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退屈日記「気を引き締める年末年始打倒コロナ大作戦」 Posted on 2020/12/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、欧州は酷いことになっている。
年末年始もロックダウンになったドイツだが、感染拡大は深刻で、あの冷静なメルケル首相が国民に向けて時には声を震わせ、テーブルを叩き、珍しく感情を露わにして感染拡大阻止を国民に訴えた。
欧州をけん引してきた元科学者のメルケルさんとは思えない、なりふり構わない国民へ向けた生の声、相当な危機感を感じる。
一方、スエーデンでは普段は政治的発言を一切しないカール16世グスタフ国王が「コロナ対策は失敗した」と政権批判の発言をし、物議を醸している。
ワクチン接種がいち早く始まったイギリスだが、新種のコロナウイルスが発見され、その感染力の強さに国民が震えあがっている。
英仏ともにコロナ死者が6万人前後まで膨れ上がり、クリスマスを前に欧州全域が暗いムードに包まれた。
マクロン大統領のコロナ感染により、欧州会議に出席していた各国首脳たちも現在自主隔離に入っているという、SF映画さながらの展開となった。
いったい、なんという時代なのだ、とため息しか出ない。

退屈日記「気を引き締める年末年始打倒コロナ大作戦」



しかし、冬コロナが猛威を振るいだしたことは間違いなく、年末年始の家族が集うこのタイミングで感染を封じ込められなければ、来年1月半ばから2月にかけて、さらなる恐ろしい感染拡大のニュースが全世界を駆け巡ることになるだろう。
日本もその例外ではない。
第一次のロックダウン時から、ぼくがずっと言い続けてきたことを、自分にも再度言い聞かせるために書かせてもらいたいが、これまで以上に、感染しないように最大限の努力をしないとならないことは間違いなさそうだ。
もう十分やってるわ。これ以上、何をやるのよ、と言われそうだけど、最近のニュースを読んでいて、一番の気がかりは感染ルートが追えなくなっている点である。
クラスターが出ても、もはや誰も追跡出来ない。それほど、コロナウイルスの感染力が強まったということが出来る。

退屈日記「気を引き締める年末年始打倒コロナ大作戦」



そこで、ぼくは次のようなことを日々、自分に言い聞かせるようにしている。
「コロナウイルスは自分たちの日常のすぐそこにいる。そこにいるんだ!」
ぼくは絶対に罹るわけにはいかない、ことは何度も書いてきた通り。
自分が感染をすればこの国で受験を控えた息子を孤立させることになる。
なので、還暦を超えたシングルのぼくが絶対に罹らないように最大限の警戒を続けなければならないのは、言うまでもない。
「すぐ近くにコロナがいる」
「それは家の中にも侵入をしている」
「公衆トイレも、人間が集う場所には必ずウイルスがいる。視界に入っている人間の中には感染をしている人がいる」
と言い聞かせて、ぼくは日常をおくっている。
絶対に誰とも会わなければ感染をすることはない。
今、ストレスを抱えたぼくは人と会わないで気を緩められる場所にいる。
過疎の村の閉ざされた空間で、自分らしさを回復させながら、英気を養っている。
このくらいのことまでやらないとならない時代になったのである。
ワクチンはきっと打つと思う。でも、すぐにではない。
もっとワクチンのことを勉強し、安全なワクチンの情報を最大限集めようとしている。そのためには時間が必要だ。
「そこまでやってるパパが感染をしたら、地球はもう終わり」
これが息子の意見でもある。



マクロン大統領は常にマスクをしていたし、大統領の周辺にはそれを監視する人たちもいたはずだが、それでも大統領は感染した。
今、フランスのメディアが彼のこの一週間の行動をつぶさに精査している。
最初はすごく警戒していたマクロン大統領だが、先週のベルギー会議で握手をしている。
硬く握手をする大統領の手の映像がクローズアップされた。
そこにウイルスがいた可能性もある。



マクロンさんはコロナ流行直後から、タイのナマステ式挨拶を続けてきた。
メルケル首相とも仏教徒みたいに手を合わせ、頭を下げるアジア式のお辞儀をしていた。
これが一時は話題にもなった。マネする人も出た。
しかし、長いコロナ禍の生活が続き、忙しくなり、気が緩んだのだろう。
その一瞬のスキをコロナが突いた格好となった。
ベルギーの会議でマクロン大統領は握手をしたり、他国の政治家の腕を掴んだり、明らかな気の緩みが見えていた。
精力的に動き回る政治家だから、当然感染リスクは出てくる。
僅かな気の緩みでも、感染してしまうこのコロナの感染力の底力を見せつけられた格好となった。

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「コロナは身の回りに潜んでいる」これは事実である。
フランスのトップでもコロナから身を守ることが出来ないのが現状なのだ。
今がもっとも危険な時期だと改めて世界中の人々が考え直すタイミングなのかもしれない。この冬、力をつけたウイルスが我々を狙っている。
周りを見回し、どこかに潜んでいるであろうウイルスを意識しながら、日常生活を乗り切るしかない。或いは、世界から自分を隔離してしまおう。
「その群衆の中に必ずコロナはいる」

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