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欧州最新情報「イギリスが抜けた欧州連合(EU)、共通語がフランス語に?」 Posted on 2021/02/18 Design Stories
2021年1月31日にブレグジットが成立、イギリスは正式に欧州連合から脱退したが、イギリスが離脱したことで、思わぬ議論が勃発している。それは、欧州連合(EU)の共通言語をフランス語に戻すべきでは? という議論である。
EUは、「言語は文化遺産である」という考えのもと多言語主義で、つまり、加盟国の言語全てが公用語とされている。EUには現在23ヶ国語の公用語があり、全ての公式文書も23ヶ国語で作成されている。
しかし、実際の業務ではコミュニケーションの言語である「英語」が共通言語として使用されている。日常業務では主に英語とフランス語が話されるようだが、議会などは全て英語で、ほぼ通訳なしで進められているのが現実である。
しかし、英語が公用語であるイギリスがEUから脱退した今、EU加盟国に英語が公用語の国が全く無くなってしまった。マルタとアイルランドが英語を第二公用語としているが、EUの決まりでは第一公用語のみがEU公用語と認められるのである。しかも、ブレグジット前はEU圏内で13%の英語のネイティブスピーカーがいたが、現在は1%に過ぎない、という。
そこで、出てきたのが、英語がEUの公用語から外れ、フランス語がEUの共通語に返り咲く説なのである。(EU発足時にはフランス語が主な言語として使われていた)
ローマの日刊紙「Il Foglio」の中で、作家のカミッロ・ランゴーネ氏は、公用言語を英語からフランス語に置き換えることを提案した。ランゴーネ氏はイギリス人に対する復讐心や意地悪ではないと主張しつつ、「我々を必要としない民族の言葉を共通言語にすることは矛盾しており、欧州連合の信頼性を弱めることにも繋がる。ヨーロッパの一部になりたくない人たちの言葉を使って、どうやって自分たちをヨーロッパ人と見なすことができるのか?それより、もっと知的に、現代の偉大な知識人たちの言葉を話そうじゃないか」と語った。たしかに、ブリュッセルで欧州議長らがEUから脱退した国の言語で会議を進めるのはおかしい? カミッロ・ランゴーネ氏は、第二次世界大戦末期に英米軍が勝利し、フランス語が英語に取って代わられるまでの3世紀にわたって、フランス語がエリートや外交の言語であったことを強く主張した。
しかしながら、社会学者のファビオ・カシオ氏が「フランス語は確かに外交の言語であり、英語は商業の言語であるが、今やどこでも英語を話すことが習慣となっており、今からそれを変えることは難しい、時代錯誤にもなるだろう」とフランス語復活説に否定的であるように、実際には現実的ではない。
おそらく、イギリスがEUから抜けることがなければ、誰もEU内での共通言語に疑問を持ちかけることはなかっただろう。この議論で、「英語」は一国の言語という枠を超え、全世界の共通コミュニケーションツールとして位置づけられている、ということが証明されたといえるのではないか。(み)
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欧州連合(EU)ってなに?
欧州連合(EU)は1950年5月9日にフランス人政治家、ロベール・シューマンによって「ヨーロッパ諸国を連帯させよう」と提案された。
2度の世界大戦が続き、壊滅的だったヨーロッパが求めていたものは「平和」で、その呼びかけにドイツ、ベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの6カ国が賛同し、欧州連合(EU)は生まれた。(2021年2月現在、27カ国が参加している)
欧州連合が掲げるのは「多様性の中の統合」で、6カ国で共同の経済市場を作ることからはじまり、1992年には12カ国が参加、共同通貨「ユーロ」を作ることが決めらた。(2002年1月1日からユーロの使用が開始。2021年2月現在、17カ国がユーロを使用している)
1993年からは欧州連合加盟国の国境をなくし、人、モノ、お金の移動が自由にできるようになった。欧州連合加盟国は欧州連合のルールを守る義務があり、なにもかもを自国だけで決めることはできない。
最近は、ブレグジットをきっかけに、コロナ禍でのEU各国の方針の違いや十分に助け合いができなかったこと、ワクチンの問題など、EUに対して不信感を抱く国も出てきた。EUにも試練が続きそうだ。(井)