JINSEI STORIES
滞仏日記「ニコラ、選挙に立候補し敗れる!でも面白いフランス小学校の選挙!」 Posted on 2020/12/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、この日記最多出場の少年、ニコラは小学5年生である。顔はフランス漫画の「プティ・ニコラ」にちょっとだけ似てる。本人に言うと、怒る。笑。
で、ニコラが学級委員に立候補したというのを、お母さんから聞いていた。
フランスの小学校にも学級委員制度があり、クラスごとに選挙が行われる。
9月に新学期が始まり、クラスがまとまり始めた10月末から11月にかけてこの選挙は実施される。
先ほど、本人から電話があり「かなりの不正が行われ、ぼく敗れちゃったけど、でも、まだ敗北は認めてないし、必ず、ぼくは勝つよ、おじさん」とまるでトランプ大統領のような口ぶりで、多分、あえて真似をしたのだろうけど、言って、笑わせられた。
でも、話を聞くと、これがかなり、本格的な学級委員選挙だったのだ。
お母さんの許可をもらい、顔のところには修正を施したので、ご覧頂きたい。
※投票の立会人、いわば、選挙管理委員会のメンバーたち、可愛い。
一応、立候補をした後、選挙活動期間があり、もちろん、候補者は全員、ポスターとかチラシを作って貼ったり、配ったりする。
しかも、投票箱があり、投票をするし、選挙管理員とか投票立会人がいる。
候補者によるプレゼンテーションはもちろんのこと、投票規則のおさらい、投票立会人の選択、投票、結果発表となる。
有権者は、立会人が見守る中、投票箱に投票用紙を入れていくのだが、ここでも大人の選挙と同じく、投票するたびに、立会人が「A voté!(投票)」と声をかける、というのだから、かなり本格的じゃないか!
実に、面白いし、こういうことを経験していると、選挙の重要性が子供のうちからよく分かるというものだ。素晴らしい。
※投票箱に投票用紙を入れる子。監視人もいる。
ちなみに、フランスの大統領は国民(18歳以上)の直接選挙で選ばれる(1965年から実施)。
国民が国のトップを選ぶからこそ、毎回、大統領選の投票率は高く、投票率が近年最低だった2017年の大統領選であっても、第1回投票が77%、第2回は74%なのだった。
ちなみに、2017年の選挙では第五共和制以降、決戦投票(エマニュエル・マクロン vs マリーン・ルペン)の棄権票と白票の多さが過去最高となった。
フランスでデモやストライキが多いことはご存知の通り。
大人たちが毎日何らかの問題とムキになって政治的闘争をやっているため、子供たちは必然的にそれらの問題と密接に関わりながら育っていく。
デモやストライキを目で見て、身体で感じるので、他人事ではなく、自分のこととして捉え、考えることが養われる。
小さい頃は親の思考の影響が大きいが、大きくなるにつれ自分の意見を持ち始めるため、ついに親と大激論となったり、家庭内でも政治的方向は家族の数だけバラバラというのがフランス的。
もちろん、親の受け売りを信じてそのまま大人になる子も多いけどね。
※立候補した子たち。うしろに、エレクションの文字!
18歳になり、選挙に行くのが楽しみでならないという新成人(フランスは18歳で成人)も多く、フランスの18歳は立派に政治的意見を持った有権者に育っている。
あくまでも、国民の代表として選ばれるのが大統領。決して遠い存在ではなく、クラスをより良くするための学級委員と変わらない。
日本は大統領制じゃないので、直接選挙で首相が選ばれるわけじゃない。もちろん、間接的には関わっているけれど、そのせいで、政治と国民の間に少し政治的乖離が存在するのも事実だろう。
日本では、政治的発言はタブーという雰囲気がやや強く、特に、芸能人が政治的発言をするとまず叩かれる。たぶん、これは欧米では考えられない。別に、欧米みたいになれとも思わないけど。
ただ、世襲議員が多いのは日本特有で、これはフランスではまず、考えられない。
フランスの政治家は政治家育成エリート専門学校を卒業しており、国を率いる役職につく政治家や官僚ともなればその上をいく超エリート校を卒業しているのが普通。
エリート校というと鼻につくけど、フランスには政治家、官僚を養成する最高峰の学校(エナ)が存在する。
大学に入るよりも、もっともっと難しく、ほとんどの政治家はそこを出て、あらゆること、法律、政治、経済、文化言語、などに長けている人が多い。
フランスの政治家がディベート上手なのは厳しい訓練とそれによって培われた自信の賜物なのである。
菅さんを批判するつもりはないけど、コロナ禍の今、首相にもなったら、国民に直接語り掛けることを惜しまないでほしい。
というのか、この国では大統領がしょっちゅうテレビに登場し、直接国民に自分の言葉で熱く語り掛けている。
その中身に不満を持つ人はデモをするし、賛同する人は擁護している。
ぼくは菅さんが首相になった時に、たたき上げだし、ちょっと期待しているというようなことを書かせて頂いた手前、困ってる。
菅さん、リーダーはその言葉で国民を安心させ、まとめ、率いてこそ、国が立派になるのだから、間違えてもいいので、ぜひ、国民への思いを自分の言葉で語って頂きたい。
ぼくがここに書いても届かないとは思うけど、あ、でも、マクロン大統領が当選した時、ぼくはすぐに手紙と本を送ったら、彼のサインが入ったカードが届いた。
政権が発足したその月に、外国人の日本人のこんなオヤジに、「ありがとう。マクロン」って書いて送る大統領なのである。
人間というものは、声をかけられば、応援したくなるものだ。
でも、誤解ないように、マクロン大統領がダメな人間だと思ったら、ぼくは納税者でもあるし、文句を言うだろう。
それだけのことなのだよ。
「ムッシュ・ドロール(変なおじさん)、ぼく、でもくやしいんだ。だから、また、次回、立候補しようと思う。それまでにもっとみんなの不満とか、意見に耳を傾けていくつもりだよ。ぼくはぼくの言葉でみんなを幸せにしたいんだ」
ニコラ君、君は素晴らしい。ぼくは変なおじさんとして、君を誇りに思うよ。
※ この子は編集部関係のお子さんで、ニコラのクラスの子じゃありませが、日仏ハーフのマリーちゃん、見事選挙に当選、学級委員に選ばれました。早速、組閣をし、会議が行われた模様です。議題は、クラスで出来るコロナ予防策について!