JINSEI STORIES
アンコール・辻家の料理教室「フランス風イカ飯&プロヴァンス風イカのパスタ」 Posted on 2024/07/25 辻 仁成 作家 パリ
今夜の献立に、いかがでしょうか?
大人気のレシピが再登場です!!!
とにかく、辻家においてリピート率ナンバーワンの「フランス風イカ飯」お客さん来ると、こればっかり、になるので芸がないのですが、今日の献立で悩んでいる皆さん、ぜひ、やってみてください。イカが化けますよ。息子君を立派な大人へと導いた、辻家の黄金レシピの決定版です!!!!
まずは、材料から! こちらをご用意ください。
材料。
大きめのイカ 2杯(スルメイカなど。フランスだとオンコルネ)
アンチョビ 2~3匹分
にんにく 大きめ8片
トマトホール缶 250g(あればプチトマトのホール缶を使うと甘くて美味しい)
白ワイン 100cc
トマトペースト 大さじ1
醤油 大さじ1
塩・こしょう 少々
タバスコ 適量
バジル 1房
パルメジャーノチーズ 適量(大さじ1~2)
息子よ。
あのね、なぜ生きるのはこんなに大変なんだろうって、思うことあるだろ?
君のように若い人間であっても、もっと幼い子であろうと、あるいはパパよりもうんと年配の人でも、実に、生きるのは面倒なことの連続なんだな。
でも、いいこともある。
息子よ!パパがなんで料理をするのかというとだな、料理をしていると嫌なことを忘れられるからだ。
ついでに美味しいものが出来るからね。
完成した時はうれしいし、君が食べてる姿を見ていると、よかったな、と思えて幸福になる。
つまり、嫌なことを回避するのにキッチンは最適の場所なんだよ。
もっと言えば、パパはキッチンが好きだ。
キッチンにいると小言も出ないし、キッチンで料理している時は美味しいものを作るという目的があるから、気力が湧いて、しゃんとなる。ぐずぐずしてはいられないし…。
わかる? ここは台所だが、同時に、心を安らげるのに最高の場所でもある。
君に料理を教えたいと思ったのは、人生の逃げ場所を一つ作ってやりたかったからだ。
辛い時はいつでもここに逃げて来い。
つまりだな、キッチンは裏切らないんだよ。
息子よ。
パパは昔、誹謗中傷を受けたことがあった。
ボコボコにやられたことがあった。
味方は少なかったし、お前を育てないとならなかった。
だから、死ぬに死ねなかった。
その時、パパを救ったのが他でもない、キッチンだった。
生きなきゃならないし、君を育てないとならない。
余計な事を考えている暇はないし、暇を持て余したやつらの批判に振り回されているわけにもいかないからな。
親というものはそういうものだ。
全ての人間には親がいる。お前にパパがいるように。
親は子供に弱音を見せるわけにはいかないからね。
パパはシングルファザーになった時、毎朝、必ず米を研いだ。
覚えているかな?
昔住んでいたアパルトマンのキッチンにもここと同じような窓があったろ?
パパはそこから空を見上げて米を研いだ。
白く濁った冷たい水の中に手を入れて、ゴシゴシ米を研ぎながら、負けないぞ、と自分に言い聞かせていた。
負けないぞ、がそのうち、美味しくするぞ、になっていった。
君が少しずつ成長する姿は、パパの喜びでもあった。
他人の悪口なんてものはだいたい信念がないからね、パパが負けるわけはない、と思っていた。確信していた。
どんなに寒い冬の真っ暗な朝であろうと、パパは小さな窓から暗い空を見上げて米を研ぎ続けた。
それが、生きるということだ。
生きるということをここで教えられた。
悔しさや後悔や悲しみをパパはキッチンで払いのけた。
ある日、気がついた。キッチンはパパにとって道場のような場所なんだってことにね。
お前も苦しいことがあればここで米を研げばいい。
いいか、キッチンは裏切らない。
息子よ。
よし、今日はパパの定番料理をお前に伝授する。
お前も大好きなイカのプロヴァンス風アヒージョだよ。
フランス風イカ飯って言ってる奴だ、あれ、美味いよな。どうする?
