欧州最新情報
パリ最新情報「日仏飲食業支援の比較。時短要請協力金vs連帯基金からの補助金」 Posted on 2021/01/22 Design Stories
コロナウィルスが世界を蔓延して1年以上。感染を防ぐために、人々は移動を制限され、家にこもりがちになった。このパンデミックで多くの企業が危機的状況に追い込まれているが、今回は特に打撃の大きい飲食業界について、日本とフランスの補償の違いを比較した。社会保険料の免除、家賃支援、被雇用者への補償、ウェブ販売導入補助金など、両国とも様々な対策を講じているが、今回はメインで飲食店の助けになっているであろう、そして両国の違いが如実に表れた日本の「時短要請協力金」とフランスの「連帯基金からの補助金」について詳しく調べた。
まず大前提として、フランスはロックダウンを2回行っており、ロックダウンが明けてもレストランの開店を禁止している。昨年2020年3月に飲食店が一斉に閉鎖となり、6月に再開が許されたものの、10月からまた閉鎖。テイクアウトやデリバリーは許可されているが、現在も店内で食事をとることは禁止されたままで、違反者には罰則金がある。ほとんどのレストランにとっては依然として厳しい状況である。対して日本は、「外出自粛要請」に止まり、飲食店に対しても「時短営業要請」という形を取っているため、法的な拘束力はない。「絶対に開けてはいけない」フランスと、「できれば開けないで欲しい」日本。両国での補償に差が出るのは当然と言えよう。
●2021年1月現在の補償制度
2021年1月現在、フランスの飲食店への補償は月額1万ユーロ、前年同月の売上の20%がそれよりも高い場合は20万ユーロを上限とした上でそちらを適用。元々は上限が1万ユーロだったが、段々と補償は手厚くなっている。
そして日本の時短要請協力金。目をつけたいのは、フランスの補償金はフランス全土が対象になっているのに対し、日本は緊急事態宣言を受けた11都府県のみというところ。更に都府県によって実施される期間や金額が変わる。全ての都府県へ言及するのは難しいので東京都を例に取って見てみよう。2021年1月現在、営業時間を20時まで、酒類の提供を19時までとする要請に応じた店舗には1日あたり6万円、1ヶ月最大186万円の協力金を支給する。期間は1月8日から2日7日まで。先月は、12月18日から1月11日まで時短要請に応じた事業者には一律で100万円の協力金を支給としていた。
●補償金支給対象者
フランスは10月、補償を受ける対象を「従業員50人未満で売上が70%以上減少しているレストラン」から「従業員50人未満で売上が50%以上減少しているレストラン」へと緩和し、更に11月の発表からは「規模の大きさに関わらず」と制約を撤廃している。
対して東京都は、協力金支給の対象者を「資本金5,000万円以下または従業員数50人以下の中小事業者や個人事業主」としている。神奈川・千葉・埼玉では大手企業も協力金の支給対象にしているが、東京はまだ検討中の段階に止まっている。複数の店舗展開をして支出が桁違いに多い大企業は苦しい状況だ。
全事業者が注目する支援制度だが、ニュースで得られる情報には限りがある。今回筆者は、現実問題支給はどうなっているのか生の声を聞くため、日本とフランスの飲食店経営者へ話を伺った。
東京都新宿区で肉バル店「肉人」を経営する榊原政人さんは、通常18時半である開店時間を11時に早め、ランチ営業を行うことでなるべく損失が出ないよう工夫している。
「うちのような個人営業のお店にとって、今回の協力金は大変助かっている。協力金がなくても時短営業をするつもりでいたが、その時間で出る損失をある程度補填できている」
フランスでは、パリ7区でフレンチレストラン「Le Gentil」を営んでいる熊谷ご夫妻に話を聞いた。熊谷夫妻は、ランチ時間のテイクアウトのみで営業を続けている。
「18時以降の夜間外出禁止令を考えると、多少時間を早めても夜のテイクアウト営業は厳しい。ランチのテイクアウトのみの営業となってしまう中、夫婦経営の小さなお店なので、補償金はとてもありがたい」
●支援を受けるための手続き
今回両者で一番感想が分かれたのは、手続きの煩雑さについて聞いた時だった。パリ・熊谷さんは「ネットで全て申請できるし、申請方法も簡単。サイトは分かりやすく作られているし、そこまで時間は取られない」と語る中、東京・榊原さんは「ネットで申請できるものの、作業は分かりにくく煩雑。ネットに明るくない高齢のオーナーは大変だと思う。提出書類に不備があれば区役所の窓口へ行かなければならず、同じような人たちで区役所は人がごった返している」と溢した。今回は取り挙げていないが、「雇用調整助成金」の手続きは更に複雑で、それを緩和しようと政府が提出書類の削減などを急遽行ったことから、却って混乱したというニュースもあった。
※東京都新宿区で肉バル店「肉人」を経営する榊原政人さん
※パリ7区で熊谷ご夫妻が経営するフレンチレストラン「Le Gentil」
●支援制度に対する懸念
現在の支援制度に対し、「そこまで大きな商売をしていない個人事業主にとっては、今回の対策は概ね満足していると言える」と答えた両者。そこで、敢えて懸念している点を尋ねてみた。
東京・榊原さんは、まず税金に対して言及した。「今回の協力金は課税対象だから来年度に相当額の税金が取られると思うので、先のことを考えると頭が痛い。」
比較すると、フランスの補償金は課税対象ではない。2020年6月の時点でマクロン大統領は「我々はかつてないほどの補助を行ったが、税引き上げによって歳出を賄うことはない」と明言し、今年1月の会見では「国民への増税はしない。数年前から行っている減税を続けていく」と改めて強調した。
榊原さんは続けて「対策の方針が一貫していない。対策の方針も後手後手の印象を受けるし、すぐにブレるのでその度に営業形態を変えるのも簡単ではない。都府県によって変わる支援内容もややこしく、期間も曖昧。政策が中途半端と言わざるを得ない。日本の財政では難しいのかもしれないが、個人的には、都市封鎖して一気に補償すれば終わるのにと思ってしまう」
パリ・熊谷夫妻は、知り合いのレストランのオーナーが援助を受けられていないと嘆く。「今回の援助は、何かと前年比の売上が必要になってくるが、前年の実績がない、オープンしたばかりのレストランは、1万ユーロどころか支援の対象にすらなっていない。レストラン閉鎖の長期化により、前年の数字がなくても今までの売上によって補償が出るよう段階的な措置を取り始めているが、新しくお店を出したばかりのオーナーが一番辛いのではないか」と心配の声をあげた。
早いうちから都市を閉鎖し、罰則金も設けたフランス。外出も時短営業も「要請」に止め、国民の意思を尊重する政策を進めていた日本。菅首相は今になって、時短営業に応じなかった店舗に罰則金を命じる特別措置法の改正へ意欲的な態度を見せ、来月に向けて早期成立・施行を目指している。
マクロン大統領は、2021年を「フランス・ガストロノミー」の年として飲食業界を支援していくと語った。
それぞれの政府の方針は、国の未来をどう導いていくのか。
企業への補償、若者や失業者の雇用支援、貧困層への補助、文化活動の維持。政府の課題は山積している。(山)