JINSEI STORIES
滞仏日記「自分の密かな愉しみ、自分の人生を後悔せずに生きること」 Posted on 2021/02/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、締め切りに追われ、右往左往していると、田舎のアパルトマンの内装業者のジェロームから、
「ムッシュ・ツジー。キッチン買わなきゃ、期日までにできないよ」
とSMSが飛び込んだ。
そうか、忘れてた。
キッチンはIKEAで揃えようと思っていたので、近くのIKEAを探したのだけど、おおおおお~、どこもコロナで閉鎖中じゃないか!
そういえば少し前から2万平方m以上の大型店舗は営業が出来なくなってたっけ。
老舗デパートのボンマルシェさんも、セール中だったのに、いきなりの閉鎖。
こういうところ仏政府、徹底してやっているのだけど、なぜか、感染者が減らない。
今日一日の感染者数、25000人。パリ首都圏の感染者の40%が変異株というおそろしい状態なので、大型店舗の営業が出来ないのも仕方がない。
ぼくは早く完全ロックダウンをして、今すぐ、抑え込んでほしいのだけど、…。
※感染拡大のせいで、しまったボンマルシェ。寂しい。
キッチンのないアパルトマンでは暮らせないので、行かないわけにも行かない。
一生懸命、ネットで探したら、ヴェルサイユに近い「IKEAキュイジーヌ」というキッチン専門の小規模店舗が営業していた。
パリ周辺にある数軒の大型店舗は全て封鎖されていた。
ロックダウンになったら、もう買えなくなるし、ネットではどうしてもわからないことがあるので、出かけることに。それに、気分転換にもなるしね。
前のアパルトマンのキッチンはIKEAキッチンプランニングと呼ばれる3Dデザイン装置を使って、立体的に作成し、それを業者さんに渡して、作ってもらった。
結構、手取り足取り、IKEAのスタッフさんが懇切丁寧に教えてくれる。
前回は、可愛い笑顔の素敵な女性スタッフさんで、「分かりません、教えてください」と頼んだら、ぴたっと横に張り付いて完成までしっかりと導いてくださったので、チョー感動。はいはいはい。おやじですまねー。
今回も、やり方は一緒である。
自分でプランニングした全部品を図面と一緒に現地の業者に送り付けるのだけど、内装業者はデザインはやらない。
で、インテリアデザイナーを雇うお金もないので、内装の設計は自力でやらないとならない。IKEAの3D図面マシーンが頼りであった。
とにかく、IKEAに行けやー、ということになったので、行ったった。
で、バカンス中だし、混むかもしれないと思って、世界最高峰のマスク、FFP2を付け、消毒ジェルや消毒シートを大量に抱えて、朝一番で出かけたのだけど、到着したら、すでに駐車場は満車、入り口も行列。しかもコロナだから、中に入るのに細かいチェックとかがあって、なかなか進まない。
なんとか、IKEAキッチンプランニングのコーナーに到着したら、
「ムッシュは11番のデスクで2時間後です」
と言われた。ぎょえ、
「2時間後?」
「ええ、ムッシュの前に10人のお客様がおりますので」
ぬぁにィーーー。ひっくりかえった、父ちゃん、…。
ということで、父ちゃん、IKEAのサンドイッチを買って、車の中で、メールや仕事をして待つことに、…。
ぼくの順番がやって来た時、すでに家を出て4時間くらいが過ぎていた。
担当のマイク君がやって来て、隣の机に座った。わ、男だった。←何を期待してるか!
コロナだから、警戒しているのだろう、同じ机ではなく、離れたところの机にマイク君、座った。
前は寄り添って指導してくれたが、今回は3メートルくらいのソーシャルディスタンスである。ま、別にいいんですけど、離れた方が、笑、男性だし、…。
お互いマスクをしているので、ちょっと聞こえ難いのだけど、パソコン画面が共有になっているので、画面を通して、よくわかる。スゲー。
一緒にデザインをやってもらい、小一時間くらいで、ぼくの新しいアパルトマンのキッチン・デザインが完成となった。
コの字型のキッチンで、中に、食洗器、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫、が入っている。
シンクは白いホーロー、ガスもあるけど安全面をここは優先し、IHの調理台にした。
家の中を突き抜ける下の家の暖炉の煙突を囲むようにオープンキッチンが作られるのだけど、まぁ、思ったように出来たかな。
IKEAって、マジ、この分野では草分け的な存在だなぁ、と毎回思う。
昨日の日記で紹介したルロア・メルランという素材のデパートの方が、種類がちょっと豊富なので、細かいパーツはそこのと組み合わせる。
キッチンの天板はルロア・メルランで買ったアカシアの分厚い板材を使う。
うおっほおおおおーい、完成が楽しみだ。
マイク君が全ての発送の手続きをやってくれた。いい奴だった。
IKEAの若いスタッフはみんな優しいのである。
購入した材料は月曜日に工事中の新しいアパルトマンに届けられ、ジェロームらが直接受け取る手はずとなった。
建築家やデザイナーを入れないことで、自分がやらないとならない仕事量が増えるけど、その分安く済んで、しかも、愉しみが増す。
こういうブリコラージュ的な感じで住処を作るのって、とってもフランス的かもしれない。少しずつ、自分の世界を作っていく愉しみ、いいね。
田舎生活の愛着も増えるし、自分が作ったということで意味も出てくる。
息子の恋人が遊びに来てくれるかもしれないので、父ちゃんは家族が幸せになれる空間をプロデュースしたい。
家具もこだわりぬいて、自分だけの愛すべき空間を作ってみたい。
また今日も、一歩前進であった。