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滞仏日記「2021、世界はどうなる?」  Posted on 2021/01/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、寝正月であった。
2020年の疲れがたまっていたので、新年になって、ちょっと安心したのか、ランニングも出来なかったし、おせちをテーブルに置いたまま、寝たり起きたりを繰り返し、予想通り、ぐうたらしてしまった。
夕方、夕食の準備でもしようかな、と思って食堂に顔を出すと、おせちの半分が消費されていて、あいつこんなに喰いやがった、とさすがに驚いてしまった.
もうすぐ17歳だ。育ち盛りだ、当然かもしれない。
さて、ベッドの中でゴロゴロしながら、一日中、ぼくが考えていたことはこれからの日本のこと、フランスのこと、世界のことだった。

滞仏日記「2021、世界はどうなる?」 

2021年、元日のエッフェル塔。
©chie uematsu



まず、日本に関してはやはり耳が痛い話しだけれど「東京オリンピック」が日本にとって吉と出るか凶と出るか、…。
フランスアンフォが今日、伝えたトップニュースの一つが今年のオリンピックについてであった。
延期されたことで3000億円ほどが増額され、かかる総額が一兆6640億円(13milliards d‘euros)にのぼる。これはオリンピック史上もっともお金がかかる大会なのだそうだ。
台湾、韓国、中国などの経済成長を続ける隣国に反する日本が、逆を言えばこのオリンピックを起爆剤にして経済再建を成し遂げたいのであろう、とフランスアンフォはまとめていたが、すんなりオリンピックが開催されるかどうか、…コロナ次第な気がする。
オリンピックを本気で成功させたいのであれば、やはり、コロナの感染を食い止めることが最重要になるのだが、…。
日本の経済がこれ以上、悪化してほしくないと思う気持ちは、みんな一緒で、でもじゃあ、どうやってコロナの感染を塞ぐのか、という難問が立ちはだかる。
一部の識者が、PCR検査などやめた方がいい、と発言されているけど、フランスで長く状況を見てきた人間として思うのは、早期の感染制御はやはりテストが決めてになると思う。
日本国民はほんとうに真面目だからこそ、強い感染制御政策はどこの国よりも有効に作用すると思う。
一年前の日記に、すでにぼくはそのことを細かく書いている。
日本が早い時期にロックダウンをすれば感染者数は0に近くなる、と。
もちろん、法律の問題などを考慮してないが、ロックダウンほど強い制限じゃないにしても、補償をしたうえでのある程度強い制御政策であるならば、成果は出せるし、まだ間に合う気もする。



長引けば、その分、死者は増えるし、一番怖いのは医療崩壊なので、医療の世界が壊れると、単純にがん患者や妊婦さんにまで影響が出る。
コロナを軽視する方々の意見は、コロナの死者数は他の病気より少ない、という点だが、コロナという不慣れな感染症がもたらす医療現場への打撃を正確に把握する必要がある。
医療現場のパンクは、他の病気で助かる人をも、後回しにしてしまう。
ここは短期間、みんなで我慢をした上で、成果が出たところで経済の門を開弁した方が、最終的には、日本にとっては得だと思うのだけれど、…。
どっちつかずの方法で、このままダラダラいくと、一番苦しくなるのは、相変わらず商店主や飲食業、観光業など、経済に関わる大勢の人たち、結局は国民、ということになる。
オリンピックをやるかやらないか、を報じる外国メディアの意見なんか訊く必要ない、という意見もあるだろうが、ただ、どこも物凄く冷静に様子を見ている。
フランスは2024年にオリンピックを控えているので、マクロン政権は日本政府のやり方を参考にしているはず。菅政権がオリンピック開催へ向けたどこまで真剣な短期、長期の感染制御計画を持っているのか、が大事だ。

滞仏日記「2021、世界はどうなる?」 



英国は今日、EUから正式に離脱した。
なぜ、ブレグジットにここまで時間がかかったのか、なぜ、ブレグジットをしなければならなかったのか、これをやったことで本当に英国は得だったのか、EUは離脱した英国に自由を与えざるを得なかったわけだけど、それでよかったのか、など、4年以上、この問題を注視してきたぼくだが、さっぱり分からない。
ずるずるし過ぎで、要点があいまい過ぎる。
英国が離脱を打ち出した時、ドイツやフランスが血相変えたのは、つまり、英国の離脱を許せばEUの結束が壊れてしまうから、という虞があったからだろう。
でも、蓋を開けてみれば、関税もかからないし、漁業権もだいたいは確保、英国の勝利にしか見えない。
英国もだからといって変異種のコロナを抱え、離脱したのはいいけど、何が得だったのか、ジョンソン首相が親指をたてて自賛するようなものが、少なくともぼくには見えない。
EUと貿易などをする上で多くの書類を作成しないとならないようだし、スペインに接する英領ジブラルタルの通行問題(欧州最新情報に詳しく記してあるので参照されたし)などにしても、まだ曖昧な問題が多い印象の方が大きい。

滞仏日記「2021、世界はどうなる?」 



ぼくが一番、気にしているのは、イタリアなど、もともとEUに少なからず不満を持っていた国に「英国が出来るなら、俺たちだって」という機運を作るきっかけになりはしないか、ということだ。
結局、安全保障の問題など、アメリカが揺らいでいるし、EUは英国を敵に回したくなかったのだろう。
しかし、欧州はわずかだとしても分裂の兆しの中にある。
東欧などに行くと、ドイツやフランス、北欧とは違う反EU感が強い。
極端な話し、EUじゃなくてもいいんじゃないか、と考える国も出てくる。
英国とEUの離婚は円満に見えるけれど、笑顔の裏側で、そこを見据えた駆け引きが始まっている気がする。
EUは英国に追随する他の国をどうやって引き締めるか、英国はEUに戻りたがっているスコットランド問題など、ぼくには前途多難に見えてならない、…。
ドイツとフランスがこれからも一枚岩でいられるのかも(神のみぞ知るで)全くわからない。EUそのものが解体ということも、全くゼロではないような気がする2021の正月なのである。

そして、大胆なことを言えば、後進国へのワクチンの供給は結局、ほぼ中国が担うことになるだろう。
アメリカしかり、先進国には自国を守ることしか余裕がないので、当然のことになるけれど、後進国へ手の差し出せるのは感染者がゼロを自負する中国ということになる。
イタリアなどは中国とも繋がりが深い。
最初のロックダウン時には同盟国のフランスもドイツもイタリアへ手を差し伸べる余裕がなかったことで、イタリア人の多くが助けにこないEUへの不信を募らせた。(のちにドイツなどが慌てて輸送機を飛ばしていたが、…)
医師団を最初に派遣した中国にイタリアが近づくことは十分に考えられるし、思えば中世の頃からイタリアの港町は欧州と中国を繋ぐ重要な中継地であった。ペストも中国からイタリアに入り、欧州各地へ拡大、特に英国へ強い波をもたらした。
※詳しくは3月に配信した、こちらのペストに関する記事を参照頂きたい。現代とのあまりの類似点に驚かれるはずだ!

ペストの記事はこちらから⬇️
https://www.designstoriesinc.com/panorama/lapeste/

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