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滞仏日記「眠れない時、ぼくは自分の胸をとんとんとんとする」 Posted on 2023/05/06 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、心がざわざわして、眠れない夜にぼくは、自分の胸の中心を指先でこする。
しずかに、なんどもなんども、ゆっくりとこする。
そうすると、落ち着く。
そのあたりには自律神経の森がはりめぐらされているので、指先でやさしく、さすったり、あるいは、とんとんとん、とタップしたりすると、その森のざわめきがおさまるのである。
降り積もった雪が、とんとんとん、のせいで、バサっと地面に落ちて、軽くなるのだ。
そういうイメージを持つと、だんだん、眠くなってくる。
目を閉じて、リラックスしよう。

滞仏日記「眠れない時、ぼくは自分の胸をとんとんとんとする」



あと、眠れない時、ぼくはギターを弾くこともある。
もちろん、静かなメロディを奏でるのだ。
だいたい、ラベルが作曲したボレロを弾くことが多い。
実に落ち着く・・・。
若かりし日に、スペインのバレンシアを旅した折、真夏の花火大会でフルオーケストラが演奏してみせたフランスの作曲家、モーリス・ラベルのあの名曲、その時の衝撃、夜空を埋める豪快な花火、躍動、感動…。
いつかギター一本で演奏できるようになりたい、と練習し続けてきた。
でも、自分で弾くことが出来るようになると、躍動的だったこの曲は実に優しい曲となって、ぼくを包み込んでくれた。

この曲で、あなたの心が落ち着きますように。
今日も、おつかれさまでした。
よく寝てください。

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