JINSEI STORIES
退屈日記「家庭内感染を防ぐためにぼくが心掛けていること」 Posted on 2020/11/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスの第二波がピークを越えたという嬉しいニュースをぼくに真っ先に教えてくれたのは息子だった。
夕飯の時に、
「パパ、ピーク越えたってよ、ひとまず、安心だね。ワクチンの開発も進んでるし、来年はまた今まで通りの生活に戻れるのかな」
と言ったのである。
それで、コロナが流行する前までの生活のことをぼくは不意に思い出し、懐かしくて目が潤んでしまった。
普通の生活、…特に何もないけど、普通に生活できることの幸せ。
これは、今思うと、実に有難いことであった。
ぼくが日本から戻った直後のフランスは一日に8万6千人もの感染者が出ており、あまりに恐ろしすぎる数字で、その恐怖もマヒし、実感できないほどであった。
ここのところ急激に感染者数が激減し、昨日は1万人を割り、政府も「ピークを越えた」と宣言するに至った。(追記。ところが翌日、また、4万人を超えた。これは政府がPCR検査だけじゃなく、高原検査を増やしたため)
もちろん、増えたり減ったりを繰り返しながら、第三波の到来も予想されているが、医学が次第にコロナを抑え込もうとしているのも事実で、日常を取り戻すチャンスは確かに少しずつだが近づきつつある。
でも、日本などでは逆に感染拡大が起きているので、思えばフランスもバカンス直後からの感染拡大だったし、日本もGOTOキャンペーン後に増えていることを考えると、移動と拡大はセットなのであろう。
フランスの感染減少に大きく貢献したものの一つが「換気」であったことは間違いない。
仏健康相はことあるごとに職場や家庭での「換気」を注意し続けていた。
同じエレベーターを使ったマンションの住人70人が感染した外国の例、大規模イベント会場で生じたクラスターの原因が同じバスでの移動によるものだった例などから、コロナウイルスの空気中に残るエアロゾルによる感染を最も警戒することの大事さが、ここのところ常に、語られてきた。
このようなデータをもとに、フランス人は「換気」をこの寒冷期に入ってから徹底した。
冬に入りウイルスが活発化する中で、感染が減少した一番の理由は「室内換気」であることは間違いない。
ついで、やはり「手洗い」の徹底が功を奏した。
どうしても緩み勝ちな手洗いを職場や学校で指導し続けたことも抑制に貢献したように思う。
「換気」「手洗い」「マスク」はコロナの感染を抑制する三本柱だということである。
それとやはり、移動制限(ロックダウン)をしたことが大きかった。
パリ最新情報でも書いた通り、ロックダウンは一時的に経済を苦しめるけれど、感染者の減少を必ず実現させる有効な手段である。
今回の秋のロックダウンは正直、第一波の時のような過酷なものではない。
日常生活はほぼ普通にできるので、結構工夫されたロックダウンだと言える。
ここからどうやって商店の再開などをしていくのか、クリスマスに向けて、どのような抑制と開放を行うのか、など、まだまだ予断を許さない状況は続くけれど、ひとまず、光りは見えてきたかな、と思う。
経済の救済が年内の大きなポイントになるだろう。
ところでぼくが一番心配しているのは、16歳の息子からの感染である。
というのは、ぼくは家からほぼ出ないので感染をするとしたら、外から戻ってくる息子を介して、ということになる。
息子は若いので、感染をしても、無症状である可能性が高い。
息子は相当に気を付けて手の消毒などに努めているが、衣服やリュックについたウイルスまでは防御できない。
なので、ぼくは家の中を幾つかのエリアに分けて、棲み分けを指示した。
共同で使うキッチンや廊下、食堂などは最重要の換気ポイントになる。
この寒冷期でも常に窓を少し開け、空気の流れを作っている。
コロナウイルスは12分間、その空間に滞在すると言われており、常に家の中に空気の流れをとぎらせない工夫が大事だ。
それから、ドアノブ、蛇口、電源スイッチなどのこまめな消毒…。
子供部屋にぼくは入らない。
入るときはマスクをして入る。
ぼくの仕事場や寝室に息子を入れない。
可哀想だけど、これは徹底している。
なぜなら、ウイルスは目に見えないからだ。
リビングルームに関しては、息子がそこでくつろぐ時は換気をするよう、伝えた。
これらの徹底により、辻家内の感染リスクはほぼないものと信じている。
※このマスクはコロナウイルスを高い確率で通さないと言われている、今のところ世界最強のマスク、FFP2である。前は処方箋がないと購入できなかったけれど、最近、ネットで買うことが出来るようになった。
コロナのワクチンが開発され、有効性が高いと言われているが、この短期間に開発されたワクチンが本当に人類を救えるのかどうか、実際、問題をたくさん含んでいるので、やはり結果が出るのにはまだまだ時間がかかる。
それまでは、一に換気、二に換気、三、四も換気で頑張るしかないのだ。
コロナとの闘いは気の遠くなるような長い闘いであることは間違いなく、リラックスしながらも、気を緩めず感染予防を心がけるしかない。
アジア人は重症化しにくい、という定説も、まだ医学的には解明されていないので、ここから本当の第一波が日本を襲うことも考えられる。
その時に備える。これが賢明というものだ。