JINSEI STORIES
自分流塾「今、未来を描けず、軽い絶望の中で生きている君へ」 Posted on 2021/03/19 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、人間(自分)の力だけではどうすることも出来ない今のこのような世界の状況の中で、朧げな不安に苛まれ、軽い絶望に似たような気持ち持って生きている人がなんと多いことでしょうか。
特に心配なのが、若い人たちです。
ぼくも仕事柄、多くの学生たちと向かい合い語り合うことがありますが、長期的な視点で、終息や収束が見えないコロナ禍の中で、心が不安定だと訴える学生たちが普段よりも目立っているように思えてなりません。
本来なら一番明るい未来を夢見て生き生きとしているはずの20歳前後の若い人たちが、未来を描けず、心の病に陥り、病院に通っていたりする厳しい状況なのです。
これはフランスだけではなく、世界各地で起きている問題でもあります。
イメージしていたような大学生活がおくれない、
リモート授業が続く、
心に描いていた未来が予測できない、
将来が不安でならない、
仲間と集まって騒ぎたいけどそれすらできない、
外出制限が続いている。
普通に考えても心が苦しくなります。じゃあ、いったいどうしたらいいのか、そのことを一緒に考えてみましょう。
まず、ぼくがここで一緒に考えてみましょう、と提案したことに注目してください。
心が弱っているな、と思ったら、理解のある周りの仲間や頼れる大人に相談をしてみるのも大事です。
声を出すことがまず負の状況から脱する大事な一歩になります。
みんなに自分の気持ちを伝え、話し合う中で、解決とはいかないまでも、僅かな希望の光りを見つけ出すことができるかもしれない。
抑え込んでいた不安を解き放つこともできる。
これを友人や仲間たち、同じような不安を抱えている者たちと、どうやったらそこから回避できるか、議論し合っていくのです。
時間がかかりますが、一緒に考えることで、自分が決して一人ではないことに気が付いていくでしょう。
その次に大事なことは、遠くを見ないことです。
霧の酷い日に車で長距離のドライブをするのは危険です。
暗い夜道に懐中電灯もつけずに歩くのも危険です。
そういう状況下で人間は必ず足元を見て行動をします。
ぼくは今、人類は自分の足元を見るべきタイミングだと思って仕方がないのです。
遠くを見よう、遠くをイメージしようとすると絶望に襲われる時代ですから、自分の周辺を見回して、特に足元を見つめ、その限られた世界にもう一度足場を築くことから始めてみるわけです。
遠くをイメージ出来ないのだから、今、手を伸ばせば出来る範囲の中にこの場を凌ぐ手段を作っていく、という方がいいかもしれない。
大きなこと、壮大な野心、長期的なビジョンはいったん保留し、その場で出来ることに注力していきます。
ネットフレックスを見ること? もちろん、それは楽しいことですけど、そうじゃなくて、生産していくのです。
家内制手工業という言葉を学校で習ったかと思いますが、家の中に自分のファクトリーを作ってしまう、という発想をイメージしてみてください。
あなたが学生であっても、もしかして、15歳の学生でも全然かまわない。
45歳で、会社員でも大丈夫です。
生産を家の中でする、というイメージを持ってみるのです。
生み出す時に必ずエネルギーが生じます。それが大事。
じゃあ、どんな生産があるのか、一緒に考えてみましょう。
生産なんか出来るかな、と悩まないで、なんでもいいのだから、何か日々の中に生み出すものを探す。
そうすることで、人間はそこに目標を見つけることが出来ます。この目標が大事。
これはもしかしたら、学ぶことでもいいのかもしれないですが、あえて、生産という言葉に置き換えましょうか。
例えばぼくが運営するウエブサイト、DesignStoriesには書いた経験のないけど書きたい学生さんが応募をしてきます。
表向き募集はしてませんが、ぼくが彼らの原稿に意見をいうことがあり、そこから実際に記事が生まれたことがあります。
その中の一人の学生はスウェーデンの子でしたが、面識もありません。
でも、コロナ禍で日常が塞がれ、ぼくのところの門を叩いたのです。
この方は書きたいという思いがあったからこそ大学で勉強していましたが、学校が封鎖中なので実践に出たわけです。
ぼくらは彼女と向き合い、スウェーデンで学生生活を送る学生の孤独と希望を小さな記事にまとめることが出来ました。
この子はその後、もう一本、書き上げました。
料理が得意ならYouTubeに料理の動画をどんどんアップしていくのも方法ですし、そのための機材などを取り寄せて学んでいけば、撮影の楽しさや面白さを習得できます。
ぼくは息子とはじめた2Gチャンネルを持っているけど、時々、ここで遊んで気分転換をしています。
アクセサリーとか、小物を作ってみてもいい。
それを作るだけではなく、販売してみるのです。販売のルートや方法を研究します。
家内制手工業ですから、全部、自分でやっていかないとならない。
宣伝とか、発送とかも…。でも、そうやって、身体と頭を動かすことで閉塞感に対抗できるんです。やらないよりはやった方がいいといいますが、まさに、実践が大事。
灯台は遠くばかりを照らしています。でも、自分の足元にこそ、偉大なるヒントがある、大切な仲間や家族がいる。
そこにこそ、光りを注ぐ時代なのだとぼくは思います。
生産をはじめてみましょう。
何かを生み出してみましょう。
そのコツコツが生きる大きな力になるかもしれませんよ。
ぼくはこの年齢になっても、毎日、自分の足元を見つめて生産を続けています。
少しでも、光りのある方へ、、、