玄米かパスタか、パスタだったら今日は太いタリアテッレがあるけど、これでいいね、じゃあ、今日はパスタにしようか。
昨日、マルシェの魚屋で買ったイカをまず、処理する。
いいか、水を流しながら、まずはイカの中に指を入れて、ほら、コリコリした骨が必ずあるからそいつを抜き取る。
面白いくらいスっと抜けるだろ?
パパの大好きな瞬間だ。
料理は楽しみながらやるのが美味しくするコツでもあるよ。
嫌々作った料理が美味しいわけがない。
内臓もほじくり出す。全部出せなければあとで輪切りにした時に残りは処理すればいい。
骨をとって、内臓を抜いたら、イカの表面の皮を指先でちょちょんとひっかいてはぺろっと剥いでいく。
灰色のイカが真っ白になると、これまた幸せな気持ちになる。
一つ一つ制覇していけ。人生と一緒だ。美味しいものに近道はない。
そしたら、いよいよ、本題に入るぞ。
フライパンに5~8㎜程度にオリーブオイルを入れて、あまり大きなフライパンじゃない方がいい。
底面にオイルの水たまりを作るからだ。
そうそう、そんな感じ。
そしたら、そこに粗く叩き割ったにんにくとアンチョビを加えてだな、弱火で揚げ焼きにし香りをオイルに移す。
アンチョビは細かくカットせんでいい。
これが面白いくらい、自然に溶けていくんだ。
ニンニクは色づき、アンチョビは溶け出す。
時間がかかる場合は、菜箸とかでアンチョビを揺さぶってやれ。あれよあれよという間にオイルの中で粉々になる。
どうだよ、いい香りだろ? ガーリックとアンチョビのたまらん香りだ。
アヒージョというのはスペイン語で「刻んだニンニク」という意味で、南スペインでは小皿料理にこの名前が付けられている。そう、タパスで昔食べたろ? それ!
お前が小さかった頃、パパがキッチンで料理をしているとやって来て、う~ん、美味しそうな香りだね、と言った。
覚えてるだろ?
料理人は褒められると悪い気がしないからね、嬉しくなると当然どんどん料理というものは美味しくなる。
そんなものだ。人間は褒め上手になり、人間は褒められ上手であるべきだ。
そしたらそこに、輪切りにしたイカをぶち込んでだな、そうだ、いいね。
もうこれだけで美味そうが確定だが、もっと美味そうにするために、さらにここに、白ワインを回しがけするんだ。
アルコール分が飛んできたら、急いで、トマト缶を缶切りで開けてだな、中のトマトをそこに入れる。10分ちょっと煮込む。
この竹べらでトマトを崩しながら…、ちょっとやってみろ。そう、いいね。
これはもう芸術の域じゃないか?
見て分かるだろ? 匂いを嗅いでみろ、分かるだろ?
今、喜びしかない。
美味しいものがもうすぐ出来るという感動しかないはずだ。
それが生きることだ。それが料理だ。
何度でもいうぞ。キッチンは決して裏切らないんだよ。
仕上げに入るぞ。
ここに、トマトペースト、醤油、塩・こしょう、タバスコなんかを好みで加えて、味を調える。
この辺は長年の経験で、次第にこういう感じかなってのが分かってくる。
今は、言われた通りにやっていろ。でも、そのうち、自分の味が分かってきたら自己流で味付けをしていけばいい。
焦らなくていい。見様見真似でやってみろ。だんだん、分かってくる。
最後にバジルを投入し、パルメジャーノチーズを振りかけたら、完成となる。
あ、パスタ、茹でるの忘れてるじゃん。あはは、それは君の仕事だ。パパは窓からあの日の空を見上げているから、茹で上がったら、教えてくれ。
※ 動画から抜いたので色が悪いですが、本当の色は下のパスタ版と一緒なので、想像力豊かに見てやってください。笑。ぼくは、ここまで書いといて申し訳ないですが、パスタよりも、玄米版が好きです。あはは。で、上が玄米版、下がパスタ版の写真です。
しかし、お好みなので、玄米でもパスタでもどっちでもいいのだけど、YouTubeで解説している映像もあるので、ここにさらしておきます。笑。ようは、一緒です。ごはん派か、パスタ派か・・・。映像で楽しんで勉強するのもいいですね。笑いながら・・・。おすすめ。
https://m.youtube.com/watch?v=NnK6aXnYekg
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