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父ちゃん育児日記「育児放棄しそうなお母さん、大丈夫、あなたはよく頑張っているよ!」 Posted on 2023/01/07 辻 仁成 作家 パリ

父ちゃん育児日記「育児放棄しそうなお母さん、大丈夫、あなたはよく頑張っているよ!」

若いママ友からメッセージが飛び込んだ。
「センセー、育児に疲れ切りました。育児放棄スレスレなんで、カツ入れてくれださい!」
シングルマザーで6歳と4歳のお母さんであった。
普通より少し遅い結婚で30代の終わりに立て続けにお子さんが生まれ、40代になった途端に、ご主人が出奔(?)し、編集プロダクションで働きながらシングルというのだから、疲れて当然であろう。
「育児をあまり義務みたいに思わないで、肩の力抜いて、適当にやっときなさいよ。それは育児放棄じゃなく、育児疲労だから、大丈夫だぞー」
と、いつも、ぼくがぼくに対して思っていることを、メッセージにして、送っておいた。



「ありがとうございます。何か、コツはありますか?」
という、返事が来た。
「コツは1日、3度の短い育児逃避タイムを設けることだよ」
「え? センセー、どういうことでしょう?」
「あのね、ぼくもシングルになったばかりの頃、頑張りすぎちゃって、育児疲れが相当ひどくなり、更年期障害っぽくなったんだよね。 育児鬱?」
携帯でメッセージ打つの結構、慣れてないので、ここで一度送信。ふー。
「で、その時、午前中、午後、夕食後の3回、時間で言うと、9時半から11時まで、15時から17時まで、21時以降を育児放棄タイムと決めて、その時間だけ、一切育児をやらないように決めたのね。何があっても、しらんぷり、…。逃避だからね、笑。鍵とかかけないけど、ちょっとドアを完全に閉めるわけじゃないけど、視界を狭める感じで閉めて、緊急事態じゃない限り、部屋から出ない、と決めたの。狭い家だから逃げきれないけど、でも、好きな音楽かけて、子供のことを頭から追い出してみたら、これ結構、有効だったよ。1日、3回も自由時間が出来るんだから、育児疲れも癒されます」
「ああ、なるほど。ありがとうございます。気分、楽になりました」

父ちゃん育児日記「育児放棄しそうなお母さん、大丈夫、あなたはよく頑張っているよ!」



たぶん、この若いママ友編集者さん、相談相手は誰でもよかったんだと思う。
でも、誰かに自分の愚痴を聞いてもらいたかったのだ。
そういう意味で、ぼくは適任者だったのかも。
現役のシングルファザーだし、かなりの大人だし、逃避しやすい相手だったのかもしれない。
どこかに、自分の気持ちを察してくれる知り合いがいるというのは大きい。
まず、そういう人を確保するのも、育児ノイローゼを克服する一つの手段だと思う。
逃げ場があるかないかで、違ってくる。
いいですか、「逃げ場所」ありますか?
大事ですよ。

離婚直後のぼくにとっての逃げ場はツイッターだった。
ツイッターで愚痴っていたら、叱咤激励があり、離婚直後の一番苦しかった時期を乗り越えることが出来た。
もちろん、ツイッターは諸刃の刃にもなるので、誹謗中傷もあり、苦しい時もあった。
そこは距離感が大事だけど、「子育て奮闘中」のような仲間が集まれば、励ましあえるのだ。



実は、ぼくも一時期、シングルファザー同好会なるものを結成したことがあった。しかし、一年もしないうちに、他のメンバーは脱落していなくなった。
たぶん、ぼくは自由業だから、ちょっとみんなより、余裕があったのかもね。
想像してみてほしい。会社勤めしながら、男手一つで子供を育てあげるのは相当大変なのである。「ツジさん、やめます」と脱退者が相次いだ。
女性蔑視とか性差別の話題が尽きない昨今だけど、男のシングルって、結構、逆差別というか、理解されにくい社会的空気の中で、生きなければならないので、辛いんだよ。
ここにも誰か光りをあててほしい。
あちこち、光をあててほしい。
シングルの人が攻撃されていると、自分のことのように心が痛む。みんな完璧でもないし、万全でもないんだよ。
ぼくみたいな人間はうまく世渡り出来るからいいけど、真面目な人ほど、苦しいこの社会なのである。
だから、たまに、息抜きが必要なのです。相談相手が必要なのです。



ともかく、育児放棄はまずいけど、育児逃避はやったほうがいい、とぼくはそういうお父さん、お母さんにアドバイスをしてきた。
(っていうか、自分だって、つらい時ばかりなんだけど、年齢的にも頼られるから、励ましているだけで、実はみんな、一緒なのである・・・。)

ぼくが日記で、育児の苦労を書いているのは、同じような育児疲れを抱えている人に、少しでも役立ってもらえたらなぁ、という思いからだ。
父ちゃんのレシピを発表するのも、家事や育児で疲れている主婦、主夫の皆さんに、たまには美味しい贅沢をしてもらいたいから、なのである。
料理が得意になれば、美味しいものが、自宅でちゃちゃちゃっと出来ちゃうんだから、それはお得だよね?
で、日記・・・。笑。
ぼくが、日々、ぎゃあぎゃあ騒いでるのを笑いながら読んでもらい、ああ、この人も大変なんだ、一緒なんだ、あたしもがんばろ、と思って貰えれば、それがぼくにとってもまた一番の励みにもなる・・・。
だから、大丈夫、ぼちぼち、がんばろ。



父ちゃん育児日記「育児放棄しそうなお母さん、大丈夫、あなたはよく頑張っているよ!」

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