、ネット速度はクリアできてるんだけど」
「うまく、行くように祈ってます。てか、手伝えることがあれば手伝いますよ。うちの叔父が漁師なんで、牡蠣とかホタテとかウニとか、魚介ボックス、届けましょうか?」
「ええええええ??? マジかぁ、魚介ボックス!!!!!!」
「マジですよ。工事うちで決めて貰えたから、そのくらいお礼したいし」
ということで、大変なことになってきた。どうなることかわからないが、電波が乱れるのが苦手な皆さんは今回はやめた方がいいかもしれない。給湯器の問題もあるし、やれたらいいなぁ、とは思っているが、人生、一寸先は闇だから、…。えへへ。

つづく。

滞仏日記「田舎のアパルトマンがほぼ完成した。いよいよ脱パリ生活、迫る」

お知らせです。
植野広生× 辻仁成 「ワインにあう日仏酒の肴対決」

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