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滞仏日記「いったい、ぼくは何歳までかっちーーーんして生きればいいのか」 Posted on 2021/02/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、仕事が立て込んでいて、遅くまで仕事に追われ、寝たのが2時を過ぎていた。
遠くでドアの閉まる音がしたので、枕元の携帯で時間を確認したら、朝の6時半だった。
上の階の人がトイレに起きたのだろう、と思って、暗かったし、確認せず、もう一度寝た。次に起きたのは、朝の7時だった。
トイレに行きたいけどもうちょっと寝たいよー、と思いながら枕を抱きしめていたら、じわじわと目が覚めてきて、ああ、もう我慢できない。しょうがない、トイレに行こうか、とベッドを出たのが朝の7時半だった。
息子の部屋の前を通ったが、真っ暗らだった。夜更かししていたから、(深夜二時まで勉強かなんか知らないが)、遅くまで灯りがついてたから、まだ、寝ているのだろう。

滞仏日記「いったい、ぼくは何歳までかっちーーーんして生きればいいのか」



まったく~あの野郎、と思いながら、今日はNHKの撮影がある日なので、ばたばたと機材準備などをしていたのだけど、8時になっても息子が起きてこない。
休みをいいことに、ぐうたらしやがって、この色ボケ男爵メ、とムッとしながら、彼の分の昼飯を作り、テーブルの上にサランラップをして置いた。
そうこうしているうちに出発の時間、9時となったので、仕方ない、起こすか、と息子の部屋に顔出したら、えええええええええええええええええええええ、いない。
息子の名を数回呼んだが、返事なし。もしかして、水漏れからの漏電が原因で感電死とか、勉強のし過ぎで倒れてるとか、まさか、まさか、まさか、しかし心配になり、部屋に飛び込み、電動シャッターのボタンを押した!
ぎいいいいいいいいいいいいい、と音をあげながらシャッターが開き、室内が明るくなった。おおお、もぬけの殻じゃあああああ!
ベッドにも、机の下にも、どこにもいない。
父ちゃん、家中探し回ったが、見つからなかった。ということは外出したのか? いったい何時に? ミステリィ~。

滞仏日記「いったい、ぼくは何歳までかっちーーーんして生きればいいのか」



夜間外出禁止は夕方の18時から翌朝の6時までとなっている。
逆を言うと、朝の6時から外出ができる。そういえば、6時過ぎにドアが閉まる音がしたのをおぼろげながら、ぼくは聞いていた、あ、あれは息子だったのかぁ。
まさか。真っ暗なのに、出かけた? 
デート? 
マジで? 朝の6時から夕方6時までの12時間コースってか!? 
もしもそうならば、やるじゃん。
って、違う違う。感心している場合じゃない。
何にも言い残さず、早朝から外出するやつがいるか? ぼくは怒り心頭に発しながら、SMSで、どこにいるんだ、こら、連絡してこい、と送ったのだけど、待てど暮らせど、返事なーし。
時間切れとなり、ぼくも撮影に出かけることになった。息子の安否を気にしながら、カメラなどわんさか機材を抱えて、9時半に家を出たのであーる。



撮影中も、気になったが、こちらもそれどころではなかった。
しかし、いくら冬休みとはいえ、ニースが再びロックダウンになり、パリ首都圏も次はロックダウンかと言われている昨今、朝から晩まで出歩いている受験生はさすがに問題あり。
内心は曇天状態で、快晴のパリの空の下、カメラの前で笑顔を向け続けた父ちゃんであった。そして、午後、17時半、一応、こちらの撮影は無事終了となり、ピエールらと別れ、家路についた父ちゃんであった。

滞仏日記「いったい、ぼくは何歳までかっちーーーんして生きればいいのか」



18時を過ぎても、息子が帰って来ないので、さすがに心配になり、もしかしたら、神隠しにあったのかもしれない、などと変なことを想像してしまい、落ち着かない父ちゃん、SMSで、「今どこだ、いいかげんにしろよ」とメッセージを送ったら、
「今、玄関」
と即戻ってきた。へ?
ドアをあけて、階段を覗き込んだら、余裕ぶっこいた顔で息子が堂々と階段を登って来るではないか。さすがに、かっちーーん、となった。
「お前さ、朝早くでかけるなら、出かけるよってなんで、一言メッセージ送れないの?」
すると、息子はヘッドフォンを外し、
「あ、なんか、連絡しようと思ったんだけど、彼女と会ったら、すっとんだ」
ときやがった。
かっちーーーーん。
「さすがにちょっとデートし過ぎじゃないの? そんなんじゃ本当に大学受からないよ」
「大丈夫。あなたの息子を信じなさい(どっかで聞いたことがあるぞ)」
そう言い残すと、息子は家の中へと入って行った。くそ、なんだこいつ。
ぼくは慌てて追いかけ、
「いったい、12時間も何やって遊んでるの? 何、食べたの?」
とぶつけた。
息子は、荷物を下ろしながら、
「昼はサンドイッチ食べて、夜はピザ」
「夜? 夕飯はこれからだけど、すでに夜も食べたのか? ごはん作ったのに」
「食べたよ。二人で食事するの楽しいし、温かかったからさ、公園でごろごろピクニックしたんだよ」
「12時間もか? 彼女とか? トイレとかどうした?」
「我慢した」
「12時間も我慢したのか?」
「パパ、そこまでチェックするの? もう子供じゃないんだから、ほっといた方がいいよ」
かっちーーーん。
「ほっといだ方がいいよって言い方がこの世にあるのか?」
何を言ってるのかもうぜんぜんわからない父ちゃんであった。
「だから、自分でなんでもできるし、考えることが出来る年令なんだから、心配はいらないよって意味だよ。それに、作ってくれたご飯、明日の昼にちゃんと食べるね。いつも、ありがとう。じゃあ、ちょっと家に無事ついたことを連絡しないとならないから、今日のところは、ここまでにしておこうか」
かっちーーーん。
息子は思い出すようにトイレに行った。
ここまでにしておこうか、だと。
まんまみーや、なんたるこっちゃ、ぺぺろんちーの、こんちくしょーめ!

滞仏日記「いったい、ぼくは何歳までかっちーーーんして生きればいいのか」



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