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滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」 Posted on 2021/01/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、正月といえば、ガレット・デ・ロワということになる。
今日も寝正月でゴロゴロとしていたら、ニコラ君とニコラ君のパパが(マノンちゃんはお母さんとお母さんの実家に行ったらしい。この辺の詳しいことは離婚されたばかりだし、聞かないことに)、ガレット・デ・ロワを持って、お年始(?)にやって来た。
わお、しかも、ぼくが大好きなユゴー&ビクトールのガレット・デ・ロワだ!!!
めっちゃ、綺麗!!! 光ってるよ。

滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」



お父さんの家が、今住んでいる新居のすぐ近くなので、多分、時間を持て余して、うちに逃げてきたのであろう。
4日から、フランスは学校が始まるので、それまで父子の暮らしが続くらしい。
大変だ。
というのも、これマノンちゃん情報だけど、ニコラ・パパは料理がまるで出来ない。
全部、パン屋のサンドイッチかスーパーの冷凍食品をチンして食べさせられるのだとか、…。
フランスの法律で子供たちは離婚した親の家を半々行き来しないとならないので、子供たちはあまりパパの家に泊まりたがらない。笑。
お気の毒なニコラとマノン姉弟である。
特に、今週末、ニコラはそうとう地獄だったようで、ぼくにこう耳打ちした。
「いっつも不味いゆるゆるパスタか、冷凍食品なんだ。給食より不味いんだ。ムッシュ、どう思う?」
「そんなに? まさか」
「ほんと。昨日は冷凍のフリットをね、オーブンで焼いて、ケチャップ」
「え? まさか、それでおしまい?」
「ムッシュ~、それだけだったよ」
可哀想過ぎる。



そういえば、最初の頃、ぼくはムッシュ・ドロール(変なおじさん)と呼ばれていたのだけど、最近は「ムッシュ」が定着してきた。子供の声で、
「ムッシュ~」
と呼ばれると、なんだか、嬉しい。ムッシュか、いいね。とってもフランス的な響きだ。
「ニコラ、そんなこと言っちゃだめだよ。パパだって、一生懸命なんだから」
「でも、ぼく、出来ればムッシュのところの子供になりたい」
「ええええ?」
「ご飯が美味しいから」
あはは、うれし~じゃないの~。
ニコラ・パパに聞こえちゃってるようで、居場所のない哀れな顔をして苦笑していた。
いつか、ぼくが彼に料理を教えてやる日が来るような気がする。えへへ。
さて、息子も呼んで、ガレットを食べることにしよう。



だいたい、どこのパン屋も一月中はガレットを店先で販売している。
中にフェーブ(そら豆という意味)の小さな陶製の人形(実は、何でもあり)が入っている。子供たちがいないところで親がカットし、小さな子から選ぶ権利がある。
で、見事、フェーブの入っているのをゲットした子は、一年幸福が続く、と言われている。実際はなかなか興味深い歴史的史実があるのだけど、それは長くなるので、古いDS記事に譲るけど、面白いよ。

※ガレットの歴史や物語について興味がある方は、こちらからどうぞ⬇️
https://www.designstoriesinc.com/panorama/design_stories_galette_des_rois/

滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」

※なんと最近のケーキ屋の袋はこのままオーブンで加熱できるんだ、すご。

地球カレッジ

滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」

※で、こっそり、父ちゃんがキッチンでカット。いひひ。



で、ぼくがキッチンでカットしたガレット・デ・ロワをみんなの前にもっていき、まずは、一番小さなニコラ君が、そして、うちの息子が、次にニコラのパパが、で、最後は一番老齢なぼくが選んだのだけど、この日記を毎年読んでくださっている読者の皆さんにはもう結果がお分かりかと思うのだけど、…はい、ご名答! 笑。
うちの子は毎年、幼いころからずっとフェーブを。必ず、当ててしまうのである。
最低でも過去10年間は毎回、あて続けてきた。
しかも、息子はガレットを掴む前に、
「わるいね、ぼくが必ず当てちゃうから」
とニコラに向かって謝った。
「じゃあ、ニコラは3つ選んでいいよ。君のパパのと、ぼくの分も君にあげるから」
ということで、ニコラは追加でさらに二つ選んだのだけど、それをニコラ・パパが口に入れようとした次の瞬間、
「やっちゃった。まただ」
と息子が言って苦笑した。
本当に、ここで運を使わないでもいいのに、と毎年同じことをぼくは言わなければならない。
実に、不思議なものである。
※今年のフェーブはなんか、コーヒー豆みたいな、ユゴーの名前いり、ダサいけど、嬉しい。ぼくのフェーブコレクションボックスにしまう。ってか、全てあてたのは息子なのだけど! 笑。

滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」

滞仏日記「ニコラがニコラパパと一緒にガレットを持ってやって来た!やあやあやあ」



ガレット・デ・ロワには紙の王冠がついているので、息子が小さい頃はいつもそれをかぶっていた。
「かぶる?」
ニコラが残念そうに、紙の王冠を息子に差し出したので、それを受け取った息子はニコラの頭に王冠(今回は白い王冠だった)をかぶせてあげた。
「ムッシュ、実は、その王冠の中に、小さな花の種が仕込まれてるらしく、それを土に埋めると、そこから花が咲くらしいんですよ」
と面白いことを言いだした。
「マジ?」
「ええ。今日、店に行ったら、ユゴー本人が店番していて」
「ええええ??? マジ????」
「ええ、で、教えてくれたんです」
「どこの店?」
「本店ですよ。なんで?」
「え? あの、ぼく、ユゴーのケーキのファンなの」
一同、大笑い。あまりにミーハーな自分に呆れたが、でも、羨ましかった。



おやつの時間が終わると、ニコラがなんとなく、帰りたくないそぶりをした。
ニコラ・パパが、そろそろ帰ろうか、というと、腕を組んで、嫌だよ、もう少しここにいたい、と言い出した。
あんまり、パパさんを困らせてもいけないと思ったので、
「じゃあ、ぼくが作った絵本をパパに読んでもらったら?」
と言ってみた。
「え? ムッシュが作った絵本なの?」
「うん」
「でも、辻さん、日本語は私、読めないですよ」とニコラパパ。
「いや、実はニコラにも読んでもらいたいので、フランス語字幕を作って入れといたんです」
「ええええ?」
ということで、ぼくはパソコンを二人の前に置き、YouTubeから「パパの涙」を選んで、字幕のボタンをぽちっと押してあげた。
「一度目は、ぼくの朗読を聞いて、で、二回目は音を消して、パパさんがニコラ君に朗読してあげてください。ヘタでもいいから、読んであげると、父子の関係が優しくも強くなりますよ」
ぼくは2人が絵本に没頭している間、今夜のごはんの足しになるよう、ツナマヨおにぎりと卵焼きとソーセージ炒めを作るため、キッチンへ、…。おしまい。

自分流×帝京大学