JINSEI STORIES
「作家、江國香織さんのこと」 Posted on 2021/02/05 辻 仁成 作家 パリ
どうやって知り合ったかというと、広島で行われたペンクラブのイベントだったと思うのだけど、その時、他に、俵万智さんとか、新井満さんとか、大沢在昌さんとか、いろんな作家の方々がいらして、みんなでわいわい仲良しになった、と記憶している。
メンバーの中に江國さんがいたのだけど、あまりに昔過ぎて、それが出会いだったかどうか、今一つ、思い出せない。
で、その後、東京で、下北沢でお茶をした記憶があって、そう、時々、ぼくが大好きな下北で作家談議をやった。
江國さんのご主人がECHOESをよく聞いていたということで、彼にも、お会いしたこともある。物静かな穏やかな人だった。
で、北口の喫茶店で、ふっと、たぶん、ぼくからだけど、一緒に小説を書かない? こんなに考えていることが一緒の作家は珍しいから、みたいな感じで切り出したら、「いいね、いいね」と江國さんが笑顔で言ったのだ。
いつも江國さんは笑顔で、いいね、いいね、という。
で、じゃあ、出版社はどこだろう、という話しになり、ぼくは集英社を推したのだけど、江國さんから、角川で今、仕事を依頼されているから、そことかだといいなぁ、と言われ、「いいよ、いいよ」と返して、結局、角川になり、角川の単行本編集部にこのチームが結成された。
4人くらいの編集者がこのプロジェクトにいたと思う。
今日現在、いまだにぼくがお付き合いがあるのが、朝日新聞に移動した池谷さんと、角川で出世した三宅さん、かな。
でも、実際にはもう二人とっても重要な人物がいたのだけど、ああ、その後、一切連絡とりあってないので、めっちゃ残念だけど名前が出てこない。あ、思い出した。
一人は武内由佳さん!!!
もう一人、ええと、…
やっぱり、連絡途絶えて20年だから、しょうがないね。また会いたいなぁ。
で、当時、ぼくは下北沢の本多劇場の上に仕事場があり、そこでミーティングが始まった。
可愛いオフィスで、からし色ソファがあったように記憶している。
江國さんと、このメンバーで、何度か打ち合わせをしていくのだけど、誰かが「めっちゃ切ないラブストーリーにしてください」と言い出し、「いいね、いいね」となった。
誰かがテープを回して、作戦会議が繰り返され、構造とか構成とか文体とか細かく決まっていく。
主人公の背景とか、名前とか、ぼくの方の主人公が「じゅんせい」になり、江國さんの方が「あおい」になったのもその時だった。
盛り上がった江國さんがこうしたいああしたいと珍しく興奮気味に話しをしていた、ちょうどその時、閃くものがあった。
彼女の会話の中に、冷静と情熱のあいだを行き来するような物語がいいよね、という一言があって、それがぼくの心に強く引っかかったのだ。
少ししてから、あ、ちょっと待って、なんか引っかかった今のところ、とぼくが会話を制止し、
「江國さん、今、言った、冷静と情熱のあいだ、っての、タイトルにしない?」
と提案をしたのだ。すると全員が笑顔になって、
「いいね、いいね」
ということになった。
ぼくと江國さんはその後、たくさん仕事をするのだけど、その関係にやきもちを焼かれることもあったけど、なんでだろう、それが不思議でならなかった。
なんでもかんでも、恋愛関係に結びつけたくなる人もいるのだけど、でも、それを超越する関係もある。まさに、ぼくらのように。だから、別れることもなかった。笑。
二人で「冷静と情熱のあいだ」「右岸、左岸」「恋するために生まれた」を書いているので、精神的繋がりはとっても強いことには間違いないのだけど、あ、そうだ、で、ソウルメイトなのだということが、最近分かった。
十年くらい平気で音信普通になっていても、ふっとどこからか現れたりする。たとえば、ぼくが離婚をした後、暫くして、ふらっと編集者さんらとぼくの自宅に顔をだし、やあやあ、やあやあ、と時を超えた少女みたいに、笑顔を向けてくるのだから、超不思議な人。
前世とか信じないけど、前世があるとしたら、妹だったと思う。笑。
ずっと本当に親しい男友だち、女友だちでいられたことは相当に稀有なことだ。でも、あれだけ、お互いの気持ちをぶつけあって作品が書けるというのは、それ以上に、相当にレアなケースだと思う。
この不思議な関係はいまだに続いている。
バレンタインデーの日に、ぼくらはZOOMを介して、久しぶりに会うことになった。地球カレッジの講座をやるのだけど、「冷静と情熱のあいだ」のことや、作家が一緒に小説を書くとはどういうことだったのか、など、検証してみたい。
江國さんは物凄い読書家なので、読書の仕方、本との出会い方、本との向き合い方などの話しから、文章教室みたいなことまで、小説世界の構想の仕方、書き方などを話したい。もちろん、いつものように皆さんからの人生相談にも、恋愛相談とか、二人で作家的なアドバイスもしたいね、と話し合っている。
当日、江國さんは都内某ホテルから、ぼくはいつも通り、夜間外出制限下の自宅から、繋がります。ご興味のあるかたは、下記から、ご参加くださいね。ぜひ、「冷静と情熱のあいだ」は再読しておいて、…。
2月14日(日) 19:30 open 20:00 start
江國香織 × 辻仁成 「冷静と情熱のあいだを生きる作家」
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*定員になり次第、締め切らせていただきます。