JINSEI STORIES
リサイクル日記「ご主人が褒めないなら、ぼくが世界中の主婦を誉めたい」 Posted on 2022/05/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、なぜ、主婦のことがこんなに話題にならない世界なんだろう、と時々思う。
男社会の政治や経済のこと、或いは芸能界のことばかりがニュースになっているけれど、世界には主婦界というもう一つの業界があって、確かに売り上げこそほぼないのだけど、そこがあるから、男社会とか芸能界とかが回っているのに、そこを誉める男社会側からのニュースなり話題というのはなくて、その代わり、女性蔑視、性差別のニュースが絶えないのだけれど、いったい、これはどういうことだろう、と不思議でならない。
そこで、今日はまず、世界中で日々、こつこつと主婦業されている皆さんに、お疲れ様です、本当にありがとう、と主夫をやりはじめたことでそのことに気づかせてもらったぼくが感謝を述べさせてもらいたい。
主婦の素晴らしさが気づかれないのは、世の中が、女性は主婦をやるものという大前提で動いているからに違いない。
本当に主婦の仕事って大変なのに、いったいどれくらいの主婦さんが、「ありがとう」と毎日、或いは時々、夫に声をかけられているのだろう。
主婦業のいちいちを、時々でいいから、想像し、毎日、ご苦労様、感謝するよ、と心から言葉で伝える夫がどれほどいるのだろう?
ぼくは独り身で、子育てをしているシングルファザーだけれど、これもれっきとした主夫なのである。
でも、パートナーがいないから、感謝されたことはない。
息子は子供なので、子供にとっては親が面倒を見るのが当たり前でもあるので、滅多に感謝されたことはないけれど、「ご馳走様」だけは毎食後、必ず言ってくれるし、自分が食べた食器はキッチンに持って行き、洗って食洗器に入れる。
ついでに言うとぼくが作ったものは米粒一つ残さない。
どうしても食べきれなかった時は、「ごめんね、すごくおいしいのだけど、調子がよくないから残してもいい? 本当にごめんなさい」と謝る。
そう躾けたわけではない。
親を見て、子供なりに、感謝が出来る年令になったのあろう。
で、主夫としては、息子に「ご馳走様」と言われたら嬉しい。
「はい、ありがとう」と戻す。
なので、ぼくは毎食後、ある種の達成感を頂いているけど、ぼくの日本人のママ友は「うちの夫にきかせてやりたい」と羨ましそうに言う。
そこの夫は、会社から帰ってくると玄関から自分の着ていたものを脱ぎ散らかしていくのだそうだ。
奥さんが拾って洗濯機に毎日いれているというので、ぼくは驚いた。
そんな男がいるんだ!
その先は、怖くて聞けなかったけれど、その夫は食事のあとに「美味しかったよ。これはなんて料理? 凄いね」とか言わないんだろうな、と想像した。
ぼくが女性で主婦だったら、とっくに離婚をしている。
どちらかが我慢する関係は本当に人生を失くす。
ぼくは過去には感謝しかないけれど、今は孤独な主夫でよかった、と思っている。
息子を育て切ったら、自分の人生を楽しみたいと、それだけを生き甲斐に今は頑張っているようなところがある。
だから、ママ友たち、フランス人も日本人も、ママ友たちにはいつも「ありがとう。君たちはぼくの先生だ」と感謝を言い続けている。
中には仕事を持っている人も多い。
フランス人の場合は専業主婦という方があまり多くない。
納税のシステムが、働いていようとそうじゃなくても、夫婦の収入の合算に対して税金がかかるので、そのような社会システムのおかげで、フランスは日本よりも、もしかしたら、夫たちは主婦(主夫)業界の大変さを理解しているかもしれない。
奥さんが働いてなくても、その数が収入に対する税金に関係してくる。(子供が3人いると、めっちゃ税金が優遇される)
というのはだいたい、家事でも育児でも半々やっているからである。
ぼくは毎月一度の割合で、主夫業に疲れ切り、逃亡をしてきた。(ここに書いてきた通り)
今年に入ってから、逃亡がないのは、田舎にアパルトマンを買ったことで、心にハリというか、生きる希望が見えたからかもしれない。
でも、そうじゃなかった頃は主夫業の大変さからくる鬱憤をどこへぶつけていいのか分からず、ストレスを抱えていた。
そういう主婦の方は多いのじゃないか、と思う。だから、ぼくは言いたい。
「あなたは素晴らしいし、そんなに頑張っているのだから、時々、自分のことも考えて休んでほしいし、何かに逃げてほしい。あなたがすごく頑張っていることを理解出来る人間もいるから、見ているから、知っているから、誇りを持って働いてほしい。あなたに誰も感謝をしないのなら、ぼくが代わりにあなたを誉めたい。いつも家事を、育児を、ありがとう。あなたは素晴らしいと言わせてください」
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辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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